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【2024/05/18 19:59 】 |
n061 夢幻の如く (蠣崎家)6

 南部家からさしたる抵抗もなく、三戸城はあっさりと陥落した。かねてより調略を進めていたことが予想以上に功を奏したようである。周辺の砦や町村を奪われ、三戸城は完全に干上がってしまっていたのだ。歴然とした兵力差の前に、重臣達は皆城に篭るよう訴えたのだが、そもそも武器弾薬どころか兵糧さえままならない状態であった。これでは兵の士気も上がりようがない。
 実際に攻城戦が始まっても、要所要所で守備隊の踏ん張りが効かず、戦局は一方的な展開になりつつあった。南部家逃亡兵の増加も後を立たず、ついに残すは本丸のみとなるまで、そう日数はかからなかった。だが准太や虎太郎は勝利目前の状況でも決して慢心することなく、手堅く攻め続けたので、南部側としてもいよいよ付け入る隙すら見出せずにいた。そして城内の兵糧がとうとう底をついたとの連絡を受け、当主南部信直は降伏勧告を受け入れることを決めた。
 勝ち鬨を上げる蠣崎軍の中にあって、虎太郎は隣に並び立つ准太を少々複雑な眼差しで見つめていた。いや、正確には准太が身につけている鉢巻を、である。
(やっぱり雪乃は准太のことを・・・。)
 ちくりと胸が痛むが、自分の中にある淡い想いは決して外に出すまいと虎太郎は決めている。准太も雪乃も虎太郎にはかけがえのない人である。いたずらに今の関係を壊しかねない真似だけはすまいと決めている。それに・・・虎太郎の懐には彼の身を案ずる伊予姫からの文があった。虎太郎は准太ほどは、男女の心の機微に疎くはないつもりである。伊予姫から向けられる想いと、雪乃へ向ける自分の想い、そして雪乃が准太を慕う気持ちをすべて理解した上で、人知れず虎太郎もまた悩んでいるのだった。
   

 蠣崎季広は外交政策を宇津居伯楼ら重臣一堂に任せ、自身は安定した領国経営を行うため、更なる収益改善を目指して、金山の開発を進めていた。何度も空振りを繰り返したのだが、季広はそれにもめげずに、採掘師共々、根気良く鉱山開発を続けていたところ、ついに金が出たとの報告が上がった。狂喜した季広は己の目で確かめるべく、坑道に出かけたのだが、予想以上に良質の金がふんだんに採れることを知り、安堵したのだった。交易一辺倒だった商人頼みの税収だけでなく、金による安定収入が見込めるのだ。経営力の強化は、きっと蠣崎家の大きな力になること間違いなしである。
 

 やや南では伊達家当主の輝宗が嫡男政宗に撃ち殺されるという事件が勃発したり、真田家に十勇士を名乗る怪しげな集団が集結したり、蠣崎家が徐々に領土を広げてる最中、世間では急速に物語が進んでいるのであった。
 
「・・・獅子王さん。」
「草次か、何だ?」
「伊達輝宗が死にましたよ。二本松義継の道連れに、ね。」
「ははは。これで東北は益々混迷を極めるな。」
「獅子王さんの思い通りに事は進んでますね、光秀の時も然り。」
「この世は所詮弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。それが理というものよ。」

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【2016/04/17 02:12 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n060 夢幻の如く (蠣崎家)5
 
「解せぬ。何なのだ、蠣崎の面々は・・・。」
「いかがなされた?分武殿・・。」
 恐ろしく神妙な面持ちで廊下を歩く分部尚芳の様子が気になり、同じく蠣崎家に降った元津軽家臣の沼田祐光は彼を呼び止め、自室へと招きいれた。
「いかがも何もおかしいとは思われぬか、沼田殿は?」
「一体何の話をされておるのだ。さっぱり要領を得ぬが。」
 先を促されて、ようやく分部は話し始めた。曰く、蠣崎家の面々には野心というものが全く見当たらぬということらしい。ついこないだ蠣崎家は敗将としても見事と感嘆するしかないほどの戦ぶりで津軽家を攻め滅ぼし、二カ国を領有するに至った。紆余曲折こそあったが、分部も沼田も新しい奉公先で目覚しい働きを見せんと忠勤に励んでいるところである。
 だが肝心の蠣崎家の面々は当主・蠣崎季広からして更なる領土拡張を望んでなどおらぬらしい。先の戦はあくまでも災いを齎さんとする津軽家という火の粉を払い除けたに過ぎぬのだ。
 武士を名乗る以上、己の武を以って功名を上げ、広大な領土を手に入れ、後世の歴史に称えられるほどの名声を残すのが本懐ではないのか。当主ならば数多の戦に勝ち、日本中の大名を軍門に下らせ、天下統一を成し遂げることが夢ではないのか。そういった気概が蠣崎家の面々から全く見られないのである。
「皆、現状に満足してしまっているように見える。それでは新参者の我らは、このまま何の功名を挙げることもなく朽ち果てるしかないのか。それではあまりに情けないとは思われぬか。」
「ごもっともにござる。某も武士として野心の一つや二つは持っておる。このまま終わるのはあまりに無念でござる。だが心配御無用、今は戦国の世にござる。野心なき力なぞ、隣国の南部家を初めとして誰にも理解できぬものであろう。今の貴殿のようにな。そして人は不可解なものには恐怖を覚えるのだ。今頃南部家は、蠣崎家に対抗するべく戦支度を整えている頃であろうよ。・・それに某に一計がござる。」
 そう告げると沼田はにんまりと笑って見せ、分部に彼の謀を説明し助力を求めた。



 ほどなくして蠣崎家の空気が徐々に、だが確実に変わり始めた。専守防衛を常としていた蠣崎武士だが、若手を中心に蠣崎による天下統一を論じる者が増えたのである。
『戦の世が続けば、泣かされるのはいつも無力な民だ。我らが季広公のような名君にこそ、天下を統一し、泰平の世を築いてもらうべきではないか。』
『室町幕府なき今、正しく力があるものが世を導かねばならぬ。』
『京の都は、織田信長亡き後、羽柴秀吉や織田秀信、柴田勝家らが 覇権を競う舞台となっておるらしい。帝の苦悩が偲ばれる。御労しいことよ。』
『隣国の南部家が国境に兵を集結させているらしい。我らも手をこまねいている訳にはいかぬ。』
『もっと軍備の増強を!蠣崎家に栄光あれ!』


「最近家中が騒がしいとは思わぬか。」
「若い奴らがいきり立っているようだの。天下がどうしただの、朝廷がどうしただの、どうにも地に足が付いていないような議論ばかりしておる。一体どこの誰に吹き込まれたのやら。それ、この一手はどうじゃ。」
「くっ。そこで歩が成るのか。容赦ない一手じゃの。」
 遼太郎の家を竜之介が訪れて、将棋に興じているところである。
「うちの虎太郎もすっかりかぶれてしまったようでな。まるで古代中国の縦横家にでもなったかのようじゃ。」
「かかか。准太も似たようなもんだな。熱に浮かされたことをほざく前に、槍の一つでも振るえと言ってやったところだ。」
「お前のことだ。どうせ既に震源地も掴んでるんだろ。」
「・・・確証はないがな。最近沼田殿と分部殿がいろいろと若い輩に吹き込んで回っているようだ。」
「放っておくのか?」
「いいんじゃね。別に二心がある訳でもなさそうだし。覇気がありすぎる咎で、牢にぶち込む訳にもいくまいて。それ王手だ。」
「ま、待っ・・」
「待ったは無しだぜ。これで通算348勝347敗だな。くかかかかっ。」


 話は変わるが、蠣崎家中において、すっかり技術研究と文化振興の中心となった宇須岸館は、君命により名を『鶴目華虜』と改める事になった。【鶴のような優美な鳥でさえ、華やかなりし技術の中枢に目を奪われ虜となる。】という意味が込められているとかなんとか。名称については家臣の間でもいろいろと話題になったが、季広の意向に異議を唱える者はとうとう現れなかったという。


 年が改まり、国境沿いでの田畑に関する農民同士の争いに端を発した蠣崎家と南部家とのいざこざは遂に兵を派遣するに至り、分部尚芳の活躍により、南部領の奥深くに蠣崎家の支城・剣吉城を築城することに成功した。おかげで東陸奥の大部分に蠣崎の影響力が及ぶようになり、かの領土の実効支配は南部家から蠣崎家に移ることになった。この快挙に家中は沸き、将器を示した分部と軍師として彼を支えた沼田は家臣団の中でも発言力を増しつつあった。さらに沼田の進言で、余勢を駆って剣吉城の南に砦を築くことにも成功し、防備は万全となった。
 おかげで南部家の領土はわずかとなり、衰退が著しく存亡の危機に立たされることになった。満足な給金を払うことも叶わず、家臣団の不満は少しずつ溜まっているようである。
 

 そして遼太郎にとある軍命が下った。
『築いたばかりの砦に敵の目が奪われている間に、4千の兵を率いて単身裏街道を抜け、敵方の町を制圧せよ。』
 これには当の本人ではなく、竜之介が反発した。
「敵方の奥深くに潜入するに、兵がたった4千とは!遼太郎に死ねと申されるのか。」
「お言葉が過ぎましょうぞ、竜之介殿。君命にござる。」
「新参者が出すぎたことを申すな!沼田殿、そなたに殿の何が分かるというのじゃ。」
「これは異なことを申される。新旧関係なく、広く家臣の声を聞こうと申されたのは他ならぬ貴方様にござる。そして殿にはきっと深い考えがあってのことと、某は愚考つかまつる。我らは只その御意に沿って動くのみでござろう。」
「よう申したな!この・・」
 なおも言い募ろうと顔を真っ赤にする竜之介を、遼太郎がそっと制した。これ以上何も言うなと暗に目で伝える。

 
 憤懣やるかたない様子の竜之介を自宅に誘い、茶を勧めながら、遼太郎は語った。
「今回の君命、どうも沼田殿が裏で手を回したらしい。」
「あいつが?なぜ?」
「分からんよ。重鎮の俺達を目障りに感じたのかもしれんな。こうもあからさまな手を打ってくるとは俺も思わなんだ。殿への忠義は疑うべくもなかろうが、なかなか厄介な御仁だな。」
「いっそ追放してやろうか。」
「やめておけ。沼田殿は分部殿と共に今や蠣崎の主戦派の中心だ。それに剣吉城の一件で、若手や中堅どころの間でも大いに株を上げている。彼を糾弾したところで、結果お前が立場を悪くするだけだろう。」
「しかし、このままではお前が死地に飛び込むことになるぞ。」
「何とかなるさ。いずれ沼田殿や分部殿にはきっちり返礼をするとして、今回は素直に君命に従うとしよう。」
「・・死ぬなよ。将棋の勝負はまだ最中だ。勝ち逃げされては困る。」
「かかか。そうだな、無事に生きて戻って、そなたの悔しそうな面をもう一度拝まないといけないのう。」

 春の到来を待って、三戸城から南部信直勢が砦に襲い掛かった。しかし砦の守りは固く、頑強に抵抗を続け、戦は一進一退の様相を見せた。そして、かねてからの計画どおり遼太郎は約4千の兵を率いて、裏街道を進軍した。

【2016/03/05 23:43 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n059 夢幻の如く (蠣崎家)4
「射かけよ!」
 蠣崎勢が一斉攻撃を仕掛ける中、 大浦城内からは鉄砲が雨霰と撃ちかけられた。指揮を執るのは軍師・沼田祐光である。間断なく寄せ手に対して銃撃し、付け入る隙を与えようとしない。ようやく銃声が止んだかと思えば、分部尚芳率いる騎兵隊が城門から飛び出し、蠣崎勢に更なる出血を強いた。
「おうおう!敵方もなかなかやりよる。」
 敵ながら天晴れと感嘆して竜之介が呟いた。津軽勢の中にも智将、勇将の類がいるようである。実際、沼田と分部の連携は神がかっており、騎兵隊を包囲殲滅しようとすれば、城内からの銃撃がそれを妨害し、銃撃の死角をついて攻城兵器を近づけようとすると、騎兵隊が邪魔しに来るという按配であった。
 だが惜しいかな、彼らが率いる兵・弾薬の数は、この広い戦場の中でごく一部にしか影響していない。そして全体を俯瞰してみて、ほぼ全ての局面で優勢なのは蠣崎勢だった。竜之介の先見に頼らずとも先陣を預かる准太と虎太郎の勢いがそれを物語っている。
「その首、頂戴仕る!」
 槍を扱いて、二度三度と准太が津軽の将と打ち合い、相手を馬から叩き落としているのが遠めにも分かった。援軍に駆けつけた敵将をも一突きで片付ける様を見て、津軽兵はすっかり恐れをなし、准太隊が進むところ、次々と恐慌に陥るようであった。
 虎太郎はというと、巧みな用兵を見せていた。自分の隊の陣形を相対する敵に応じて、次々に柔軟に変形させ、中央突破を図ったり包囲殲滅したりと、こちらもまた縦横無尽に活躍している。
 個の武を極め、その己の武を以って率いる兵を奮い立たせる准太と、巧みな用兵術で兵を手足のように操る虎太郎は、武人としての種は違えど、それぞれ立派な武者ぶりを見せ付けていた。

「御子息も准太殿も立派なお働きですな。」
「なんのなんの。彼奴らめ、まだまだ青二才でござる。」
 本陣から遠巻きにして、戦場を眺める伯楼が呟くと、竜之介は憎まれ口を叩いた。が、微笑を浮かべている辺り、正直悪い気はしていないようだ。

 若手を中心とした蠣崎兵の反抗に遭い、さしもの分部尚芳も城に篭らざるを得なくなった。城内の弾薬も尽きかけており、いよいよ津軽兵の敗色は濃厚となった。しかし当主・津軽為信はあくまでも徹底抗戦を唱え、離反しようとした将兵は容赦なく処罰すると息巻いていた。
「ぐっ、この勢いを止めること叶わぬか。だが最後の一兵になるまで戦い抜くのじゃ。泣き言を申した者は、誰であろうと容赦なく叩斬ってくれるわ。」


 津軽為信という男、決して卑怯者でなく臆病者でもない。そして才能はというと、無能とは言えずむしろかなり有能な部類に入るだろう。だがしかし、それはあくまでも個人としての話。彼は皆が自分と同じように出来るとは限らない事をことさら認めようとはしなかった。結果が出せないのは努力が足りないからだと考える思考の持ち主だった。彼の立てた作戦が失敗するのは、作戦が悪いのではなく実行者の責任であるのだ。弱者に対して酷薄であり、無能者に対しては冷酷だった。
  大浦城にいよいよ火の手が回っても、彼は落ちることを潔しとせず、沼田らの制止も聞かずに、蠣崎兵と斬り結ぶよう下知を飛ばしていた。が、最後には突入してきた准太、虎太郎ら蠣崎兵との乱闘になり、数合にも及ぶ死闘の末二人によって捕縛されてしまったのだった。それを以って准太らは蠣崎兵に鬨の声を上げるよう号令し、津軽兵には武器を捨てるよう伝えさせた。とうとう大浦城が陥落したのである。


 戦後処理が行われ、津軽為信は情状酌量の余地なく、斬首されることが決まった。彼の才を惜しむ者もいたが、季広より全権代行を任された伯楼の判断は覆らなかった。
「彼が将となれば、多くの兵が死にます。」
 伯楼は情報収集により、為信の気質、将としての器などを正確に把握していたのである。その判断に長老格の遼太郎や竜之介も異議は唱えなかった。数日後には為信は刑場の露と消え、ここに津軽家は滅んだのであった。為信に仕える将達は皆一度は忠義を示し、蠣崎家を主家と仰ぐことを拒む者が多かったが、遼太郎らの必死の説得により沼田や分部といった有力な将兵が新たに仲間入りを果たしたのだった。


 蠣崎家は二カ国を領する大大名となった。本州に領土を手に入れたことで、最早交易封鎖される心配もなく、蠣崎家の近年の不安は払拭されたと言ってよい。だが一つの懸念がなくなっても、それは新たな懸念を生み出す土壌となるに過ぎないのかもしれない。大浦城の伯楼から齎された文を読んで季広は顔をしかめた。『東陸奥の南部家に不穏な動き有り。』


 宇須岸館では北田真之丞が、小麗姫と共に研究開発の任についていた。小麗姫にとってはまさに蜜月の機会到来であり(晴雅もいるのだが、眼中に入っていない。)、真之丞に熱烈求愛中であった。こちらもまた陥落間近・・かもしれない。
【2016/03/01 13:16 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n058 夢幻の如く (蠣崎家)3
「退け!退けえええぇ!」emoji
 虎太郎の下知が伝わると、蠣崎軍は泡を食ったかのように撤退を始めた。ある者は槍を落っことし、ある者は落馬し、全身泥に塗れながら、満足に統率も取れない状況で個々人ががむしゃらに戦場から離れようと逃げ出していく。見るも無残に潰走して行く様を見た津軽家守備隊は大いに喜び、すぐさま砦から追撃隊が繰り出された。この機会に徹底的に蠣崎家を叩きのめそうというのである。
「おお。守備に徹すべき敵が追い討ちしたくなるほどの無様な敗走振りよの。全くこういう演技ばかり上手くなりよって。虎太郎の奴め、兵に何の調練をしていたんだか・・。」emoji
 はるか後方の山中から戦場全体を俯瞰していた竜之介は苦笑いしながら、森林に潜む准太隊に合図を送った。潰走(あくまで擬態である。)を続ける虎太郎隊を追う津軽軍が森林の中の間道に差し掛かった時、突如として准太率いる伏兵隊が襲い掛かった。



 話は遡ること3ヶ月前、夏の間に兵の増強を果たした季広は秋の到来を待ち、満を持して宇須岸館に拠る全軍に出陣を命じた。本格的な冬が到来するまでに渡海を果たそうというのである。幸いこれを予期して、早期に秋の収穫を終えていた宇須岸館の兵はいつでも全軍が出陣できる状態に会った。遠征軍本隊の指揮は軍事奉行の宇津井伯楼が任じられた。その他一軍に虎太郎、二軍に准太、状況に応じて臨機応変の働きをすることになる予備軍に長老格の竜之介という布陣である。また別軍として工作隊の指揮を任じられたのは、同じく長老格の遼太郎であった。
「親父、大丈夫かな。重要な任務を任されたけど。」
「准太は父君を過小評価しすぎだって。遼太郎様の工作手腕は、蠣崎家で右に出る者がないだろう。」
「それは知ってるって。技術どうこうはいいんだよ。肝心なのは戦場での胆力っつーかさ。敵兵の矢弾がばんばん飛んで来る中で、城を築かないといけないんだぜ。あの泣き上戸にそれができるか不安なんだよ。」
「それこそ大丈夫だろ。遼太郎様のここぞという時の胆力は父上に勝るとも劣らないって、常日頃から父上が仰られているから。」
「・・竜之介様がねえ。何かの間違いじゃないかな。」



 准太の奇襲が功を奏し、見事津軽軍の追撃隊を壊滅せしめた蠣崎軍は、兵力の半減した砦に総攻撃をかけ、砦に篭る守備隊を駆逐することができた。
「この砦は出城を築くまでの後方拠点として活用する。」
 津軽方の砦に入った軍団長の伯楼はそう宣言した。これから本州側の軍事拠点の築城に係るが、それまでは攻略したばかりのこの砦を流用させてもらうつもりだ。幸い蠣崎全軍の兵を収容することが可能なだけの広さと設備は整っている。無論支城が完成した後は、無用の長物となるので放棄することになる。賊どもの巣窟になっても困るので、その際は火にかける予定だ。

 いよいよ遼太郎隊による築城が始まった。当初の作戦どおり砦と大浦城の中間ぐらいの位置に支城を築く予定である。無論津軽家としては、本城の目と鼻の先に城を築かれてはたまらない。それを許しては西陸奥の北半分の領地の実効支配を手放したも同然である。すぐさま軍師・沼田祐光率いる1万1千余の軍勢が出陣してきた。それに対して、宇津井伯楼も遼太郎隊の護衛の為、砦に篭る1万6千の兵に迎撃を命じている。
「兵糧が心許ない。遼太郎殿・・・早く城を完成させてくれよ。」
 
【2016/02/28 10:28 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n057 夢幻の如く (蠣崎家)2

「殿、由々しき事にございまする。」
 季広の元に西陸奥に放っていた斥候から情報が齎された。津軽家が本州の北側玄関とも言うべき、十三港近くに砦を建設し、商人などの往来に厳しい制限を設けているとのことである。これは交易路の事実上の封鎖とも言ってよく、事態を放置すれば蠣崎家は真綿で首を絞められるように徐々に衰退への道を歩むことになるであろう。
 事ここに至って、季広は家臣一堂を城に召し出し、評定を開いた。
「皆に集まってもらったのは他でもない。聞いてはおろうが、津軽家が本州の入口を閉ざそうと画策しておるようじゃ。近年の奴らの行動は目に余るものがあった。これまでは『こちらから戦の口実を与えることなかれ』と口を酸っぱくして言ってきたが、そろそろ潮時のようじゃ。そこで今後の蠣崎家の方針を定め直す必要があると儂は考える。忌憚なく意見を述べてみよ。」


 季広の御意を得て、まずは兵士の調練を任されている虎太郎が末席から声を張り上げた。
「津軽家即討つべし!殿の温情を良いことに、節度を弁えぬ彼奴らの振る舞いようは最早許しておけませぬ。即座に兵を挙げ、津軽家に戦を仕掛けるべきかと心得ます。」
「馬鹿を申すな、俊勝!」
 ご意見番の山中竜之介が一喝するが、虎太郎はいつもと違い父親に窘められても引き下がろうとはしなかった。
「父上は彼奴らの暴挙を見過ごせと申されるのか!?」
「・・誰もそんなことは言うておらぬ。」
 竜之介が嘆息を交えながら、季広を見やる。季広は続けろとばかりに頷いた。
「御意を得て、私の存念を申し上げます。ここ蝦夷より陸奥の地までは、歩兵の足と船旅を合わせて約3ヶ月の時を必要とします。無理な遠征は兵站を困難にし、一度戦に敗れれば、兵の退却は至難を極めましょう・・・」
 気色ばんで准太が声をあげた。
「山中様の申されよう、一々最もでございます。では我らは津軽家に一太刀浴びせることは叶わぬのでありましょうか。」
「准太、そうではない。私は無理な遠征は禁物と申しておるのじゃ。まずは・・」


その壱 函館港の近くに支城を建て、前線拠点とする。
その弐 十三港を押さえ、そのままの勢いで砦を陥落させる。
その参 砦跡と大浦城の間に再び支城を築く。
その四 支城を新たな拠点として津軽家の版図を少しずつ削りとっていく。


 山中竜之介という男。齢は五十を過ぎ、老境に差し掛かった今、若かりし頃の筋骨隆々な体つきは最早見るべくもない。髪は随分と白いものが交じり、声の張りにも艶がなくなって久しい。しかし精悍な顔つきは見る者の居住まいを正させ、鋭い眼光に晒されれば臆病なものは逃げ出してしまうほどであり、准太や虎太郎に至ってはまだまだひよっ子扱いである。老いて益々意気盛んな武者ぶりであった。
 結局、これといった異論もなく、竜之介の示した策が季広によって取り上げられた。季広は早速、宇津井伯楼を軍事奉行に任じ、兵の増強を命じた。また准太には函館築城に当たって最適の地を探すよう命じた。また真之丞には財政の大掛かりな出動を許可し、破綻せぬ範囲で伯楼や准太の要望を叶えてやるように命じた。虎太郎には引き続き兵の調練を行うよう申し渡すのも忘れてはいない。
 季広の命が全員に行き渡ったところで、評定は終わりとなった。


 別室に下がった竜之介は遼太郎と共に庭を眺めながら、先ほどの評定を回顧していた。
「しかし何も私に言わせなくても、お前の策はお前自身で言えば良かったんじゃないか?」
「良いんだよ。どうせ俺が何言ったって、愛息が反発するのが目に見えてるし。ぐすっ。」
「・・若い頃と違って、すっかり涙もろくなったな、お前。」
「うるさい。お前は落ち着きすぎだろーが。年寄りくせえ。」
「はは。ともかくあいつ等はまだまだ危なっかしいところがあるからな。私達がある程度導いてやらねばなるまいて。」
「それこそ上手くいくとは思わん方がいいぞ。俺らも年を取ってしまった。」
「まあ布団の上で死ぬことは叶わんかもなあ。だが戦場での討死は武士の本懐、望むところじゃて。」

 
 遼太郎と竜之介のいる部屋とはちょうど庭を挟んで向かいに当たる部屋では、蠣崎慶広の長女・伊予が髪結いの儀に臨んでいた。祖父季広からは、蠣崎家の姫としてどこに出しても恥ずかしくない娘だと可愛がられている。
「ああ、准太様・・。」
 ここにも恋に恋焦がれる娘がいた。

 

【2016/02/22 23:23 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
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