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【2024/05/05 05:10 】 |
n066 夢幻の如く (蠣崎家)11

 准太と虎太郎は子を授かった。義統と羽咲の誕生である。すでに戦場にあって、出産に居合わせることは叶わなかった2人は、その日知らず父親になっていた。伊達家との死闘の最中にあって、特に准太の活躍は目覚しく、また虎太郎のそれも獅子粉塵の働きと呼べるものであった。伊達家も守りの要ともいうべき城の防衛に必死だったのだが、最後の最後には新しい世を牽引するべく燃え上がる若い力の勢いが勝ったのだろう。米沢城主は自刃を遂げ、主だった家臣団は黒川城での再起を図って落ち延びていった。
 

 こうして蠣崎勢はとうとう米沢城の攻略に成功した。

 
 さらに伊達家に止めを指すべく、間髪いれず蠣崎勢は黒川城への進軍を開始した。しかし米沢城、山形城は相次ぐ連戦により、防衛体制が整っておらず、兵数が圧倒的に少なかった。
 それを狙ってか、あろうことか秋田家が突如同盟を破棄し、空白地帯となった山形城へ向けて、進軍を開始した。良好な関係を築いていた秋田家の裏切りに蠣崎家中には動揺が走る。まさに驚天動地ともいうべきことで、其の知らせを受けた慶広もまたすぐには信じられなかったほどである。裏切りは戦国の世の常とは言え、あまりに不可解な出来事に、不審に思う者も現れた。
「我らには想像もできないような途方もない悪が、闇で蠢いているのではないか?」
「戯言を申すな。戯曲でもあるまいし。」

 
 そんな中、黒川城の攻略に向かった虎太郎や准太達は、秋田家の裏切りを知らぬまま、黒川城の攻略を開始し、ほどなく攻略に成功した。すでに米沢城のような大兵力もなく、更に言えば、佐竹家との防衛線に辛勝した直後のことである。名将政宗といえど、最早戦う力は残っていなかった。ここに東北の雄・伊達家は滅ぶ。伊達政宗を初めとして、伊達家の諸将は蠣崎家に降伏を潔しとせず、皆自刃しようとしたが、駆けつけた蠣崎家の使者・遼太郎の必死の説得のかいもあって、皆慶広の許しを得て蠣崎家に召抱えられることになった。

 
 さて、蠣崎の南北に長い領土のど真ん中にある陸奥の地を領有し、長らく盟友の名を欲しいままにしてきた秋田家の脅威の裏切りを受け、山形城引いては蠣崎家未曾有の窮地を救ったのは、なんと沼田祐光であった。大浦城を進発した彼は、山形城攻略のため主軍が抜けて手薄になった秋田家の居城・檜山城へと進軍を続けた。途中にあった砦の攻略を開始したところで、急報を受けた秋田家の主軍が取って返してきて沼田軍とぶつかったのである。そうなるを予期していた沼田は罠を仕掛けており、この戦いで秋田家は主将・安藤愛季を討ち取られるという大損害を蒙った。
「おのれ、沼田ぁ!そなたの誘いを受けた我らを・・ぐわぁ!」
「ふん。」
 戦場で沼田と相対した安藤愛季は、恨みがましい目をしながら何かを言い募ろうとしたが、以降の言葉は永遠に語られる事はなかった。否、出来なかったという方が正しい。相対する沼田自身によって一刀のもとに斬られたのだから。
 沼田は相応の戦果を上げた後、大浦城へ撤退。一方の秋田勢は砦を修復し、結果としては沼田軍を撤退させたとして、勝利を声高に宣言し、檜山城へと帰還した。だが双方の兵の損害数、名だたる将の生還率、どれをとっても勝利の女神はどちらに微笑んだかは明白であった。
 この檜山事変を以って、沼田を中心とした大浦城の面々の評価はうなぎのぼりに向上した。まず周辺の治安の悪化を防いだとして有言実行の働きをしてみせた沼田祐光は、その正当性を蠣崎家臣団に納得させた。一部の者を除き、少なくとも表立っては大浦城で大兵力を擁することに否を唱えるものはいなくなったのである。
 また当主季広は、遠からず沼田に官位を授ける意向を示した。すでに朝廷にたいして働きかけを始めているとのことである。正式に上奏が認められれば、季広は自ら大浦城に出向き、沼田の労を労うことも宣言した。その際は旧知の分部にも大浦城に赴いて祝福するようにとの下知もなされた。
 それまであまり朝廷や彼らが授ける官位というものに、地方豪族よろしく重きを置いてこなかった蠣崎家では、この頃からそれらに相応の価値を認めるようになってきていた。公家の慣わし、しきたりを学び、宮中の作法にも通じる家臣を重用するようにもなっていた。そんな状勢下での沼田の受官の話である。また沼田に付き従って戦った戸沢盛重、戸蒔義広、佐久間安政の大浦城代家老衆の功名も認められ、俸禄の加増がなされた。誰の眼にも大浦城の面々には栄光の春が訪れたと映っていた。 


 蠣崎家の混乱を見逃さず、最上家は新たに蠣崎領となった伊達家の旧領を次々に掠め取る作戦に出てきた。黒川城の修復や周辺の治安の回復に手間取り、蠣崎家はなすすべもなく、領地を次々と奪われることになった。
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【2016/07/05 03:27 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n065 夢幻の如く (蠣崎家)10
米沢城の攻略に向けて、蠣崎家は2万の軍で進攻を始めた。しかし米沢城は利府城と並んで伊達政宗自ら普請を手がけた堅城である。規模が大きく、防衛設備も整っており、まともに攻めれば相当の被害を覚悟せねばならないだろう。折しも虎太郎達が到着する前に、黒川城から政宗自ら率いる1万が到着したとの報も伝わった。
 蠣崎勢が米沢城を前にして用心しながら陣の展開を始めるも、戦巧者の伊達勢は容易に城の外へ打って出ようとはしない。痺れを切らした虎太郎が総攻撃を命じるが、米沢城はとにかく固く、城兵もまた粘り強く反撃してくるため、攻めあぐねてしまった。そうこうする間に、夜襲やら何やらと休む暇もなく、伊達勢が嫌がらせを続けてくる為、虎太郎は一旦、山形城への転進を決意した。
「まだ時は満ちていないようだ。」
 蠣崎勢の撤退する様を見て、勝ち鬨を上げる伊達勢の様子を後背に感じ取りながら、ぽつり呟いて虎太郎は山形城を目指した。
 山形城に入った虎太郎達は鋭気を養う為、当面は内政に専念することにした。山形城の再奪取を試みる最上と、余勢を駆って攻め来る伊達を気にしなければならず気を抜くことはできなかった。それに加えて、不気味な沈黙を保つ大浦城にも虎太郎や准太は心を配らねばならなかった。獅子身中の虫とはよく言ったものである。


 だがそうこうしている間に山形城に吉報が届いた。なんと利府城から進発した工作隊が米沢城周辺の村々の取りこみに成功したというのである。利府城に残った伯楼が少しでも虎太郎達の援護になればと、策を巡らしたのだ。特に伊達家お抱えの匠集団が集う街を接収できたのは大きな功績だった。それは伊達家の鉄砲技術が衰退することを意味しているからだ。しかも砦を米沢城近辺に建設することに成功したとの続報まで届いた。これで事実上、米沢城の北側と東側を蠣崎領とすることに成功したのである。


 折しも東北南部の雄・佐竹家が黒川城へと攻め寄せた。衰退著しい伊達家を接収すべく、ついに動いたのである。しかし政宗も負けてはいない。果敢にも自ら手勢1万の軍を率いて、それを迎え撃った。だが、それは黒川城に駐屯する伊達家の主だった軍がとても米沢城の救援に行ける様な状況ではないことを意味していた。伊達の頼みの綱である最上家もまた山形城を失ったことによる痛手からまだ回復できていない。蠣崎家にとっては千載一遇の好機到来である。ここからが世に言う米沢の戦いの本幕の始まりであった。


 大浦城では、城主沼田を主君と仰ぐ面々による評定が開かれていた。戸沢盛重、戸蒔義広、佐久間安政の大浦城代家老衆である。彼らは皆、蠣崎家にあって、主流筋から外れた者達であった。僻みや妬みもあってか、いずれの者もどことなく陰気な雰囲気をまとっているのが共通している。中でも最近柴田家(現氷室家)を飛び出して、新たに加わった佐久間安政はその類まれな容姿に比例して、陰惨な噂が付きまとっていた。
 今日も今日とて、前線での虎太郎達の活躍ぶりを全く面白くなさそうに話し合っている。
「前線が南へ南へと動いているようにございますなあ。」
「伊達相手に随分と猛威を振るっているとのこと。」
「米沢城陥落も間近とか。」
「しかし、其の分利府城以北の領地が空白状態になっているぞ。」
「まこと、主筋の方々は前しか向いておられぬ。困ったものよ。」
「くっく。一応、表立っては後方に控える我らがその空白地帯で不測の事態が起こらぬよう、目を光らせておることになっているのだがな。」
「それ故、我らが自由にやれるというのもありますがな・・。」
「それにしても最上も伊達も不甲斐ないことよ。せっかく我らが裏で支援してやってるというに。」
「恩を売って、我らを高く買ってもらおうという算段が台無しですな。」
「蠣崎が負ければ良し。勝っても窮すればなお良し。どちらにせよ、我らに損はないよ。」
「そのとおり。それこそ我らの蠣崎の内での地位が相対的に上がるというもの。無駄に5万もの兵を養っておるわけではない。」
「左様、左様。後は我らが主に蠣崎の中枢に立ってもらい、思うが侭に権力を振るってもらえばよい。蠣崎が潰れたとしても、最上や伊達は我らを高待遇で迎えてくれることになっておる。どう転んでも勝利の美酒は、我らに飲み干されるのを待っておるようじゃ。くくくく。」

  
  佐久間安政は評定を終えた後、自邸へと戻ってから二通の書状を瞬く間にした為、気を揉む家臣を横目に子飼いの乱波を呼んで申し付けた。
「こちらの書状は佐渡島殿へ。こちらは岡倉殿への書状じゃ。努々間違えるでないぞ。迅く行け。」
「はっ。」
「・・とっ、殿!いくら腰掛とは申せ、主家蠣崎に仇なそうとする沼田殿に与力し、更に裏では二組もの闇と気脈を通じていては、命がいくつあっても足りませぬぞ!」
「ふふ。戸沢殿や戸蒔殿のような視野の狭い者らと付き合っておるだけでは肩が凝るわ。本気で沼田殿が蠣崎の中枢に立てると思っておる。その下で甘い汁を吸うことしか考えておらぬ小物と本気で付き合っていてはこちらの身が滅ぶのみじゃ。大丈夫、いずれ佐渡島殿や岡倉殿との絆が生きてくる。利害が一致している間は奴らも俺を無下に扱ったりはせぬ。これが世渡りというものよ。私の処世術を傍でしっかり見ておけい。ふはははは。」
 この佐久間という男、後に蠣崎家を出奔し、織田家、果ては島津家と主家を次々に変え、悉く准太達の前に立ち塞がるのだが、今はまだ先の話である。
【2016/06/08 01:02 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n064 夢幻の如く (蠣崎家)9

 強大化する沼田への牽制の為、遼太郎は一計を案じ、大浦城周辺の城主に居城の改築を進めさせるよう取り計らった。表向きは伊達家と盟友関係にあり、蠣崎家と急速に緊迫状態にあった最上家への備えである。

 
 幸か不幸か、城の改築と周辺の防衛網構築を一段落させたばかりの名生城へ、最上家が進撃を開始したとの報告が物見より齎された。その数、凡そ2万。名将・最上義光率いる進攻軍の足は早く、あっという間に国境にその姿を現した。5千の兵しかいない名生城には緊急事態である。城主・大崎義隆は名生城の更なる改築と防衛網の強化を進める一方、救援要請の使者を利府城にいる慶広の元へ送った。


 要請を受けた慶広は直ちに軍議を開き、名生城の窮地を救う方法を諮った。准太は直接名生城へ救援に向かうのではなく、最上軍の拠点である山形城へ兵を向けることを提案した。自分達の城が攻められていることを知れば、名生城へと進攻を続ける義光も退却を余儀なくされると踏んだのである。しかも上手くいけば手薄となっている山形城を落とすこともでき、更には拠点を失って混乱する義光軍を一気に壊滅に追い込むことも不可能ではない。
 策の説明を受けた慶広は、膝を打ち、准太・虎太郎の両名にすぐに出陣の準備に取りかかるよう命じた。戦支度の為に騒然とし始めた利府城内に、時間稼ぎを狙ってか、伊達家から捕虜返却の交渉をしに有希姫がやってきた。
「・・殿を返して頂けませんか?」
「ふむ。しかし捕虜は戦の世の常。命をかけて戦った証でもある。ただ返したとあっては、家臣にも申し開きできぬが。」
「無論、見返りも用意してございます。当家に伝わる先祖伝来の家宝を差し出す所存。」
「魅力的な申し出ではあるが・・やはり駄目だな。お父上にはそう伝えて下され。」
「わかりました。では力づくで取り返すとしましょう。」
「ああ、全力で迎え討とうぞ。」


 准太・虎太郎率いる2万5千の軍勢が山形城南に位置する伊達家の砦の攻略を始めた。伊達家からの要請を受け、山形城に篭る1万の兵が出張ってきた。この時点で山形城には僅か1千の兵しか残っていない。


 柴田家では当主になったばかりの勝豊が急死し、無名の氷室安曇という者が跡を継いだとのことである。二代続けて当主が死去したことで柴田家は混乱の極みにあった。弱体化は否めないであろう。まさに新当主となった氷室の手腕が試されている。

「獅子王さん、ただ今戻りました~。」
「帰ったか草次。」
「ああ焙磁さん、これ北陸土産の饅頭です。皆さんでどうぞ。」
「勝豊はどうだった?」
「今際の際に必死に命乞いをしてきました。『金ならいくらでも出す。』とかなんとか。養父の時とは全く違いましたねえ。」
「器の違いだな。所詮人の上に立つ人物ではなかったということだ。」
「これで獅子王様の思惑どおり、中央は均衡が崩れましょう。羽柴と織田の両家の決戦も間近です。」
「妙な三すくみ状態だったからな。俺はただ一角を崩して膠着から脱する手助けをしてやっただけよ。ところで東北の方はどうだった?」
「焙磁さんが仰ってた蠣崎家とかいう地方の豪族のことですね。確かにめきめきと頭角を現してきてましたねえ。こないだも伊達政宗が一敗地に塗れてましたし。伊達も最上も蠣崎の傘下に入るのは時間の問題じゃないかなあ。」
「で、渡りの方はどうなってる?」
「家老の一人を懐柔することができました。あの者を通じていつでも彼の地で動乱を起こせます。」
「使えそうな奴なのか?」
「当人の器量はともかく、抱えている兵力、地理的優位は十分手駒としての役割を果たしてくれそうです。」
【2016/06/02 01:12 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n063 夢幻の如く (蠣崎家)8
・・名生城が落ちた。

      
 名生城に入った蠣崎勢だが、捕虜の処遇や町の被災状況確認などを優先し、破壊された大手門や石垣、壁などを復興を後回しにしていた。防衛施設の補強や修復よりもまず人心を得ることを重んじた・・というわけではない。実際城の石垣や壁は至る所で破損したまま放置されており、まだ火が燻り続けているようなところもあった。隣接する伊達家や最上家からの進攻の脅威があるため、無論このままの状態で良い筈はなく、防衛強化を怠れるものではないのだ。
 正直なところ前線に赴いている武将達のほとんどが武闘派であり、内政手腕に長けた者の頭数が少なく、限られた人材だけではなかなか手が回らないという事情があった。しかし名生城は今後、伊達家攻略の足がかりにするべく最重要な拠点と位置づけられており、攻防どちらにおいても要となる一大拠点に生まれ変わらせる必要があるのも確かだった。
 いつまでも名生城内外の防衛施設を壊れたままにしておく訳にもいかないが、復興の為の手間も資金も不足ぎみである。事態を憂慮する慶広に、なんと先の戦後処理で従属したばかりの瑠杜が大量の軍資金と共に後方から出向いてきて「城の修復を自分に一任して欲しい。」と願い出てきたのであった。半信半疑ながらも慶広の許しを得た瑠杜は、数多いる人足達を小集団に分け、彼らの競争心理を巧みに煽り、仕事の効率化を図った結果、あっと言う間に名生城を修復することに成功した。慶広は大いに喜び、瑠杜に褒美を与えた後、名生城に今後も留まるよう命じたという。
 また伯楼は領内での犯罪のほとんどが、高札に記載されている法の文言が難しく、民衆に意味が正しく理解されていないことが原因であると考えた。試しに名生城周辺の領内で高札が差し替えられたところ、効果は覿面で治安は改善の兆しを見せ始めたのである。早速蠣崎領内のあちこちの高札が新しい文言に書き換えられた。それは誰でも分かるように、努めて平易な文章で記載されており、真実民衆にそれらの法が浸透していった。これにより蠣崎領内では年々犯罪の発生率が下がっていくのである。
 このように蠣崎家では内政面に秀でた武将が少ないながらも徐々に数を増やしてきており、今後の人材の充実に期待が寄せられた。

 

 雪乃に振られた日、伊予姫に失恋の痛みを慰められる形で、抱きすくめられていた虎太郎だったが、(後日振り返っても当時の記憶が定かでないのだが、)勢い伊予姫の寝所で一夜を過ごしたのであった。明朝の鳥の鳴き声によりふと目覚めた虎太郎だったが、傍らにいる伊予姫が自分の腕を枕にしているのをぼんやりとしばらく眺めた後、不意にさーっと血の気が引いていくのを感じた。
(た、大変なことをしてしまった・・・。)
 慌てて着の身着のままで伊予姫の寝所を飛び出したのだが、間が悪いというか、主君慶広の侍女に部屋を出たところを見つかってしまった。侍女は着崩れした虎太郎の姿を見るなり、けたたましい悲鳴を上げながら支度部屋に走り戻ったため、口止めをする暇も無く、あれよあれよという間に事態は慶広の耳に入る運びとなり、発覚後一刻も立たぬ間に、虎太郎は庭で慶広や奥方が見下ろす中、神妙な面持ちで正座をさせられていた。
「ふむ。お前は伊予と一晩床を共にしながら、その実何もしていないと申すのだな?」
「は・・。目覚めた時の状況が状況ゆえ、信じ難きことと思われるのも無理はありませぬが、姫様に対し、不埒な行為に及んでないことは天地神明に誓いまする。」
「半裸で腕枕が不埒ではないと?」
「あ、いえ、そういうわけでは・・そ、その・・・。」
「伊予は女子として魅力がないか?」
「決してそのようなことは・・!」
「まあ良い。お前は昔から嘘の下手な実直な男であった。私も奥もそれは信じておる。お前の言に嘘偽りはあるまい。」
「・・ありがとうございます。」
「だが、世人はどう思うかのう?伊予は最早傷物と口さがない事を申す者もいよう。他家との縁組も適うまい。」
「も、申し訳ございませぬ・・!」
「だがな。幸か不幸か、あれはどうやらお前のことを好いておるらしい。はっきり言わずとも親には分かるものよ。武家の娘に生まれついた者が想い人と結ばれることなぞ、乱世にあっては在り得ぬことかもしれぬが、この蠣崎家ではその限りではない。寧ろそういった幸せひとつひとつを当家では蔑ろにせぬようにしていきたいと考えておる。親は子の幸せを願う者じゃ、虎よ、伊予を娶ってはくれぬか?」
「・・は?・・今なんと!?」
「伊予をお前の妻にと申しておる。」

 慶広の計らいにより伊予姫と虎太郎の縁組が蠣崎家中に公になった。祝いの品代わりにという訳でもないが、箔を付けるためにも虎太郎には当主季広から官位と家宝が授けられた。
 とんとん拍子で話が進み、結納の儀当日まで虎太郎はうじうじと悩む暇も無かった。幸せそうな伊予の顔を見ているとこれで良かったのだと思う反面、もしかすると自分は上手く伊予の思惑どおりに踊らされているのではないかと考えないわけでもない。だがそんなことはこれからの二人の未来を考えれば小さなことだった。二人で幸せになっていこう、虎太郎は改めて伊予とそう誓い合ったのだった。

 

 後方支援を命じられ、左遷に近い形で大浦城主を命じられた沼田が彼の地で兵を掻き集めているとの情報が入った。不審に思った慶広が真意を問い質すべく使者を遣わしたところ、彼は「前線に兵を集中させ過ぎて、空白地帯となった北陸奥の治安の悪化を防ぐ為に候」と申し開きをしてみせた。
 折しも伊達家攻略の為、慶広を初めとして蠣崎家の主だった武将のほとんどが前線である名生城に集まっていた。いざ伊達家との戦端が開かれれば、前線に集結した武将達が後方に下がるのは至難の業である。そうなると蠣崎領内で危急の事態が起こった際には、対処するのは容易なことではない。沼田の言い分は至極最もな話ではある。
 だが大浦城には既に5万もの兵がおり、それは蠣崎家の保有する全兵力の半数近い兵を抱えていることを意味している。抜きん出た大兵力を抱える軍団が他におらず、対して徳山館にいる当主季広の元には1万足らずの兵しかいない。「第2の本能寺が起こりはすまいか?」・・と、そう危惧する者まで現れた。沼田の保有する兵数は諸国の大名に引けを取らない大勢力とも呼べるものであり、一歩間違えば脅威にもなり得る。前々より沼田の素行を快く思っていなかった准太は一抹の不安を感じずにはいられなかった。昨今大浦城には素性の知れない者がちらほらと出入りしているとの噂もあり、准太ならずともここ最近の季広と沼田の確執を知る良識ある者からすれば、沼田は蠣崎家の獅子身中の虫であるとして、危惧を覚えずにはいられないのであった。

   
 
 伊達の主要3城ー利府城、黒川城、米沢城。黒川と米沢に篭る兵は寡兵であり、利生城さえ落とせば伊達家の息の根を止めたも同然。必然、当主政宗を始め、主だった武将が本城には詰めており、守りは固い。  
 

 冬が去り、春 の訪れを待って、蠣崎家は伊達領・利府城へと進攻を開始した。要の城をみすみす落とされる訳にはいかず、政宗を始めとして伊達家は一丸となって頑強な抵抗をしてきた。政宗自らの奇襲攻撃や寡兵であるはずの黒川城や米沢城からも救援の兵がやってくるなど、蠣崎勢はこれまでにない苦戦を強いられた。壊滅に追い込まれる部隊が出るなど、想定以上の被害を被ったが、歴戦の猛者揃いの彼らも負けてはいない。激戦を乗り越えて、とうとう部隊の一部がなんとか利府城に取り付き、堀を越えて城内に潜入することに成功した。次々と現れる援兵に備え、城門に残った伯楼、竜之介の両隊と伊達勢が攻守を交代して激闘を繰り広げている間、虎太郎はこの死闘に終止符を打つべく、天守の最上層を目指していた。
【2016/05/06 00:02 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
n062 夢幻の如く (蠣崎家)7

  当主・蠣崎季広の薫陶を受け、鉱山採掘研究に励んでいた分部が新たな金山を発見した。多分に強運が味方したことも大きいのだが、この報は家中を驚かせ、とりわけ季広を喜ばせた。季広は分部を召しだして、「家中一の功名である。」と大いに彼の偉業を褒め称えた。感極まった分部は一層の忠勤を誓うのであった。


 面白くないのは沼田祐光である。彼は蠣崎の経済をより発展させようと、数々の政策に取り組んでいた。そのうちの主なものが「大社振興」と「関所撤廃」の二政策である。大社振興により、古来より神仏への畏れを抱く人々の心の拠り所を作り、民の流入を狙うのがひとつ。人口を増やし、町を発展させようと言うものだ。更にもう一つの関所撤廃政策が上手く運用されれば、領内における人の往来が自由になり、経済発展の加速を期待できる。だが、素性不明なものを領内に招き入れ、そういった不審な輩の出入りを自由にさせる・・という負の側面があるのもまた事実である。そのことがいずれ沼田や季広に数奇な運命を辿らせることになるのだが・・・今はまだ神のみぞ知ることであった。
 精力的に政策実施に取り組んでいた沼田だったが、残念なことに分部と違い彼は不運に見舞われてしまった。秋を迎えた頃、冷害により蠣崎領全土で農作物の収穫が激減したのだ。彼が日頃から農業よりも経済の振興を優先させていたことが完全に裏目に出てしまった。凶作防止の為、地道に稲の品種改良の取組を行っていれば良かったのだが、時間のかかる農業政策を後回しにして、比較的早期に結果の出やすい経済政策ばかりに取り組んでいたツケがとうとう回ってきたのだ。自然とこれらの政策主導をしていた沼田に批判が集まり、人徳のなさも手伝って陰口を叩く者も少なくなかった。当主季広からも「もっと先を見据えて政事に取り組むように。」と手厳しい言葉が告げられた。この時、沼田は奥歯を噛み締めながら胸の内の憤りを押さえていたという。


 夏が終わり、秋に指しかかろうとする頃、蠣崎家で来年の稲の豊作を祈念し、神に供物を捧げる豊穣祭が催された。蠣崎家の一門衆や主だった重臣のみならず、下級武士や庶民に至るまで皆が参加する豊穣祭では、儀式の後に城下の至る所で無礼講の酒宴が開かれ、皆があちらこちらの宴に顔を出しては大いに笑い、語らい、踊り、酒を酌み交わすのだった。虎太郎は蠣崎家嫡男の慶広の館に招かれ、幾度となく慶広手ずから杯に酒を注がれた為、昼を過ぎる頃にはすっかり酔いが回り、別室に下がって眠り込んでしまった。酩酊する虎太郎の介抱を買って出たのは伊予姫である。健気な想いを知ってか知らずか、慶広は娘の申し出を許し、虎太郎の傍についていてやるように伊予姫に命じた。
 別室で畳の上で熟睡する虎太郎の寝顔を観て、伊予姫はそれだけで胸がひどく満ち足りて幸せな気分になる。目をつぶって起きる気配がないのをいいことに、少しだけ顔を寄せてまじまじと見つめてみたりした。今この部屋にいるのは虎太郎と伊予姫の二人だけだ。しかも虎太郎はすやすやと寝息を立て、当分の間覚醒する兆しもない。
 好きな人がすぐ目の前にいて、二人きりで、しかも自分の言葉を黙って聞いてくれる。またとない状況でいくらか大胆になった伊予姫はそっと自分の想いを告げるのだった。
「虎太郎様、伊予はあなた様のことをお慕いしております。初めてあなた様にお逢いしたときから、ずっと。」
 爽やかに清清しく響く、実直そうな優しい声で告白し、伊予姫はそっと虎太郎の手を握るのだった。できればこのまま時が止まれば良い、ずっとこうしていたい・・伊予姫は目を閉じて、しっかりと虎太郎の手の温もりを感じていた。
 伊予姫のようにすぐ相手の反応を気にして、自分の言いたい事を引っ込めてしまうような性格の者でも、今ならば考えた分だけを全部、声に出して言うことができる。本人を前にして、予行演習ができるなら、こんな願ってもないことはない。
「だから虎太郎様、あなたには誰よりも幸せになって頂きたいのです。虎太郎様のお気持ちが伊予に向いていないことぐらい、伊予にも分かります。でも伊予はそれでも構いません。だから・・・虎太郎様も好きな人にちゃんと好きって言ってください・・・。」
 そこまでいうと、流れ出した涙を拭い、感極まった伊予はすすっと部屋を出て行った。そして部屋に一人残され熟睡していたはずの虎太郎は、そっと目を開け、「参ったなあ。」と呟きながらぽりぽりと頭を掻いた。


  近年、日本各地の大名は、弱肉強食による弱者の淘汰が進んでいた。小大名は次々と大きな勢力に吸収されていった。蠣崎家も時代の荒波には逆らえず、周辺領主との駆け引きを余儀なくされていた。そんな中慶広は高水寺城より北陸前への敷設を開始した。大崎領への進攻準備である。
【2016/04/23 01:47 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
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