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董清の命により上庸幹部の主だったものが政庁に集められた。
鬼龍、蘭宝玉、福貴、蓬莱信、林玲、大和・・皆、董家と縁濃い者ばかりである。 董清「日々、精勤ご苦労。皆の働きのおかげで、市の開発が進み、上庸の軍資金は潤いつつある。まずは礼を言おう。」 蓬莱信「礼なんて良いからさ。それよりこの先の展望をそろそろ私たちにも教えておくれよ。」 大和「そうだな。俺も知りてえ。我らが若様は一体何をお考えなんだ?」 林玲「私も・・知りたい。」 福貴「・・・・。」 董清「良かろう、そろそろ頃合いでもある。蘭宝玉、後は任せる。」 蘭宝玉「はい・・我々はここ上庸で兵の増強を図った後、まず最初に宛を攻め、宛にいる民を解放します。」 鬼龍「まだしばらく時はかかるがな。新野にも使者を放って、連携をお願いするつもりだ。」 蓬莱信「ま、そんなところだろうねえ。漢中や長安を単独で攻めるには力が足りないさね。」 林玲「宛なら・・・将はたったの3人。」 蘭宝玉「その通りよ。一気に押しつぶせるわ。だけど宛は作戦の第一段階に過ぎないの。本命は許昌よ。」 一瞬場が静まり返った。いきなり中華二強の一角と相対するつもりなのか・・。 蓬莱信「さすが、うちの大将はデカイこと考えてるねえ。弱小勢力のうちらがいきなり曹操の本拠を狙おうってんだ。」 大和「おいおい、まずは張繍だろうが。目の前の事を疎かにしてると、足元を掬われっぞ。」 林玲「・・新野も賛成した。」 蓬莱信「実際、まずはあそこが狙い目だよね。騎馬隊に粋の良いのが揃ってるみたいだけど。」 大和「軍師も侮れねえぜ。一癖も二癖もありそうだ。あの曹操を後一歩のところまで追い詰めたんだからな。」 蓬莱信「策だったら、うちの宝玉さんや新野の周信さんも負けてないと思うけど。」 大和「だが二人とも初陣だからなあ。百戦錬磨の軍師の向こうを張ろうってんだ。気合入れてもらわねえとな。」 大和と他愛のない会話を続けながら、蓬莱信は考える。 そういう難しいことは上に任せといて、自分たちは軍師の考える策を実現できる力を付ける事が肝要だ、と。 蓬莱信「とりあれず造幣局も回り始めたし、市の開発も一段落だね。いよいよ軍備の拡張段階にステップアップかな。」 大和「てめぇ、ワクワクしてやがんな。そんなに楽しいかよ。」 蓬莱信「私は新しいことに目がないんだ。軍備増強に発明は付き物さね。私はいずれ新兵器の開発にも携わりたいんだよ。」 大和「新兵器ねえ。一体どんなもんなんだ?」 蓬莱信「そうだねえ・・・兵器が火ィ噴いたり、巨石を放り投げたり・・・?」 大和「はあ?馬鹿言っちゃいけねえよ。そんなぶっ飛んだ代物が出来るわけねえだろ。」 蓬莱信「ははは、冗談冗談。」 林玲「・・面白くない。」 PR |
「はあ!?私が右僕射に任命されたあ??」 いつもは不機嫌そうな顔しか夫に見せない福貴も目を丸くして驚いていた。こんな表情もするんだな、と董清は小さく感じ入っていた。何と言うか・・・可愛い。元々目鼻立ちの整った顔をしているので、これで愛嬌さえあれば魅力的なのに、と常々思っていたが、彼の推測は当たっていたようだ。 「俺が任命した訳でない。新野の県令殿がやったことだ。」と首を竦めながら先回りして董清は続けた。董清に不平を鳴らそうとしていた福貴は慌てて口を噤む。 「政治に疎いという訳ではあるまい。漢朝では若いながらに義父上の政に助言をしたこともあるのだろう?神童と呼ばれていたと義父上は酒の席でいつも自慢されていた。」 「それでもどうして子飛殿は私のことをお知りに・・・?」 「さてな。いろいろと伝手があるんだろう。ともかく正式に官を賜ったのだ。汝も明日から政庁に上がれ。」 それからは福貴は董清と共に登庁し、議郎として同じく任官された蓬莱信と共に政務の補佐を始めた。今、董清は市場の開発に心血を注いでいる。その甲斐あって、上庸の町に活気が出始めた。税収は以前よりも確実に増えている。市場の開発に一段落が付けば、その後は開墾をして田畑を広げ、工房や兵舎を建設し、鍛冶屋も呼び寄せるつもりだ。せわしなく働く夫の横顔を見ながら、「ちょっと格好良いじゃない。」とポツリ呟いた。「え?」と隣の席に座っていた蓬莱信が何か言った?と首を傾げたが、何でもないとばかりに無視を決め込んだのだった。 |
上庸では董清を中心とした董家の面々が(表上は鬼龍を太守として)、政庁の幹部として政に携わっていた。実質的な支配者が董清であることを知る者の中には、「親族縁者ばかりを重用して・・」と陰口を叩くものもいる。もともと董清が信をおく人材は少なく、逆に董清に忠誠を尽くそうと慕うものも少ないからなのだが。 董清の欠点は、他人に信を置かないことであり、他人に頼ろうとしないことだ。だからこそ他人との馴れ合いに関心はなく、そのような人間に魅力なぞあろうはずもなかった。下手に董清の能力が非凡な為、彼自身それで困ったことは然程ないのも要因である。 しかし、いかに個人の能力が卓越していても、彼に魅力がない以上人材不足は深刻で、それ故に上庸では、重職を任せられる人間は董家の者を置いて他にいない・・・というのが実情である。 これからの乱世を乗り切っていくには、このままではいけないことは、自身はもちろん幹部の面々も重々承知していた。筆頭武官である鬼龍は、今日もそのことで頭を悩ませていた。 鬼龍「とにかく若に、列強諸侯らと覇を競って頂くにはまだまだ駒が足らぬ。」 蘭宝玉「しばらくは現場で才あるものを登用していくしかないでしょう。魅力がなくてもコツコツと功を重ねて名声が上がれば、いずれ士は集まります。とりあえず軍資金を確保しましょう。今の税収だけでは立ち行きません。まずは市を作り商業を賑わらせて、税を集めるとしましょう。」 鬼龍「人を遣って調べさせたが、汝南の方には見所の多い士が何人かいそうだ。」 蘭宝玉「上庸から勧誘に出向くには遠方故、効率が悪すぎるわね。新野県庁に連絡して、必要な人材には確保をお願いしましょう。」 蘭宝玉「紫音様、軍資金を潤すには貿易が肝要です。まずは房陵港を掌握されてはいかがでしょう。」 鬼龍「うむ。そうすれば新野へ水路を利用した輸送も可能になる。軍事的観点からも有効な手立てかと。」 董清「よかろう。林玲、林玲はいるか。」 林玲「お傍に。」 董清「そなたは手勢を率いて、房陵港を我が手中のものとせよ。」 林玲「分かりました。」 董清「どうせ抵抗するものもおるまいが、本計画は迅速を持って良しとする。10日以内に港の主だった場所を支配下に置くべし。」 林玲「重ねて承知しました。」 董清「よし、行け。」 軍隊を動かすことで、民衆を不安にさせてはならないということで、鬼龍は義兄・大和と共に上庸の巡察を行った。 その功あって、けちくさい悪党の捕縛などが出来、少なからず上庸の治安は良くなった。 鬼龍「若!房陵港の林玲より、文が参りました。港の制圧に成功したようです。」 蘭宝玉「新野県庁にもお知らせするとしましょう。」 鬼龍「本日は若もご一緒に、巡察に回りませんか。」 董清「そうだな。たまには体を動かすのも良かろう。」 こそ泥を捕まえたり、女に暴行を働こうとした酔漢を捕縛したり、董清が良い働きをする度に、鬼龍はそれとなく喧伝して回った。 「良いか。董清様に任せておけば上庸は安泰なのだ。周囲の者にもそう伝えるが良い。」 董清と鬼龍が政庁に戻ると、蘭宝玉が報告にやってきた。 蘭宝玉「紫音様、新野県庁より伝達です。県令殿が漢朝より使者を迎えられたとのこと。詔勅があったようです。」 董清「ふむ、きっと悪い話ではあるまい。これはどういうことか?」 蘭宝玉「おそらく新たな爵位を叙せられるかと思われます。」 鬼龍「ほう。趙雄殿の名前が漢朝にも聞こえているということか。」 蘭宝玉「漢朝を実質支配しているのは曹操です。おそらく袁紹との大戦に備え、後方の憂いを断ち切るために、少しでも県令殿に恩を売っておきたいのでしょう。」 鬼龍「そんなことで、あの趙雄殿が踊らされることはあるまい。」 蘭宝玉「曹操としても爵位を与えるだけで、味方にできるとは思っていないでしょう。おそらく宛の張繍の牽制になればいいぐらいにしか考えてないと思われますが。」 董清は政庁での仕事を終えて、自宅へと引き上げた。ここのところ上庸での政に忙しく、ろくに母や妻の顔を見ていない。 妻・福貴とは結婚当初より折り合いが悪く、彼女のことは半ば諦めている。父・董卓の命で強引に政略結婚させられた二人だった。彼女は結婚してしばらくは我が身の不運に泣き通しの日々だった。今でこそそれは無くなったが、夫婦間の温かみなど今でも全く無いままだ。おそらく今日も顔を見るなり、不機嫌そうな顔をして、散々悪態を付かれることだろう。だから妻とはあまり顔を合わさずに、こっそりと寝所に潜り込んで眠ってしまいたいところだった。 だが慣れぬ土地へと移ってきた母・春風の心寂しさを思うと、母の元へ顔を出さずにはいられない。普段、他人にかける情けや恩情など持ち合わせていない彼だったが、唯一の肉親に対しては別だった。魔王と呼ばれた父の目に留まり、有無を言わさず嫁がされ、董家の一族からは妾呼ばわりされながらも、董清を守り抜いてくれた母には一生頭が上がらないと思っている。 妻には気付かれぬよう、こっそりと母の部屋へと向かっていると、残念な事に書斎から出てきた妻と鉢合わせしてしまった。 福貴「あらあら、どなたかと思えば、愛しの旦那様じゃありませんか?」 董清「福貴か。今帰った。」 福貴「そんなことは言われなくとも分かります。お母上の下へ行かれるのですね?真っ直ぐに。・・私のことは放っておいて。」 董清「何か用があるなら申せ。」 福貴「別に。私はただ旦那様がいつになったらお義父上のように天下に覇を唱えられるのか、待ち遠しいだけでございます。」 董清「そう遠くない。今しばらく辛抱せい。」 董清はげんなりしつつ、福貴との会話を切り上げた。実際に彼は嘘を付いているつもりはない。今、総がかりで上庸における造幣局の建設に取り組んでいる。通貨の流通が円滑になれば 収入も比例して多くなり、そうすれば多くの兵や武具を蓄えることも可能になる。名乗りを上げるのも、そう遠い日ではないのだ。だが相変わらず妻との会話に潤いは全く見られなかった。むしろそちらの方が先の見通しが全く立たないのだった。 |
平原を陥落させた余勢を駆って、呂家軍と王連軍はそのまま南皮へと攻め込んだ。主君公孫瓉はいまだ平原に取り残されており、公孫瓉軍は防衛の体制が全く整っていない。 数人の将がそれぞれ迎撃の軍を出してくるが、各個撃破の餌食となるだけだった。あっと言う間に南皮は落ちた。 20都市を直轄する呂家軍は大勢力となり、とうとう呂燕は王に叙せられた。商人上がりの男がついに王侯の列に加わったのである。 これまで最強の槍隊と孫麗の智謀に頼りきりだった呂家軍は、ここにきて兵器開発に精を出すようになった。王連軍との技術交流が進んだおかげだ。 強みを増した呂家軍は北方の薊へと侵攻した。2台の兵器による波状攻撃、弩兵隊の昼夜を問わない攻撃により、薊はわずか10日で陥落した。 迎撃に出てきた公孫瓉は捕らえられたが、降伏を促す呂燕に対して捨て台詞を残して晋陽へと逃亡した。 公孫瓉の領土は晋陽を残すのみとなった。なお徹底抗戦を止めようとせず、最後まで戦おうとする彼だったが、あっけなく王連軍の猛攻に惨敗し、どこかへと落ち延びていった。 中華は王連と呂燕によって統一され、彼らによって支えられた漢朝は息を吹き返した。 王連は宰相として内政を取り仕切り、呂燕は呂家軍を率いて異民族の侵入から民を守り続けた。 第3シリーズ ー完ー |
いよいよ、呂家軍も最後の軍閥・公孫瓉との戦いを始めた。強力な水軍を擁しない軍にとって、広大な黄河を渡るのは博打に等しかったが、ついに呂燕は決断したのである。まずは平原勢力下の高唐港を第一の目標と定めたが、幸い王連軍の援護射撃もあり、港攻略は秒読み態勢に入った。 その頃、王連軍は連携して西の晋陽の攻略に入ったが、そこに思わぬ強敵が立ち塞がった。公孫瓉軍の軍師を務める呂尚(太公望)である。呂尚はその知略を持って、まるで戦場で戯れるが如く敵を翻弄した。火攻めや巧みな用兵により、王連軍は数で劣る公孫瓉軍に足止めを余儀なくされたのである。 王連軍と呂家軍は後方より続々と補給部隊を戦場へと送り込んだ。中原からの兵站は生命線である。地の利は寄せ手にはなく、遠征軍にとって補給は疎かにできない。 さらに呂家軍は鄴回りで部隊を送り込んだ。西と東の両方から平原を攻めることで挟撃を目論んだのだ。 しかし呂家軍の動きよりも早く王連軍も挟撃体勢を取った為、敵総大将・公孫瓉自らその対応に忙殺されていた。 攻め寄せる王連軍を迎撃する為、守兵が出払った隙に、一気に平原城へと呂家軍が押し寄せ攻略してしまった。守将はすべて捕虜となり、総大将・公孫瓉は戦場の真っ只中で孤立する羽目になった。 |