「師匠、無理ですって!あなたの体が持ちません。」
「ええい、放せ!ワシの一生の夢なんじゃ。諦めきれるか。」
拙僧はウインドヘルムの錬金術店に入った途端、回れ右をしたくなった。

師弟関係にあると思われる店員2名が激しく言い争っていたからだ。
彼らはしばらくの間口論を続けていたが、ふいに拙僧の存在に気付き、頭を掻きながら、互いに矛を収めた。
「今のは、一体何だったんだ?」
「お恥ずかしいところを見られてしまったようじゃの。実は、ワシは生涯をかけて探しているものがあっての。」
「何だ?」
「白い小瓶じゃ。」
「小瓶?」
「ただの小瓶ではないぞ。いわば魔法の小瓶じゃ。錬金術に必要な液を無から生み出す事の出来る不思議な物での。」
「そりゃあ、スゲエな。」
「じゃろ?先日、ついに有力な手がかりを得ての。探しに行こうとしておったのじゃ。だが、このお節介めが。ワシが出かけるのをダメだと言いよる。」
「師匠の体は絶対、安静にしてなきゃダメなんです。本来ならカウンターに立つことも反対なんですよ。」
「・・・聞いての通りじゃ。」
結局、死ぬ前に一目でいいから物を拝みたいという師匠さんの願いを適えるべく、拙僧が代わりに小瓶を取りに行くことになった。
幸いなことに目的地はかつて盗賊ギルドの仕事で忍び込んだことのある『見捨てられた洞窟」だった。
確かに奥のほうに、妙な台座が置いてあったが、あの時はスルーしていた。
この台座に師匠さんからもらった、特別な液を注げば・・・
ほーら、開いた!
おお、これか。
・・・あれ?割れてるぞ。いいのかな?
「おお!ありがたや!小瓶を取ってきてくれたか。」
「ああ、確かに。だが、底が割れていてな。」

「何じゃと!お主、割ったのか?」

「いいや、元々割れていたんだ。」
「そうか・・。やはりワシが自分で行くべきじゃったな。素人に頼んだワシが馬鹿じゃったわい。」
「おい、じーさん。拙僧の話を聞いてるか?」
「ああ、そうじゃな。ともかく礼はせねばな。ほれ、5ゴールドじゃ。」
「はあ!子供の駄賃じゃねーんだぞ!」

「・・・もうワシは疲れた。寝る。」
「おい!じじい!!」
元々、慈善事業ぐらいのつもりだったが、こうもあからさまにぞんざいに扱われると、腹も立つ。
店を出て行こうとする拙僧の怒ったような表情を見て、お弟子さんは拙僧を呼び止めた。
「師匠を許してやって下さい。生まれてこの方、錬金術一筋だったもんで、人との接し方に慣れていないのです。」
「拙僧は冒険者であって、ボランティアではないんだがな。」
「はい、重々承知しております。どうぞこちらをお納め下さい。」
そう言って、お弟子さんはずしりと重い小袋を拙僧に渡してくれた。

中を見ると、金貨が満杯に入っていた。
「え?こんなに?」
「いいんですよ。命がけの探検に報いることが少しはできましたでしょうか?」
「ああ、十分じゃねえの。」
あの師匠にして、この弟子あり。


師匠の分まで苦労を背負う弟子は、いつしか一人前になっていた。
・・・こういう人材育成もありなのかねえ。。
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