「聞いたよ、首長。なんか子供さんの事で困ってるんだって?」
「もう噂になってるのか?全く人の口には戸が立てられんようだな。」
いつものようにバナード・メアでナンパに勤しんでいると、女主人のフルダが仕入れてきたばかりの噂話を聞かせてくれた。
「何かさ、首長の一番下のお子さんが最近、陰気通り越して不気味らしいよ。」
「何だ、それ。」
「もともと上のご兄弟と違って、引きこもりがちらしかったんだけど、最近は不気味な言葉を呟いたり、周囲の大人を憎しみのこもった目で睨み付けるようになったとか。」
「へえ。」
「へえ・・じゃないでしょ。あんた、仮にも従士なんだったら、ちょっと出かけていって問題解決してきなさいよ。」
「やだよ、面倒くさい。」
「あら?そんなこと言っていいのかな~~。もう店内じゃ、ナンパ禁止ってことにしてもいいんだけど?」
「おいおい、脅しかよ。」
「じゃ、決まりね!行ってらっしゃい!」
「あの豚のケツ野郎があんたを寄越したのかい?」
「おいおい。お父さんの事をそんな風に言うもんじゃないぞ。」
「いいんだよ。大人なんて大したことないんだし。俺はあいつらよりも何だって、知ってるんだから。」
「何を知ってるって言うんだ?」
「昔アイツが市民を粛清したこととか、僕だけ母さんが違うとか・・・。」
「おい、誰がそんなことを言ったんだ?」
年端のいかない子供に聞かせていい話と悪い話とがある。
まだ精神の未熟な子供につらい話を聞かせると、それだけで心身の成長が阻害されることもある。
だからこそ大きくなって、どんなことも受け止められるようになるまで伏せておいた方がいいのだ。
よりにもよって『粛清』に『血縁』だと・・。
一体、誰が?
「・・・扉の向こうの人だよ。」
「扉?」
問題児ネルキルによれば、ドラゴンズリーチには開かずの扉があって、その向こうから女性の囁き声が聞こえてくるんだとか。
ネルキルから教わった通り、問題の扉の前まで行って、耳を押し当ててみた。
「よく来た。お前の到来を待っていたぞ。」
「あんた、誰だ?」
「我はメファーラ。」
メファーラと言えば、嘘と秘密と策略を司るデイドラの王じゃないか。
ネルキルめ、厄介な奴に目を付けられたな。
「子供をたぶらかしてるんだってな。」
「別に。あの子供が歪んでいくのを楽しみにしているだけだ。」
「やめてもらえんかな?」
「どうして定命の者の言う事を聞かねばならんのじゃ?」
「代わりに拙僧が、あんたの喜ぶことをしてやろう。」
「ほう・・我と取引するというのか。」
「何をして欲しい?」
「ではこの扉を開けてくれ。大丈夫。我はこの世に直接的に関わることはできぬ。」
「開けてどうするんだ?」
「この部屋に閉まってある武器を手に取れ。それだけで良い。」
「扉の鍵なら、アイツか魔術師のファレンガーが持ってるはずだよ。」
・・・このガキ、本当に何でも知ってやがるな。
ほい。ちょこっと失礼しますよ~。
日中、スキの見せないファレンガーが眠るのを待って、鍵をスッた。
いかに聡明な魔術師と言えど、眠っている時は無防備のようである。
「ふは、ふははははははー。いいぞいいぞ。早く開けるが良い。」
メファーラも何だか、興奮気味だ。
部屋の中には一振りの剣と、一冊の本があった。
ふーん・・・裏切りの剣ね。
生き血を啜らずにはいられない剣。
所有者の心を蝕み、近しい者から順に手をかけていくことになるんだとか。
メファーラはどうやら拙僧を虜にしたいらしい。
「約束は果たしたぞ。もうネルキルには構うな。」
「良かろう。あのような子供、別にどうでも良い。お主という新しい玩具が手に入ったのだからな。」
「あ、そんなこと約束に入ってないし。」
「は?」
拙僧は自宅に帰ると、剣を押入れに放り込んだ。
「おーい!」
ま、拙僧がしばらくはここで預かるさ。いずれまたドラゴンズリーチに戻そう。
その頃にはネルキルも立派に成人しているだろうし、先の話までは拙僧も責任持てん!
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