「おーい。実験は順調かあ?」
最近、拙僧はアーニエルの部屋の近くを通るたびに彼に声をかけるようにしている。
「くっそお。エンシルの奴、よくもコケにしてくれたなあ。」

「おい!一体どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもねえよ。エンシルの奴、代金を払ってるのに、品物を届けやがらねえんだ。」
「・・・って、アーニエルは言ってるが、実際どうなんだ。」
「冗談じゃねえよ。」

「なんか、そういう気がした。」

「代金は確かにもらったさ。ただ荷物が届かない。それだけだ。」

「おいおい、それじゃ幾らなんでもアーニエルが可哀想じゃないか。」

「そうでもないさ。あいつがほぼ全ての手配を自分でやったんだ。俺は何をどう運ぶのかも知らされず、運送業者を紹介しただけさ。俺が責められる筋合いじゃない。大事な物を運ぶって知らされてりゃ、もっと用心しただろうけどな。」

「ふうん。じゃ、何の手がかりもないのか?」
「業者の配達人が最後に連絡を寄越した場所は分かってる。そこから街道沿いに虱潰しに調べていくしかないな。」
エンシルからも頼まれて、拙僧は調査をした結果、配達人らしき男がとある山賊団に捕縛されたらしいとの情報を得た。さっそくその山賊のアジトへと向かった。
・・・あちゃー。時既に遅し。
しかし彼の遺留品の中から、配達物らしきダガーが見つかった。
「アーニエル!欲しがってたダガーを持ってきたぞ。」
「おお、校長!よくやってくれた。これで実験は可能になった。」
「一体何を始めるんだ?」
「前にも言ったろ。ドワーフ失踪の原因を突き止めるんだ。彼らが失踪の前に行っていた儀式を再現するんだ。」
「え?そんなことができるのか?」
「ああ、当時の儀式にあって、すでに失われたものは代替品で賄った。さあ、校長!歴史的瞬間を見届けてくれ!」
アーニエルは徐にダガーを振り回し始めた。
えいっ!えいっ!
目の前には先日拙僧が回収してきた魂石が飾られている。
えいっ!えいっ!
「なあ、一体何をやってるんだ。」
えいっ!えいっ!
「煩いな。儀式の再現だよ。」
えいっ!えいっ!
「なんか、おっさんが必死にダガー振り回してるの見てても、萎えるだけなんだが。」
えいっ!えいっ!
「黙っててよ!もう少しで凄いことが起こるさ。」
えいっ!えいっ!
「・・そうなのか?何が起こるんだ?」
えいっ!えいっ!
「そんなの俺にも分からんよ。」
えいっ!えいっ!
「・・・。」
えいっ!えいっ!
「・・・もしかしてさ、消えたドワーフの儀式の再現をするんなら、あんた消え・・・」
拙僧がとある可能性に気付いた瞬間、それは起こった。
突然魂石が光り輝いたのだ。
あまりのことに拙僧は目が眩んだ。
光が収まり、拙僧が目を開けると、魂石は変わらぬ姿でそこにあった。
そして、アーニエルが握っていたはずのダガーが床にぽつんと落ちていた。
もしかして実験成功!?
アーニエルはドワーフと同じように、どこかに姿を消してしまったようだ。
思いがけない展開にただ拙僧は呆然とするしかなかった。

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