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【2024/11/11 04:42 】 |
董卓の血統であること
 
「前進せよ。」
号令を受けて、馬超隊の投降を受け入れた後、董清軍は体制を整え、街道を進み始めた。あくまで第一目標は武威だが、安定に駐屯している馬騰軍の動きが目障りになれば対応できるよう、陣形の組み方は柔軟さを優先させている。特に程銀は復讐戦を果たそうと息巻いているらしく、下手をすれば背後を衝かれる恐れがあった。安定の動向に十分注意を払いつつ、軍を慎重に進める必要があるだろう。
遠く上庸にいる蘭宝玉からは、新たに槍隊に関する技術開発を始めたとの報が入った。新野の主任研究員も随分と様になって来たようである。上庸の実験施設にも随分と綻びが見え出した。老朽化と多大なる負荷を長期間かけ続けたことが要因であろう。遠からず再建設の必要があるだろう。

 
進軍する董清軍に無謀にも安定より迫り来る1隊があった。程銀率いる約5千である。だが対峙するタイミングすら計算していた董清軍は、弩兵と投石機を巧みに展開して、敵軍の接近をてぐすね引いて待ち受けていた。そして不幸な事に程銀は、物の見事に策に嵌ったのである。程銀隊に火矢が立て続けに打ち込まれ、最後は巨石によって人馬ものともに押しつぶされた。程銀自らは然程傷は負わなかったが、一度ならず二度もしてやられたことに歯軋りして悔しがった。が、いくら憤慨したところで後の祭りである。またもや単騎で安定へと逃げ出す羽目になったが、おかげで安定は董清の関心を引いてしまった。
「安定までの距離は?」
「はっ。一両日あれば到達できまする。」
「全軍に通達せよ。先に安定を落とすぞ。」

 
突如進路を変え、安定に向けて進軍し始めた董清軍に対し、程銀が再び復讐戦を挑んできた。が、大した戦術眼を持たない程銀は何度挑もうとも董清の相手ではなかった。阿吽の呼吸で鬼龍と林玲が董清隊の左右に展開し、程銀の予想出現地点を包囲するように陣取る。果たして程銀は読み通りに街道に現れ、火矢や投石の一斉射撃を浴びる事となった。結果として今度もまた敵を一兵も損なわせることなく、隊が殲滅させられてしまい、単騎で安定へと逃げ帰る程銀だったが、そろそろ彼には「兵殺し」だの「死神」だの不名誉な仇名が付けられそうである。

 
何度目かになる。程銀隊を文字通り瞬殺して葬り去り、董清軍は安定の城壁の周囲へと展開を始めた。いや、本来であれば大和隊が攻城に本気を出していればすでに安定は陥落している頃合である。そうなっていないのは、一重に鬼龍や大和が董清に手柄を譲ろうと余計な気遣いを見せているからであった。董清にしてみれば世論や風評なぞどうでも良いのだが、二人に言わせれば『在って困るものではない。』とのことだった。どうでも良いと一蹴すれば、『では、好きにやらせて頂きます。』と美味しいところを董清自らに食べさせようと、あの手この手でお膳立てしてくる。今は正直面倒なので放置しているが、いずれは首でも跳ねてやろうかと本気で思考し始めた今日この頃であった。そんな矢先の事である、福貴が持ち場を離れて董清陣営本拠を訪ねてきたのは。
「どうした?」
「妻が夫を訪ねるのに理由が必要でして?」
「・・・不要だが。」
「お酌いたします。」
福貴が珍しく、お猪口と酒瓶を持参してきた。いかにも長期戦の構えである。天上天下唯我独尊、怖いもの知らずの董清が唯一苦手とする彼女がそのような態度であると、彼としても身構えずにはいられない。だからこそ、福貴の不意とも言える問いに対しても澱みなく答えることが出来た。
「私の父の事をどうお思いですか?」
「言わずと知れた漢の高官だ。高き地位と大きな財を成し、随分とご助力を頂いた。そなたら家族同様に民を慈しまれた人格者だ。」
「いくつかの変節を繰り返して得た地位と財です。民に施しを成し、賢君を気取ったのも、いざと言う時に己の盾となり、駒と成るようにとの打算があっただけ。」
「死者を冒涜するものではない。」
「いいえ、真実です。」
「何が言いたい?」
「私、父をずっと蔑んでおりました。醜い本性を知っていたが故に。世間に見せる偽善者の仮面を見るたびに反吐が出そうでした。だからこそ、あなたに出合ったときは新鮮でした。父の権勢に寄生することなく、奢ることなく、媚びることなく、ご自分の足で立っておられた。このような男(かた)が世にはいるのかと思いました。胸をときめかせたものです。期待したのですよ、その強さに。孤高を恐れず、信念を貫く毅然さに。父には終ぞ得られなかった真っ直ぐさに。」
「福貴・・・。」
「だからこそ、私はあなたに惹かれました。ただぶっきら棒で、冷たくて、他にも女が大勢いて、結婚したばかりの頃は大嫌いでしたけど。でも何者にも頼らず、己を磨き、高みに向かって真っ直ぐに駆け抜けるあなたを見ていて、理想の人である事に気付いたのです。」
「・・・・。」
「ただここ最近、あなたはご自分の名を高める事に卑屈になっておられる。そのように見えて仕方がありません。もしや董家を、お父上董卓様のことを恥じておられることが原因ではありませんか?」
「そうではない。父など関係ない。忌むべき男だが、恥じたことなぞない。ただ名を上げるのが面倒なだけだ。名なぞ我が覇業に肝要ではあるまい。」
「あなたが珍しく饒舌なのは、ご自分の心を誤魔化されている時です。名声はあればあるほど役に立ちます。何を為すにも通らなかったことが通るようになるでしょう。それが道理というものです。真っ直ぐ高みを目指されるあなたの覇業に名声は欠くべからざるものであることなぞ、当にお分かりのはずです。だからこそ、今のあなたは歯痒くて成りませぬ。どうかご自分の心としかと向かい合って下さいませ。私が愛するあなたは、このようなことで足踏みをなさる方ではありませぬ。」
「董卓の血統であることを認めろということか。」
「世間に流布する必要はありませぬ。ただあなたの心を縛るものを解き放って頂きたいだけですわ。」
「・・そなたの言い分、しかと分かった。」

福貴の注ぐ酒を董清は一息に飲み干した。「まあ、素敵な飲みっぷりですこと。」と福貴がにこやかに笑いかけるのに笑顔で応じて見せた。董清の意志が一定の方向に定まり、そして、やっとこの夫婦の間にあった溝が完全に氷解した瞬間だった。
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【2014/05/25 04:05 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
予期せぬ再会

永安での造幣局建設事業が完了し、復興作業が一応の終わりを迎えた。報を受けた董清は軍団の再編成を行い、永安、江州に南蛮2群を加え、計4群を張任に統べさせることにした。無論、事前に趙雄には話を通してある。張任に課せられた指名は江陵への滞りのない物資の輸送である。来る孫家との戦において、要となるであろう長江流域での前線基地である江陵に軍資金や兵糧の備蓄を今から始めておくのである。
「身命を賭して、この大任を果たしまする。」
根が律儀な張任は『任せる。』とのみ書かれた董清からの竹簡に頭を下げるのだった。


一方董清は、天水での戦支度を終えようとしていた。このまま滞りなく進めば、来週には軍を進発させる予定だ。目標は武威だが、渡河の際に安定から奇襲をかけてくる部隊が現れるやもしれないと見ていた。そうなったら先に安定を落とすのも良いだろう。武威1群を残せば、あっさりと降伏勧告を入れる可能性も出てくる。今の馬騰軍に将はなく、ましてや率いる兵も不足している。せめて陽平関に閉じ込められている将の帰還が成ればと願っているだろうが、相変わらず関の南から圧力を掛け続けているので土台無理な話である。長安を奪取された馬騰軍には最早落日への道しかないように見えた。

 
董清率いる武威攻略軍が進攻を開始した。真っ直ぐに北上し、一目散に武威を目指している。
「もっと強い奴はいないのか?」
馬上で董清は一人ごちた。血の滾りが尋常でないのを感じる。長らく市場建設、農場開発といった地味な作業を経て鬱憤を蓄積してきた董清にしてみれば、戦場こそが本来の生き場のように思える事がある。そこで一介の武人として強敵とまみえ、雌雄を決する事を望む自分がいることは否めない。折しも、馬騰・馬超親子の武名は天下に轟いている。彼らと一戦交えるに当たり、総司令官として全軍を指揮しつつ、武人としての華を咲かせたいとも思うのだ。
そんなことを考える董清の傍らでは副将の魯蓮もまた物思いに耽る日々を送っていた。先日、李と邂逅して以来出自に関する事が気になって仕方がないのだ。李ともっとゆっくり語りたかったのだが、董清から戦支度を早急に済ませるように命令が出て、すぐに城に戻らなければならず、そのまま別れてしまったきりだ。武威に戻ると言っていたが、戦乱に巻き込まれなければいいと願わずにはいられない。ようやく会えた自分を知る人なのだ。縁あるものと知らずに手にしていた方天画戟はきっとすべての経緯を知ってるだろうが、残念ながらまだ何も魯蓮の記憶に訴えかける事はなかった。武威に行けば、何かが分かるのだろうか。


「董清率いる敵軍が武威に接近中!各部署とも、戦に備えよ。」
馬騰の命が全軍に通達され、長子馬超もまた槍の手入れに勤しんでいた。馬超は今気持ちが荒んでいた。荊北同盟軍相手に連戦連敗なのだからどうしようもない。しかし疲れた体を引きずって、故郷に帰った彼を慰めてくれる存在がいないのが、何よりの原因だった。(こんな時、彼女がいれば・・。)
遠い昔、将来を誓い合った彼女のことを思い出した。・・否、忘れた日は一日たりとてない。明るく優しく強く、彼女となら共に歩んでいけると思っていた。休も鉄も雲騄も彼女を慕っていた。中華平定なぞどうでも良い。ただ彼女と共にいられる日が一日でも続けば・・そう思っていた。
運命が暗転したのは突然だった。ある日彼女が突然消息を絶ち、家族が止めるのも聞かず、随分と方々を探し回ったが見つからなかった。馬超は裏切られたと思った。どんなに探しても呼びかけても彼女は見つからない。何か事情があるのでは、と彼を慰める者もいたが、そんな言葉は癒しにもならなかった。馬超が戦場へと進んで赴くようになったのはそれからだった。何かに駆り立てられるように、敵兵の首を取った。何かをしていないと、すぐに彼女のことを考えてしまう自分が情けなかった。だから彼は無我夢中で戦い、彼女への想いを封印してきたはずだった。
だが武威に圧倒的な力を誇る董清軍が迫り、自分や大事な家族、故郷の運命が風前の灯にさらされた時、真っ先に思ったのが『彼女に傍にいて欲しい』ということだった。

図らずも運命の再会の時が近づいていた。

 

斜角計算、威力調査、それに基づく算術、観測術、地理学、周囲環境調査、夜間時の天文学・・・投石機に繰り出される投石の度に様々な学問のデータ測量が成され、分析されていく。基礎と応用を鍛えられた学士達はそれぞれが郷土に帰れば、先生と呼ばれる立場になれるほどの研鑽を重ねている。学術振興と技術開発を鑑みれば、今は一台でも多く投石機を必要としているのだが・・・。
「委細承知しました。手許にある投石機を数台長安に回しましょう。」
蘭宝玉は快諾して見せた。大都市を攻略しようかという前線に投石機は不可欠の代物である。投石機の有無で大きく攻城難易度は変わり、それに伴い多くの将兵の命運が左右される。兵一人ひとりの命の尊さに比べれば、紙切れの数枚分の報告の遅れなど軽いものである。
「その分主任研究者達には頑張ってもらいましょうか。」
不敵に笑う彼女を見れば、黄権たちはきっと天を仰ぎたくなったであろう。仕方がないことも世にはままあるものである。
   

董清の命を受け、武威攻略部隊は一時森林へと身を潜めた。安定から出撃してきた程銀隊をまずは迎え撃つ作戦である。武威より南下してくる馬超隊が交戦域に達するにはさらに数日が必要で、程銀隊撃破後に反転して馬超隊を壊滅させることはタイミングとしては十分可能であろう。悪くすれば逆に挟撃される危険を伴うが、百戦錬磨の董清旗下の将達にその点の杞憂は全くないと言っても良かった。ただ魯蓮にとって運命の邂逅の時が近づいていることなぞ、その場にいる誰も知る由がなかった。

 
程銀隊はひたすら街道を南西へと突き進んでいた。
「隊長殿ォ、敵の姿が見えませんが、もう逃げちまったんじゃないでしょうか?」
「そうですぜ、隊長。我ら騎馬精鋭と向こうは一度もまともに戦った事がないんだ。恐れ戦いたとしても不思議じゃねえや。」
「弛んでいるぞ。気を引き締めなおせ。我らと敵の勢いの差を侮るな。」
部下をたしなめる程銀にしても、騎馬隊の圧倒的攻撃力に自信を持っていた。これまでの馬騰軍の敗戦は、騎馬隊を前面に押し出しての戦いになっていなかっただけだと考えていた。すなわち自分達が戦場に出てきたからには負けるはずがないと確信に近い信条が彼にすらあったのである。
夕暮れが近づき、程銀は配下に休息を命じた。森林地帯ではあるが、敵もこのような地での混戦は避けるだろう。逆手に取ったつもりで堂々と兵に食事の準備を始めさせたものである。最初の攻撃は彼らの腹が半分以上、満たされた頃だった。携帯していた武器を外し、食器に食らいつくようにして、食欲を満たす彼らの頭上に、突如として岩石と火矢の雨が降り注いだ。突然の事に皆が浮き足立ったが、運の悪い事に最初の攻撃で程銀の指示を兵卒に伝達する小隊長たちの大半が討死していた為、混乱に拍車がかかる事態になった。支離滅裂になって、四散しようとする兵達をどうにか纏め上げようとするも、悪夢の攻撃の第2波、第3波と繰り返されると、最早程銀は抗戦を放棄し、単騎となって安定へと逃亡した。取り残された兵士達はことごとく白旗を揚げ、どこに潜んでいるかも分からない敵軍に憐れにも命乞いをする始末であった。
「若、敵部隊壊滅です。」
「喜ぶのはまだ早いぞ。まだ敵はいる。」
「はっ。すぐに部隊を転進させまする。」
無傷で勝利した董清軍は、今度は迫り来る馬超隊との決戦に備えて、静かに移動を始めた。

 
「射よ!」
董清の下知で、森林に潜んでいた弩兵が一斉に火矢を放った。さらに呼吸を合わせたかのように岩石が次々と馬超軍に襲い掛かる。まさに悪夢のようなひと時であったろう。さしもの馬超は長槍を頭上でくるくると回転させ、次々と火矢を打ち落としていくが、他の兵にそれは不可能な芸当だった。9千近くいた兵がみるみるうちに失われていく。さすがに程銀と違い、絶望的な状況の中で馬超は各小隊長に命を出し、兵に統制だてて防衛を図らせた。盾など持っていない彼らではあるが、死人や鎧など様々なモノを使って、どうにか猛攻を耐え凌ごうと銘々が必死になった。上手く残った兵を纏め上げ体勢を立て直す当たり、錦馬超の異名は伊達ではない、流石である。
「ざっと2千というところか。天水奪回は難しいが、このまま立ち往生していても徒に損害が出るばかりだ。これより鬼門の地の突破を図る。皆、我に続け!」
馬超は一頻りの攻撃が止むと、残兵を数えてすぐさま号令を出した。騎馬隊の本文は機動力である。止まっていては単なる的になるばかりだ。すぐさま全軍が馬超に呼応して動き始めた。

「むむ、若!奴ら突破を図ってやすぜ。」
「あの部隊長は逸材ですな。壊滅的な被害を受けて尚、あれだけの指揮が取れるとは。心身ともに鍛えておる証拠。」
「ついでに言うと部下の人望も相当のものですな。よく纏まった動きをしてやがる。」
「・・・だが、敵である限り容赦はせぬ。魯蓮!」
「はっ。お傍に控えておりまする。」
「機会あらば、奴を討ち取れ!趙雄殿から賜った方天画戟の切れ味を見せてもらおうぞ。」

 
「しゃらくせえんだよ!小細工してんじゃねえ!」
大和の槍が馬超親衛隊を薙ぎ払う。先の戦闘で自分の隊を盾にして、包囲網を突破されたことに腹を立てていた。と、同時にこれまで陣を組めば必勝であった董清軍の手中から唯一逃れ果せた者に対して賞賛の思いを抱えていた。天水に駐屯する兵は約1万。馬超隊の残兵はおそらく2千を切っている。いくら勇将の率いる精鋭揃いとは言え、天水を奪回出来る可能性は万が一にもないことは、余程の凡将でなければ簡単に分かるだろう。武威及び天水への道は我々が塞いでいる以上、今馬超隊にできることは破れかぶれの特攻しかない。しかしそんな最期を迎えさせるには余りに惜しい隊であった。
それらの想いがない交ぜになって、大和は馬超隊への突撃を図っていた。図らずも馬超は先刻来、動揺を隠せずにおり部隊指揮に僅かな綻びがあった。その僅かな隙をついて大和は猛然と敵大将の傍まで接近することに成功したのである。
「白銀の大将さんよ、悪ぃが縛についてもらうぜ。」
「ふん、粗野な男だ。俺の槍捌きに耐えられるかな?」
「上庸の大地より立ち上る義侠の積乱雲、大和!字を首里!大義に生きる董紫音の腹心なり。いざ、尋常に勝負!」
「首里殿!相手にとって不足なし!我は馬超、いざ参る!」
二人の槍が一合、二合と激しく打ち合う。もともと攻城戦に秀でている大和であったが、単騎による武勇もまた董清軍にあって鬼龍と一、二を争う程の実力の持ち主であった。膂力に勝る彼の槍が馬超の喉元に襲い掛かるが、技術力で半歩上を行く馬超が巧みに受け流す。実力はまさに均衡していたが、心の奥底に精神的乱れを隠しきれない馬超が戦いが長引くにつれ徐々に押し込まれていった。
「これでどうだ!」
大和必殺の突きが馬超の肩口を捕らえ、彼の体はその力を吸収しきれずにもんどりうって、馬上から転げ落ちた。すぐさま起き上がったが、その時には眼前に大和の槍先があった。
「くっ、無念。」
「ふん。これで決着が付いたなんて思ってねえよ。次があったら万全の状態のお前とやりたいもんだぜ。」

 
大和の勝利により、馬超は捕縛され、隊長を失った親衛隊を始め馬超隊の兵たちは皆が大人しく投降した。無傷で馬騰軍を連覇した董清軍は、またもや安定より程銀隊が出撃してきたとの報を受け、迎撃の構えを取った。
【2014/05/21 00:14 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
新野研究所
 
天水が陥落した。成公英としては何とか一矢報いようとしていたが、全て徒労に終わってしまった。最後には董清隊が率いる投石機の攻撃を受けて城壁が破壊。突入した漢中軍との斬り合いも短期間で終了し、天水城には荊北同盟の旗が翻る事になった。董清の目は既に次の地へと向いている。

 
再び研究の日々が始まった。今回は騎兵の鍛錬法が主題である。主任研究担当者達は朝の挨拶を交わした後、それぞれ担当する部分に着手し始めた。彼らのおかげで荊北同盟の底力が飛躍的に向上しつつあるのだが、まだ彼らにその実感はない。

「失敗したわい。」
ぽりぽりと頭を掻くが、作ってしまった物はどうしようもない。張魯が蘭宝玉から命じられて実験場の拡張を行っていたものの、迂闊にも宛と上庸を繋ぐ本道まで完全に塞いでしまう形にしてしまったのだった。宛にも投石機を早々に返せるよう、工房を倍増して引切り無しに製造に取り掛かっている最中だった。これでは実験場の東側に建てた軍楽台も無駄になってしまう。
「はっはっは。ま、なんとかなるじゃろ。」
投石機の東側への輸送は海路を使って、新野経由で行うしかなさそうだ。ちょっと遠回りになるが致し方あるまい。

漢中より輸送隊が進発した。武威攻略戦に先駆けて、天水に駐屯する兵の補充と兵糧の確保が目的である。上庸の実験設備拡張は恙無く進み、ようやく張魯隊には帰還するように指示が下りた。部隊には安堵する者、嬉し泣きする者等いろいろいたようである。李恢とは正反対の生活を送る新野の3主任は今週も工兵鍛錬の研究を命じられて、死線を彷徨っていた。

天水で兵と兵糧の補給を待つ間、董清達は市場の開発を進めた。あっと言う間に次々と西の平野に露天が立ち並び、活気に満ち始めた。上庸と新野では数々の実験が繰り広げられているが、次の研究構想がこれまでよりも一段階上の階層にあり、それが結実するまでにはしばし時を必要としている。上庸では実験処理速度を上げる為、更なる投石機の製造が繰り広げられていた。

天水での市場開発が一通り終わったことを受け、今度は東の平野にて農場の開発が始まった。相変わらず巡察は絶え間なく続けられており、治安状態も最良である。新野でもたまには外に出て太陽の光を浴びないと・・ということで3主任研究員による市中警邏が行われた。来週あたりにはまた新たな研究生活が始まるであろう。

 
「良馬の産出だあ?俺らは馬の専門家じゃねーぞ。」
ここにいると研究の種には事欠かない。今度はより強い騎兵隊を育てるべく、強い馬を入安定して入手する手段を模索せよという指令だった。これまで馬は商人任せで、駿馬の揃った豊作の時もあれば駄馬しかいない時もあり、まことに不安定だった。いくら兵の精強にしても馬が貧弱だと、隊の強さは半減してしまう。一定の水準で入手し続けるには、自らの手で良馬を産出する方法を模索するしかない。何通りもの馬の組み合わせで配合を行ったり、餌の種類を滋養たっぷりに変えてみたり、馬の育成方法なども考える必要があろう。

「ちんたら遊んでる暇があったら、あんたも実験してきなさい。」
「いや、私は民から米の徴収を・・。」
「つべこべ言わずに行きなさい。」
蘭宝玉の眉間に皺が寄る度、また一人投石機使いが増える。

それと同時に荊北同盟全軍に布告が出された。
「統率力のない者、武力に自信のない者、そんなあなたを我々は大歓迎します♪上庸に生き場を見出してみませんか♪」

「この者と、この者と、この者を上庸に連れてきなさい。」
蘭宝玉が独断と偏見で選んだ、各地で暇そうにしてて腕っ節の弱そうな者達に召集がかかった。行き着く果ては、地獄か上庸実験場か、はたまた新野研究所か。どこに行っても廃人になるという専らの噂である。蘭軍師が最近女王様のように見えるとは、よく言ったものだ。荊北同盟の強さの秘密に、一部の者達の血の滲むような研鑽があったとはまさか諸侯は思いもしないだろう。

勢力が拡大すると、後方の兵糧庫より、前線の都市群への輸送量もまた多くなるのは道理である。取扱量の増大により、荊北同盟の各港及び関所の施設能力では取扱量が限界に達すると、かねてより参謀達の間で予測されていた。また、大型貨物船による貨物輸送の長距離化に伴い、荷役工具の更新や取扱能力の増強が求められるようになっていた。今回、参謀達の提言を受けて、蘭宝玉は新野の研究員に港関拡張の為の画期的方策を作成するように命じた。いつものように事も無げにである。
早速、新野では3主任を中心としたプロジェクトチームは組まれ、新規防波堤の建設、軍資金・兵糧・兵装用の貨物置場の整備、省スペースでの大人数兵舎の増設、船舶進入航路の浚渫など次々と案を創出しては実現へ向けて細部を練り始めた。これらをすべて机上の空論に終わらせず、具体化させる道筋を付ける事ができれば、並行して各地の港関の貨物取扱量の増加や利用船舶の大型化への対応を図ることができるであろう。 
【2014/05/17 23:43 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
黒軍師・蘭宝玉と三人の主任研究者
『委細承知。』
董清及び福貴の連名で返書が送られてきた。董清らしい簡潔な文書である。彼の下には、事前に蓬莱信自身からも許しを願う文が届いており、福貴にも図った上で『諾。』と答えてあった。無論彼に蓬莱信の身に訪れた幸福を賀する気持ちがない訳ではない。言葉を飾らない彼にとって、精一杯の祝辞の言葉だった。


天水からの迎撃軍の第2波が到来したが、またしても一撃の下に粉砕された。成公英率いる兵の数は明らかに第1波に比べて減っており、彼の天水における立場が苦しいことが窺われた。だからと言って、董清に手を緩めてやる道理もない。全軍に粛々と前進を命じるのみであった。


『即、戟兵鍛錬法の研究を始めよ。』
黄権が朝起きると共に、居室に書状が届けられた。読み違えたかと思い、もう一度読み直したが書いてあることは寸分たりとも狂いはなかった。
「はあああっ!?一体ここの生活はどうなってるんだ!?」


新野に新たに設けられた研究棟にやってきたのが数週間前。張春華の到着を待って、初期こそ退屈とも言える日々を送っていたが、張春華が到着し、主任研究員が揃った頃から、地獄とも言える日々が始まった。いきなり『槍兵を効率的に鍛え上げることのできる鍛錬法を10日で編み出せ!』と来て、できなければ即クビとも伝えられた。「代わりはいくらでもいるのよ~。」と蘭宝玉からはにこやかに軽やかに、それ故に恐ろしい一面を見せられもした。
それからの10日間、まさに3人であーでもないこーでもないと試行錯誤を重ねた挙句、ようやく10日目に夜半すぎになってレポートを纏めることができた。昨日は風呂にも入らず、即寝床に潜り込んだ。おそらく他の2人も同様であろう。そしてまだ寝ぼけ眼のまま、厠に行きたくなって、寝床を抜け出した途端にこれである。
「訴えてやる~。」と思わず拳を振り上げるが、趙雄、魯淑瑛、董清と主だった者が皆、承認している計画であったことを思い出して、拳の下ろし所がないことに気付き、嘆息するしかなかった。

 
「思ったよりも研究スピードが早いわね。流石といったところかしら。」
次々と主任研究員を支える助手の養成と上庸実験場で得られるデータを新野へと送っているが、なかなかどうして3人はよく捌いているようだ。蘭宝玉は実験機の追加生産と実験場の増築を決めた。


「張魯に実験場を拡張するよう伝えて頂戴。なんなら他の場所に第2実験場を構えてもいいわ。それから新野の主任研究員には滋養強壮に良い食べ物をたんと作って差し入れしてあげて。がんばってくれている3人に労いの言葉も添えてね。」現在の世に言うドーピングというやつだが、何気に蘭宝玉は飴と鞭の使いどころを知っており、優しさの裏にも強かな計算があるようだった。元教え子だった董清に言わせれば、「先生は夜叉だ。」とのことである。
【2014/05/06 12:58 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
上庸大実験場の設営

 上庸で蘭宝玉の命を帯びた大実験場の設営が進み始めた。まずは張魯が軍楽台2基を設置にかかっている。斜角計算、威力確認、夜間訓練等々、基礎研究と応用研究が平行して進められる予定である。そうなれば技術者達の学問が捗り、この都市で同時に進められている投石機の量産計画と共に大いに荊北同盟の原動力となるであろう。


 そしていよいよ董清が漢中軍に天水への進攻を命じた。陽平関で敵軍と正面衝突する愚を犯さない為、北道をあえて通らず、西の桟道を抜ける道程である。今回は大和・福貴隊に加え、董清・魯蓮隊も投石機を率いる。鬼龍隊と林玲隊がそれぞれ護衛に弩兵隊を率いる念の入れようであった。

 
 漢中軍は桟道に差しかかった。董清は副将に任じた魯蓮の様子を案じていた。漢中を進発する前からこの方何やら考え込んでいる節があるのだ。福貴には小言をこぼされたが、西涼討伐の初戦である。大事の前の小事と割り切る訳にもいかない。不確定要素を持つのは好ましくないが、今度の決戦には魯蓮の力も必要であった。であれば、自身の監督下に置くしかないであろう・・という配慮である。(福貴には、それをダシにして色事に走ろうとしていると邪推されているが。)
 その頃、蘭宝玉は永安の開発に目処を付けつつあることもあって、次なる計画を実行に移そうとしていた。まずは趙雄夫妻に研究員3名を選抜してもらいたいとの書状を送った。

 張春華は召集命令を受けたものの、陳留から動けずにいた。文醜隊が城外に陣取り、包囲を続けているためである。現在周信らが撃退に出ているが、外出禁止令は敷かれたままであった。蘭宝玉からは急がなくても良い旨を通達されているが、一大計画に参画できるということで、秘かに期待に胸を躍らせていた彼女は少々焦らされる日々を送る事になった。

 上庸での実験場は着々と施工が続いている。実験に同時使用する投石機の数を増やす為、一時的に宛にあった3台を借用することにした程だ。

 蘭宝玉は永安で穀倉を建設しながら、遠く上庸や新野に次々と指示していた。傍らの農民からしてみれば、農地で何やら緻密な計算と複雑な計算をしている彼女は異端である。奇異に見えたとしても仕方がなかった。「ええと、これで人材は確保できたから、あとの課題は研究進捗と資金の調達ね。巴蜀と上庸の資金をあてにするとして・・。ええとそれから・・・。」

 蘭宝玉は王圃と共に永安の地を離れ、上庸へと向かった。各種実験の土台となる投石機の開発と、そこで繰り返される実験データを下に研究を重ねる研究員の養成を担うためである。実験設備の建設は張魯が中心となって、急ピッチで続けられており、霹靂の研究が終了するであろう時期に合わせて投石機に搭乗する人材も選定する予定だ。


 漢中軍が桟道をようやく抜けた。天水を守備する成公英はおそらくこちらの動きを察知していると考えた方が無難だろう。にも関わらず、桟道の出口で待ち受ける兵はいなかった。やはり他に隊を任せられる人材が不足しているのだろう。成公英一人ではどうしようもないに違いない。とは言え、座して天水に漢中軍が殺到するのを待つはずもなく、そろそろ迎撃に出てくるはずである。

 
 董清の読み通り、成公英は漢中軍の接近を察知していたが動くに動けない状況であった。相次ぐ陽平関の出兵により、天水では成人男子があらゆる部署で不足が目立ち始め、それに伴い事故の発生、治安の悪化が急増する事態になっていた。警邏隊の士気を任せることのできる人物すらおらず、成公英自身が城内に残って陣頭指揮を執る有様であった。よって城内を留守にする訳にもいかなかったのだが、敵軍接近の報が民にも知れ渡ると、特に一定の財産を保有する中流層以上が自分達の生活が脅かされることに不安を覚え、「何故迎撃しないのか?」と口々に不平を言い始めた。内通の懸念もあり、強権を発動して戒厳令を敷く訳にもいかず、天水まであとわずかというぎりぎりの所で成公英は出陣した。つくづく先年からの出兵により諸将がいないことが恨めしい。だがそんな成公英の悲壮な覚悟すら読みきっていた董清は諸将に命じて包囲陣を敷き、あっけなく天水軍を粉砕した。瞬く間に全滅の憂き目にあった成公英はほうほうの体で天水へと逃げ帰った。勝手気儘なものではあるが、天水の民の怒りがさらに膨れ上がったのは言うまでもない。
【2014/05/06 01:57 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
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