忍者ブログ
  • 2024.04
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • 2024.06
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2024/05/09 10:32 】 |
晋陽にて(完)

晋陽が落ちた。迎撃に出ていた沮授隊2千を手玉にとり、部隊を殲滅させられた沮授が城に引き返すのに合わせて自軍の間者を城内に紛れ込ませることに成功した。夜陰に乗じて晋陽城に迫った魯蓮隊が間者によって開けられた城門を潜って城内に乱入。


元より2千しかいない少数の城兵に勝ち目はなく、袁軍はあっさりと降伏した。終わってみれば、董清軍に被害はなくまたもや彼の伝説に1ページが書き加えられることになった。

晋陽入りした董清は早速、部下に市中警邏を命じ、まずは治安の維持に努めた。民の信頼を得て今後の統治をやり易くするための布石である。今回は内政に力を入れるつもりはない。兵糧の補給を待って、薊へ攻め込むつもりである。敵兵は2万に満たない為、長期戦にはならないだろうと思っている。

晋陽では董清が矢継ぎ早に命を出し、市場の建設と兵の調練を再開していた。兵糧が届くまで、まだ幾ばくかの時がかかる。その間にやれるだけの事をやっておくつもりだ。

晋陽では兵の調練が繰り返し行われていた。いずれ行われる薊への進攻は、南皮を攻略中の平原軍と呼吸を合わせることができれば、絶大な効果が期待できるだろう。

董清は輸送部隊の到着まであと1ヶ月と見て、それに合わせて出陣準備を整えるよう諸将に命じた。その後は、それぞれ市場の開発に乗り出す者、兵の調練に精を出す者に分かれ、思い思いに過ごす事になった。折しも薊では闇雲に兵を増やす事に必死になっているようである。治安が急激に悪化しているようだが、構っていられないと言うのが守将たちの意見であろうが、遅かれ早かれ彼らは民の信を失い、自分たちの首を絞めていたことに気付くだろう。

晋陽に王忠隊より伝令が届いた。晋陽の駐屯兵がまるまる戦場で百日以上養える兵糧があとわずかで届きそうである。薊では1万近い兵が移動してきているようだ。合わせると3万程度の数になる。それだけ晋陽を警戒しているということだろう。落日の色濃い袁家にあって必死に足掻く様は、最早不憫とも言えよう。






その後、袁家を滅ぼした梁は、余勢を買って、とうとう孫家との全面対決に臨んだ。
将兵の質量ともに充実している梁に孫家が抗えるはずもなく、ついに主・孫策は屈服し、軍門に下ることを選んだ。中華全土を平定した梁は、この後永きに渡る平安の世を築くのであった。


PR
【2014/08/08 09:47 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
自軍の兵を損ねない将

「斥候からの報告によると、ちょうど山の反対側で敵部隊が進軍中とのこと。その数およそ一万。旗印から袁家の二枚看板の一人顔良の手勢と思われます。」
「我らの動きを察知されたか?」
「現段階では不明。しかし用心は必要です。」
「進軍止めい!この地で編成を整える。各部隊は速やかに輜重隊との合流を図るように。」


「やれやれ、やっと追いつきましたよ。」
「馬鹿野郎!てめえがなかなか来ねえから、待ってやってたんだろうが!ほれ、さっさと次行け!次!」
「へいへい。」

 
「やはり敵の諜報の網にかかったと判断した方が宜しいでしょう。」
「ああ、顔良はこちらの位置を把握していると想定した上で、行動するとしよう。」
「顔良部隊の進軍速度から逆算すると、遭遇地点はここらへんになるかと。」
「よし、そこで罠にかけるとしよう。」

  董清軍にとっては十八番の戦法も、新参の馬超や榛春にとっては、初めて目の当たりにすることになる。董清の采配を間近で見られる時が近付いていることを知り、胸が高鳴るのが自分でもよく分かった。

 
戦場を見定めた董清は諸将の布陣を確かめていく。
「鬼龍隊は右翼、林玲隊は左翼に回れ。大和隊と魯蓮隊は後背に位置し、火矢攻撃と連携して投石を始めよ。俺は正面に位置し、、皆の攻撃の補佐に回る。」
「若!顔良隊の攻撃を正面から受けて立つおつもりで?」
「案ずるな、そんなつもりはない。顔良は勇猛だが、深く考えることのできない馬鹿だ。猪突猛進な奴はきっと俺を見て、真っ直ぐに突っ込んでくるだろう。格好の的だ、外すなよ。その後は奴を撹乱するなり、止めを刺すなり、好きにするさ。我が隊に迫れども、奴の手は俺には届かん。」

 
顔良の真正面に、河北においても名高い董清の旗印が見えた。
「ほう、大将自ら前線に出張るとは、胆の据わった者か、余程の馬鹿と見える。いずれにせよ、この俺が引導を下してやるから、大した差はないがな。」
全軍に突撃の命を下した。自ら調練を施した兵たちが、驀進を始めた。野獣のように、手柄を立てんとして敵に襲い掛からんとしている。ふと、左右にも敵部隊が展開しているのが見えた。だが、それがどうしたというのだ。董清のこれまでの戦いぶりは熟知している。包囲される前に董清の喉元に自分の刃が届く・・・その自信が彼にはあった。もう董清隊は目前だ。
「自らの兵を損ねない将だ?ああん!?この俺が部下どころか、てめえ自身を終わらせてやるぜ!」


董清の顔が肉眼で判別できる・・・そんな距離にまで肉薄したところで、突如視界が暗転した。顔良隊の先鋒が突如口を開いた大穴に嵌って、吸い込まれるようにして消えたのである。穴の深さは落ちた人間が一瞬昏倒するほどで、大した殺傷能力こそないが顔良隊の動きを封じるには十分だった。次々と前線が立ち往生するも、そんな惨状を知らぬ後方は勢いを止めることなく尚も進んだため、味方に押されて穴に突き落とされる者、転倒したところを味方に踏み潰される者が続出した。壊乱状態になったところへ、火矢と岩石が雨霰と降り注ぎ、1万1千もの大部隊だった顔良隊は7割強を一瞬の間に失う羽目になったのである。しかも顔良はまだ兵の混乱を収束できず、火に巻かれて散々な有様だった。そこへ董清軍の容赦のない第二撃が食らわされようとしている。

 
統制の取れなくなっている顔良隊に、董清軍の第ニ射が飛来し、第一射の攻撃を辛うじて生きながらえた者達に、早いか遅いかでしかなかったことを知らしめた。遭遇してから半刻ばかりの出来事であり、ケガを負った顔良はわずかな供回りの者に支えられながら、晋陽城へと逃げ帰った。
董清は、鬨の声を上げる兵たちを静め、すぐさま進軍を再開させた。晋陽の南に兵舎やら軍事施設がいくつか建設されており、早急に破壊しておきたかったのだ。幸い、鄴からの味方の支援のおかげで、壺関の攻略に費やすはずだった時間は短縮できそうである。

 
顔良が一旦退いた。その隙に一気に軍を進めるべく、董清は各隊に号令を出した。だが晋陽でもそれは想定内の行動であったのだろう。城に帰参した顔良にすぐさま8千の騎兵を与えて、再出陣させたのである。今度は顔良が最も扱いを得意とする騎兵隊ということもあって、顔良は一度は失いかけた自信を取り戻す事ができた。だが、総勢5万近い董清軍に単騎で挑もうなどというのは到底視野が狭い証拠である。またもや返り討ちに遭うのが関の山であるのに、彼にはそれが理解できていないらしい。

 
「何だ?何が起こっている!?」
顔良は喚いていた。無理もない。突然、旗下の兵たちが混乱の極みに突き落とされ、火矢を射掛けられたかと思うと、自慢の騎兵部隊が瞬く間に半数近く討ち取られてしまったのだ。しかも遠くからは轟音と共に何かが破壊される音が聞こえてくる。あの方角には晋陽で軍事拠点を構えている平野がある。もしかすると兵舎や鍛冶場が狙われたのかもしれない。
「うぬぬぬ。どこまでも小癪な!」
彼の地が落とされると、晋陽で再軍備を整えるのははるかに難しくなる。しかし今、自分には指を咥えて見ている以外に手立てはなかった。いや、そんな悠長なことをしていられる状況ではない。自身の部隊、いや自身の命すら危険に晒されているのだ。今更ながらに董清の末恐ろしさが身に染みてきた。

 
「若!晋陽より援軍が向かっているとのこと!」
「将は誰だ?」
「沮授です!」
「ならばヨシ。全軍、沮授隊は意に介さずとも良い。前面に展開する顔良隊を血祭りに上げろ!殊更、我らが武威を示すようにだ。大和隊は敵兵舎を叩き潰せ!」
「御意!」
董清の下知を聞いて、まずは顔良隊の殲滅が始まった。顔良隊にとっては、もっとも恐ろしい瞬間であったろう。本気になった董清軍の攻撃を垣間見たのである。それは沮授隊への示威行為を兼ねていたわけだが、最早少数となった部隊が全滅に追い込まれる様は、まさに悪魔に魅入られたかのようであった。顔良はまたもや晋陽へ命からがら逃げ帰る羽目になった。
事も無げに顔良隊を全滅させた後は、董清軍は左右に展開して、沮授隊を待ち受ける陣形を取った。果たして沮授はどう対応するであろうか?余程肝の据わった者でもない限り、先刻までの地獄絵図を見せ付けられた後に、戦場のど真ん中に躍り出ることが出来る者はいないであろう。董清の読みでは、頭ばかり優れた大して武勇もない青瓢箪ともなれば、顔良が逃げ帰った今、晋陽に引き上げるのが関の山なのだが。

 
董清軍は進軍を再開した。全軍が晋陽に向けて、足並みを揃えて前進する。ちょうどここから狭い一本道に差し掛かるというところで、董清は全軍に一旦停止を命じた。守る側からすれば、この地を利用するのが一番である。攻め手はどうしても一隊ずつにならざるを得ず、兵数の少なさをカバーできるからだ。逆に言うと、ここは絶対防衛地点とも言え、自ずと選択肢が狭まってくる。すなわち打てる手の中から最善の手を選ぶのが参謀という人種であれば、沮授は間違いなくここで迎撃の為の兵を出してくるはずであり、それが彼の智謀の限界でもあるはずだった。董清はそれを逆手に取ればいいはずである。

 
思惑どおりに出撃してきた沮授隊を一瞬で葬り去り、董清軍は晋陽まで後僅かという距離まで接近した。彼らと晋陽を隔てているのは、沮授隊を殲滅する時にできた残り火のみである。今回はそのおかげで晋陽からの迎撃から身を守る盾にもなっていた。晋陽に駐屯する兵は僅かに4千。攻略完了まで秒読み段階にとうとう入った。

【2014/07/26 00:09 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
奇妙な北伐行
徴兵、訓練、巡察・・延々とそれが繰り返される。いずれの政策にも選りすぐりの将が当てられ、常に最高水準を維持できるよう工夫されていた。長安の政策はすでに内政重視から軍事重視へと一変している。
「内政?んなもん、出陣後に留守番がやっておけ。」
口にこそ出さないが、董清の顔にはそうはっきりと書いてある。さすがに露骨過ぎると民の反感を買うだろうと、福貴が市場開発を買って出た。
「現在の兵糧が18万。兵数4万で400日は保てるか。まだまだ雇用できるな。やはり5万は揃えるかな。」



 
董清、馬超、曹丕が義兄弟の契りを結んだ。いずれも若と呼ばれた者達だが、1つの王朝、軍隊を率いることも可能な資質に恵まれた者達である。馬超は先の西涼攻略戦で董清の戦いを目の当たりにし、曹丕は偉大なるあの父親を苦しめた(果ては滅亡に追い込んだ)者の一人として董清を最初は憎み、今では崇敬の念を抱いていた。それがふとしたキッカケで直接言葉を交わす機会を得、酒を飲み交わす中で、意気投合し、あれよあれよと言う間に契りを交わすことになったのである。

長安では引き続き、徴兵、訓練、巡察、兵装生産が行われ、その合間を縫って、市場や農場の開発が少しずつ進んでいっている。本格的な復興はどうしても董清が戦団を率いて出発した後になるだろう。

「良かろう。採用だ。」
 しばしの沈黙の後、董清は榛春に各将軍に伝えるよう指示を下した。意見が通った事に気を良くした彼女は軽やかな足取りで退出した。榛春・・・かの者は梁王の幕下にいた時分より新しく柔軟な発想をすることで評価を得ていたようだ。技術開発にも幾度か携わったと聞いている。梁王は彼女を育てよ、と董清の元に送ったのではないらしい。思わぬ贈り物を頂いたと素直に喜ぶとしよう。


長安の兵士数が4万を越えた。董将軍が北伐に参加するとの噂は、鬼龍や大和の情報操作も手伝って、早馬よりも速く周辺に伝わり、勝ち馬に乗ろうと野心ある若者や豪族、名士らが続々と参陣を願い出てきている。百戦百勝の彼の名将ぶりは、劉陵に勝るとも劣らず人気を博すようになっていた。董清率いる部隊は末端の軍属に至るまで英雄になれるという荒唐無稽な話まで飛び交っている。すべては主のために大和たちがあることないこと吹き込んでいる結果であった。一度兵として取り込んでしまえば、どんなゴロツキであろうと、精鋭に鍛え上げるだけの時間と労力はある。とにかく頭数を少しでも増やしたかった。
一部始終を知った董清が吐いた言葉が「勝手にしろ」である。まったく、兵士一人ひとりの夢想にまで責任は持てない。
 
 
解県港目指して4万7千の兵を率いて、王忠が進発した。本人は部隊長に選ばれたことで興奮しているが、人選に特に意味はなかった。単に「暇そうな奴」の中から、適当に董清が選んだだけである。とは言え、本人の意気込みは凄いものである。言わぬが花・・ということもあろう。
榛春の献策を入れて、まずは輸送隊を送った以上、長安に残った諸将は当面軍備増強から解放されることになった。しばらくは内政に専念することになり、穀倉の建設やら農場の集約やらに励む者も現れた。
 

孫家の怪しげな動きは確かに気がかりなところだ。
だが周信が必要な手を打っていることで、董清は長安の内政に邁進することにした。西部平野の商業都市は最後に造幣局を建設すれば完成する見込みだ。北部沿岸地帯の農業地帯の開発も順調である。ここで大穀倉地帯が出来上がれば、中原での大輸送基地の要になるだろう。
北伐を本格的に開始する前に是非とも進めておきたいところだ。


「槍兵の次は戟兵ですか。」
「そうよ。旋風の如く、密集地帯に入り込んで、周囲の敵部隊に打撃を加える事を得意とする戟隊だけど、それだけ集中攻撃を受ける可能性が高いわ。だから防御力を向上する手立てを考えて欲しいの。」
技術開発を続けるうち、黄権、賈逵、張春華を始めとした新野研究施設の面々は文武のあらゆる部門に深く鋭い知識を得るに至っている。きっと他勢力にしてみれば喉から手が出るほど欲しい人材であろう。だがそんな彼らに「無理難題だ!」と絶叫を上げさせるほどの要求を押し付けてくるのが蘭宝玉である。今日もまた青い顔をして蘭宝玉の部屋から出てきた黄権の顔を見て、末端研究員たちはこれから数ヶ月に及ぶ地獄を容易に想像できてしまうのであった。

 
 解県港の要所を無事制圧したとの報が王忠より齎された。董清は、休むことなく夏陽港の制圧に乗り出すよう、指示を与えた。まもなく長安の復興も間近である。多くの余剰人員が出ることが想定されるので、鄴もしくは今後平定予定の平原に移動して力を尽くせと命じてあった。

 
王忠が夏陽港の制圧に向かった。彼が見事制圧を完了すれば、いよいよ董清以下北伐に参加する将軍が長安を出立する事になる。長安では引き続いて徴兵及び調練を繰り返し、都を守護する最低限の兵は集めてある。あとは留守の将軍を信頼して、北伐に専念すれば良かった。
 
「これより出発する。後は任せた。」
董清、鬼龍ら主だった将が夏陽港へと旅立った。柔軟な発想力を見込まれて榛春も同行を許されている。また長安の復興に目処が付いてきたことで馬騰以下馬家の者達には、最前線にて働き場を求めるよう指示されている。とりあえず北伐の足がかりとなっている鄴に身を移す事になりそうだ。義弟の結婚に董清も馬超も祝辞を送ったが、如何せん軍旅の最中に知ったことである。いずれ正式に祝いの言葉を告げることになるだろう。


鬼龍隊と董清隊により西河港はあっさりと落ちた。密偵によれば、ここから晋陽まで地元の住民しか知らない山中を抜ける桟道があるらしい。梁軍は優れた踏破能力を兼ね備えているので、部隊の進軍には何ら差し支えないだろう。西からの災厄の到来に気付いているのかどうか、晋陽では兵の移動を行っているようである。

西河港に入った董清はすぐさま接収した営舎にて軍議を開いた。
今回の部隊構成も弩兵と投石機を中心として織り成す事を決め、隊の諸将の振分けも決定した。
一旦、この地で兵たちの鋭気を十分に養い、来週より長い遠征に乗り出すことになる。董清は新たな伝説を作るのか、ここが鬼門の地となるのか、それはまだ誰も分からない。

長安に残った宇文通らは徴兵と鍛錬を繰り返し、1万の精鋭を擁するほどになっていた。今行っている農地開発が順調に進めば、復興完了まであと僅かというところである。董清は進軍準備の最終調整を終え、いよいよ晋陽攻略に乗り出すときが近付いてきた。将兵ともに気力十分で、戦意は漲っている。長躯する間にそれを挫かぬよう、最大限配慮する必要があるだろう。今回の戦いの敵は晋陽兵だけではないのだ。

 
夏陽港から西河港への移動が遅れている。長江の河が氾濫し、容易に船で渡れなくなった為だが董清ら先に渡った者からしてみれば歯痒いことこの上なかった。出立の時が遅れたが、その分兵士達には十分なほどの休養を与える事ができた。ただ徒に時を費やしては望郷の念に駆られる者も少なからず出てこよう。懸念は尽きる事がない。
長安では最後の穀倉の建設に着手し、内政計画が最終段階に入った。そろそろ太守を決めて、その者に統治を委託する段階に来ていると言えよう。もともと潜在能力の高い都市である。どれほどの資金と兵糧を算出してくれるか計り知れない。

 
 董清を総大将した晋陽攻略軍が西河港を進発した・・・はずなのだが、あまりにも港は静寂を保っていた。大軍が動いた形跡がなく、港に侵入していた袁家の密偵も戸惑うばかりだった。
将のみで率いる兵が全くおらず、総勢でも10名に満たない軍隊であるとは夢にも思うまい。

 
董清達の物見遊山の如き進軍が続く。
「あなた、川だわ。」
「岸辺を歩くと危ないよ。足元に注意して歩くんだ。」
仲睦まじく、手を取り合って歩く新婚がまさか西涼の雄・錦馬超夫婦だと分かる者はまずいまい。彼らの周囲を歩く家人3人が天下に雷名を轟かしている五虎将軍だと判別できれば奇跡と言えるだろう。夫妻の後に付き従う侍女達が陽平関をたった一人で封鎖したかの林玲将軍や榛春将軍だとは・・(以下、略)

 
満を持して王忠隊が港を進発した。とは言っても大規模キャラバンとその護衛隊といった風情である。この程度の小細工で誤魔化せるとは到底思わないが、何かの撹乱にはなるかもしれない。「駄目もとでやってみましょー!」とは誰の発言かはあえて言わないでおこう。趙雄が懸念するとおり、本隊との連携が鍵になってくる。いずれ敵の迎撃があるだろうから、戦場になるポイントを正確に読みきる必要があった。

 
王忠「やべえやべえやべえ!」
輜重隊(その実、本隊)を率いる王忠は内心の焦りを隠しきれず、各部隊長に行軍速度を速めるよう指示を飛ばしていた。こんな大軍を扱ったことも初めてだが、輸送相手の董清達の足が恐ろしく速いというのが何よりの計算外だった。一体どんな調練を重ねれば、脱落者を一切出さずあれだけの速度で進めるというのか。とにかく董清から受けた命は唯一つ。「晋陽に着く前に追いつけ!」という至極単純なものだった。だがそれが如何に難題だったかは今頃になって気づかされた。

ひゃー!

 
「待ってくだせえ~。」
報によれば先鋒の鬼龍隊はすでに湿地帯を抜けて山間部へと差しかかったそうだ。まだ湿地帯の半ばにいる王忠隊にしてみれば、全く追いつける気がしない。だがさすがに将一人だけで関所や城に戦いをを挑みはするまい。とにかく脱落者を一切出さず、かつ迅速に行軍を続けるしかなかった。


【2014/07/08 23:48 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
静かなる闘志
「長安へ移るだと?」
「はい。ここ武威及び安定の復興も間近です。余剰人員も生まれてきた今、気に掛かるのは先年荒廃させてしまった長安のことです。」
「復興に携わり、民に報いたいと申すか。」
「馬氏一族及び郎党の総意にございますれば、何卒お聞き届け頂きたく。」
「分かった。許そう。見事復興を果たし、袁家に南だけでなく、西からの脅威に備える必要を感じさせるのだ。我らが長安から実際に攻めるかどうかはともかくな。」
「御意。全力で取り掛かることをお誓い申し上げます。」
董清の認可を得ると、馬騰は武威と安定の余剰人員を引き連れて、長安へと旅立った。袁家包囲網が段々と狭まっていっている。


上庸実験施設の修繕が完了した。ちょうど新野での研究に差し支えないようにと、蘭宝玉が計算して配慮していたので、大した遅延もない。久しぶりに羽を伸ばせると期待していた黄権らはあてが外れて肩を落とすことになった。
安定での開発は最終段階を迎え、造幣局と穀倉が完成すればすべての事業が完了する。董清からは速やかに長安へ移動するように通達が届いていた。長安の復興作業に大人数を割くが、できれば董清個人としては北伐にも参加したいところだった。何とはなしに内政に専念するだけの生活に飽きが来ていたのだった。武威の兵力を移動させて、いっそ晋陽を直接攻めようかとも考え出した。

 
新野での疫病の蔓延は、梁にとって痛手であった。ここには国内の頭脳の粋が集められているのだ。もし人的損失が出たと成れば、それは国力の低下に直結しかねない事態となりうる。さっそく蘭宝玉は新野へ医療班を派遣した。彼らは医療への参加及び衛生指導に当たり、新野での疫病を早期に収束させる使命を担っている。梁首脳陣としては、彼らに大いに功績をあげてもらいたいところだった。
武威では復興作業に目処が立ったことで、駐屯兵を長安へ移動させることが決まった。途中、安定に立ち寄り長安への資金と兵糧の輸送を兼務する予定である。

新野で急速に治安が悪化しつつある。疫病の蔓延に伴い、物流が悪くなり、食物が十分に行き渡らなくなりつつあった。また風評と共に新野製の物品が買い叩きに遭うようになり、余計に民の暮らしを圧迫しつつある。そういった悪徳商人やら流通業者やらを野放しにしていては、いずれは夜盗が蔓延り、長じて山賊の類が生まれるかもしれなかった。いやすでに徒党を組むことを計画している者がいるかもしれない。そうなると学術の府、新野にいる研究員の生命や膨大な研究データに損失が生まれる可能性があり、梁軍全体に波及する大問題になるかもしれなかった。蘭宝玉は熟考の上、新野近隣に位置する宛から一時的に政務を取り仕切るものを派遣するよう要請した。宛の太守を兼ねる段超はその要請に応え、張既、劉馥、伊籍の三人に協力してこの難事に当たるよう命令を下した。自身が疫病にかかるかもしれないとの恐怖に耐えながら、兵を叱咤激励し、民の不満を和らげねばならない。そんな過酷な仕事は誰もが尻込みするはずだが、彼ら三人は快諾して宛への旅支度を始めたものだった。
「どうせ、誰かがやらなきゃならないんだ。なら、一人モンの俺らの方がいいっしょ。」

「んだんだ。姐御の頼みだしな。断る理由もねえべさ。」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと行くぞ。こうしている間にも民は困窮しているんだ。早く暮らしを楽にしてやらんとな。」

武威での内政もいよいよ大詰めに入った。穀倉の建設が完成すれば、武威も直轄から外れ、太守による委任統治が行われていくことになろう。福貴も馬超も伴侶が先に長安へ赴任しており、自身も早く長安へと向かう為、穀倉建設に精力的に取り組んでいた。安定は一足早く内政に区切りが付きそうであるし、これを機に一度軍団の再編成を行ってもいいかもしれない。新野では、早速赴任した張既、劉馥、伊籍の三人が治安向上の為、市中取り締まりの強化や賄賂の禁止、詐欺・恐喝の類にまで目を光らせた。その結果、疫病蔓延が始まる前までの状態には及ぶべくもないが、徐々に良くなり出した。

張既、劉馥、伊籍の三人は引き続き、新野での治安向上の為の布石を打っていた。幸い疫病は収束し、新たな患者の発生は皆無となり、既存の患者も快方に向かっている。療養所に滞在している患者の家屋は盗人の類が侵入しないよう、巡回して確認させている。困窮している者たちには国庫を開放し、備蓄してあった食料の供給などを柔軟に行い、不平不満を和らげていった。政務に通じた彼らが陣頭指揮を執ったおかげで官僚達も職務が明確になり、励むようになった。無論怠けたり不心得の在ったりする者は、たちどころに処分された。確実に新野の状態は改善されてきている。

長安では董清達がもはや十八番となりつつある市場・農場開発を始めていた。大都市長安であれ、西涼の片田舎で行う事と大差はない。


 
賈逵と張春華が結婚した。まさに電撃と言って良い。降って沸いた突然の朗報に趙雄も驚くしかなかった。
苦楽を共にし、長きに渡る共同研究を続けてきた二人であり、そういう関係になっても不思議ではなかった。それに加えて疫病発生に伴う半強制的な軟禁生活がいけなかった。
「お前ら、いつのまに・・・。」
ワナワナと眉間に皺を寄せて怒りに震える黄権に、「はあ、まあ、なんというか、成り行きで・・。」と答えるしかない賈逵であった。筆頭研究員として、責任(苦労)の大部分を引き受けている黄権としては正直身内の幸せを素直に喜べる心境ではなかった。一報を耳にした時は、黙って私室に帰り、「あーもー!」と叫びながらガスガスと壁を荒れ気味に殴った始末である。こうなったら誰か世話好きのお姉さんに仲介を頼むしかないだろう。置いてけぼりを食ったようなショックからようやく立ち直りつつ、黄権はそう考えるのだった。


そんな内情にはお構いなしで蘭宝玉から、城壁強化の開発の命が届いた。占領したばかりの鄴や平原を北伐の足がかりとする為には、占領直後に磐石の防備を固める必要がある。そのための布石である。黄権の計算では約40日ほどかかるが、ちょうど良い時機になるだろう。

 
黄権に「司空」、賈逵に「尚書令」、張春華に「中書令」の官職任命の沙汰があった。

梁軍の軍事力、内政力を飛躍的に向上させるのに大いに貢献したことが評価されたわけだが、それに異存を唱えるものは誰もいない。多方面に渡る研究を続けてきたおかげで、諸問題にも精通している三人だった。蘭宝玉にあごで使われながら、彼女の期待に歯を食いしばって答え続けている精神力が評価されたというのが巷の噂だったりするのだが、真偽の程はさだかではない。まだしばらくは研究漬けの日々が続く為、官職をもらっても実際の政務に就くのはまだ当面先の事になるだろうということが懸念点だったが、これまでも空席のままで何ら問題がでていなかった故、今更何を言うのかというのが趙雄の持論である。
今の調子で功績を挙げ続ければ、黄権、賈逵、張春華の三人が至上の地位を揃って就任する日は遠くないであろう。


武威での開発が終了した。完全に復興が成った町並みを見て、馬超は思わず形相を崩した。これから福貴や成功英と共に長安へと旅立つ。武威の政務は韓徳が一人残って当たる予定だ。
長安では農場の開発が始まった。大勢の人数で一気にこの大都市を発展させる腹である。

 
軍団の再編成が行われた。新軍団は地域別に分けられ、西涼、巴蜀、南蛮でそれぞれ新設される事になった。各地域には文化や特色というものがあるので、なるべくそれらを殺してしまわぬよう、近しい領域ごとの再編成を実施したのだった。
長安では急ピッチで市場と農場の開発が行われていた。何度も戦乱に見舞われ、すっかり荒廃した旧都ではあったが、董清の吹き入れる新しい息吹によって再生の芽が生まれつつある。

 
「次は防衛強化です。城を守る兵が効果的に寄せ手の兵を削る方法を考案しなさい。」

黄権らが城壁を強化する方法を編み出し、城の耐久力が飛躍的に向上してすぐの話だった。
全く蘭嬢は休息という言葉を知らんのか。これだから私には一切出会いと言うものが・・。
ブツブツ黄権は愚痴をこぼすが、誰も聞いてくれる者はいない。
先日まで賈逵や張春華とはこの手の悩みを共有できたのだが、最早彼らは裏切り者である。
はあ~っと深々と嘆息した後、開発計画を立案し始める黄権だった。

市場と農場の開発が行われる中、董清は法の目を掻い潜って悪事を行う小悪党共を取り締まっていた。董清達の統治に対する民衆の反応は上々だ。何度も戦乱に巻き込まれたことと、都としての機能が完全に移管されている為、大商人の類はこの地に残っていない。だが活気を取り戻しつつあるとの噂を聞きつけて、商売根性の逞しい若手の商売人が野望に燃えて続々と移り住んできた。一攫千金を狙う彼らの周りに雇用を求める民衆がやってきて、その周りにハイエナの如く群がる小悪党がいて・・良くも悪くも活気は盛況だ。悪い方向に進まぬよう、時折董清達は市中警邏を続けている。

「鄴にて我が軍と袁尚軍が激突!お味方の大勝利にございまする。」
「周信殿が水攻めを敢行された由、敵軍の被害は膨大なれど、お味方のそれは僅かとのこと。」
「鄴城に篭る兵は1万を切ったとのこと。落城は時間の問題と思われまする。」

(もう、その辺にしろ。してくれ!)

鬼龍と大和兄弟は静かに伝令の報告に聞き入る董清の顔をそっと伺いみた。沈黙を保っているが、目が異様にぎらついているのが見て取れた。気分が高揚している様子がよく分かった。血沸き肉踊るという形容が正しいのだろう。好戦的な気分になっているのは明らかだった。

政務に優れているとは言え、彼の本分は武人である。ちまちま内政を続けていることこそが奇跡だった。だが如何に董清がその気になっても兵がいなくてはどうしようもない。不幸にして今長安にいる兵は全てかき集めて千がやっとである。中華西部を北から南までそっくり平らげた董清軍にあって、鬼龍と大和も久しぶりの骨休めを思う存分楽しんでいたかった。

「報告!安定より輜重隊が到着しました。金及び兵糧の補給が成されております。尚、2万の兵がそれらを守る為に同行していた由!」

顔をみずとも董清がにやりと笑うのが分かった。
(兵キター!あああああああーーーっ!)

『兵が足りん。募集だ、3万は揃えよ。弩がないだと、すぐに補充しろ。兵士の鍛錬を忘れるな。』
すべて董清の寝言である。とうとう夢の中で戦いが始まったらしい。
さすがに福貴は慣れたもので、ここ数日間は子守唄代わりに聞いて寝入っている。

福貴から話を聞いて、大和と鬼龍は腹を決めた。
「あーこーなったら、もう仕方がねえな。若に我慢は似合わねえ。」
「そうですね。戦支度を始めるとしましょう。」
「差し当たって、陛下と軍師殿に連絡するか。董清軍は晋陽へ侵攻する、と。」
「かなりの長期戦になるでしょう。兵站も心配です。」
「なあに、途中の港を落として拠点とするさ。だが兵糧は大量に持っておくとしよう。」
「遠いですからね。道中、士気が下がらぬよう気を付けませんと。」

 
董清が軍備増強策を打ち出し始めた。榛春、魯蓮らには(美貌や愛嬌を生かして?)募兵を行わせ、自らは福貴や大和共に兵装の仕入れのテコ入れをした。

 
鬼龍、馬超、曹仁には兵の鍛錬を任せた。


さらに韓遂らに市中警邏を行わせることも忘れていない。

新参の馬一族には始めてみる主君の様子がある種、異様に見えたかもしれない。ぎらぎらした腹を空かせた狼のような目つき、矢継ぎ早に打ち出される反論を一切許さない事細かな指示、一歩間違えれば暴君と見間違う言動は董清がすこぶる上機嫌であることの証である。
余人が誤解してはいけないのだが、それは優れた資質と未来予知にも近しい裏打ちされた計算力あってのものであり、幸いこれまで彼の判断が間違っていたことはなく、誰を不幸にしたこともない。先の先まで読み切った戦略と柔軟な戦術が、これまでの巴蜀や西涼攻略にて被害をごく僅かにしたことからも分かるだろう。

とにかく董清は雄たけびこそ上げないものの、静かに闘志を燃やしていた。
【2014/06/30 21:48 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
天下三分

「良かろう。あんた達と一緒に働くとしよう。」
成功英が魯蓮の説得を受けて、とうとう梁軍に参画することに同意した。これで元馬騰軍の将はすべて梁軍の将となった。
当面は武威での復興作業に従事することになる。早急に市場や農場を開発して、民を富ませる必要があった。それは元馬騰軍の将達にとっても望むところだ。武威の将は今、質量共に充実している。全員で一丸となってかかれば武威の復興など造作もなく終わるであろう。

 
武威での復興作業が始まった。戦乱で荒れた土地を作り直していく。何を為すにもまずは資金が必要だろう、ということで市場開発が優先された。幸いにも治安状態は良く、障害となるような盗賊の跋扈もない。開発に携わるのはほとんどが元・馬騰配下の面々だ。最初に与えられた任務が武威の復興とあって、彼らとしても取り組みやすかった。ゆくゆくは彼ら騎馬民族としての力を存分に発揮し、袁尚軍や孫家相手にその力を見せて欲しいところである。

武威の北の大地のあちらこちらで煙が立ち上っている。それと同時に木材を組み立てるカーンカーンという小気味良い音も引切り無しに聞こえていた。
桂之は馬超と共に武威の城下町を歩いていた。どこもかしこも復興に向けて皆が精勤していた。餓民にも等しく、飯と仕事が供給され、餓えるものも将来に憂える者も今はいない。自身の不幸を嘆くものがいなくなれば、他人の物を奪おうとする者が減るのは道理である。自然治安が良くなり、人が集まり、物流が良くなり、生活がますます改善する。辺境の地であった武威が今や都と見まがうばかりの発展を遂げようとしている。自分達だけでなく、周囲の皆が笑顔に満たされているのを感じて、桂之は胸が熱くなった。そっと夫の肩にしな垂れかかって、そっと囁いた。
「今、私とても幸せです。」
「奇遇だな、俺もだ。」

武威と安定の復興に軸足を置いている董清の下に、今後の戦略について相談する周信からの文が届いた。袁家と孫家と天下を三分する構図が遠くない未来に到来する事に関し、董清に異論はない。そしてそうなった場合、まずは北の袁家攻略を優先し、一応孫家とは同盟の形を維持するべきだと考えている。如何にそれが上っ面だけであることが見え見えであろうと、時に建前が有効であることも歴史が証明している通りだ。そして袁家攻略に当たり、やはり官渡港を起点とする方が労少なくして実り多しと思われた。西側攻略ルートは確かに敵の虚をつけるだろうが、兵站の維持が尋常でないのだ。そう意見書を認めて、返信を出す事にした。ま。あくまで一意見である。異なる意見が採用されようとも否やを言うつもりはない。

「ただ今、赴任致しました。以後、宜しくお引き立てのほど・・。」
「南に行け。田畑を耕せ。」
「えっ、あの・・」
言いたい事を言って、さっさと席を立とうとする董清に、慌ててつい声をかけた榛春だったが、まだ何かあるのか?とばかりにぎろりと睨む董清に少々面食らった。一介の士官の赴任に、豪勢な歓待など期待はしていなかったが、もう少し親近感が湧くような温かい出迎えを受けるものと想定していた。しかし現実は、榛春の着任があることは分かっているはずなのに、他の幹部は一切おらず皆、出払っているようである。董清にしてみてもたまたま用事があって政務室にいただけのようである。出立前に、蘭宝玉からある程度話を聞いてはいたが、極力無駄を嫌う董清の意向が全軍に浸透しているようである。
「いえ、特に。早速開発にかかります。」
それを聞くと、董清は少し頷いて、そそくさと部屋を出ていった。
(これは慣れるまで、ちょっと大変だぞぉ。)
荒療治だが、しばらく失恋の痛みなど忘れるぐらいの多忙さが自分を待っているようだった。

「平原から袁家の色を消してしまうか。悪くない。」
 曹操の没落を対岸の火事と捕らえていたのだろうか。袁尚のやっていることは兵力の逐次投入であり、曹操のそれと何ら変わらない。かつて鄴に駐屯していた大兵力はすでに半数近くまで減っている。平原の足がかりとして濮陽を残しておく限り、小うるさい蝿にたかられる如く、陳留が脅かされるであろうが、奪取してしまえば、敵軍を川岸で塞き止めることも可能である。劉陵の実力を持ってすれば、濮陽攻略は赤子の手を捻るよりも容易いことだろう。

 
「爆薬・・ですか。」
「ええ、一言で言えば、先日開発してもらった火薬の強化版です。虎牢関攻略時など、あれは非常に戦場で役に立っているようです。強化版ができれば、堅固な城壁をいとも簡単に破壊し、目の当たりにした者の抵抗する気を失くさせることも可能でしょう。お願いしますよ。」
「はあ。」
数々の開発を成し遂げてきた新野研究所である。主任研究員筆頭・黄権の功績はすでに梁軍中にあって一・二を争うものになっている。無論、賈逵や張春華のそれも頭抜けている。だが、それを誇って良しとしないのは、彼らの性格が成せる業か、それとも蘭宝玉の統制が効いているからか。だが確実に彼らの存在は、地味ながら梁軍にとって欠かすことの出来ない縁の下の何とやらであると言えよう。

武威での資金が不足しがちになってきた。もともと潤沢だったわけではない為、予想できたことではあるが、手を打っておかなかったのは失態と言えよう。大勢の将があちらこちらで指揮を取っている為、消費が激しいのも事実ではあるが。とりあえず開発が終了した天水よりまとまった金を輸送させることにした。
周信の通達を聞いて、蘭宝玉は兵器庫に眠っている物について思い出した。上庸には8台ほどの投石機が今は使われずに埃を被っている。今は人員を割く余裕がないので放置しているが、袁家や孫家との戦いに有効活用してもらう為にも、手が空いたらとりあえず宛辺りに運ぶとしよう。そこから東の汝南に運ぶも良し、北の陳留に運んでも良いだろう。

武威では精勤している将を労う為、特別報酬が支払われることになった。
「ひゃっほう!今日は酒屋で朝までいくぜえ!」
「こういう時こそ貯蓄、貯蓄・・と。」
「なあ、俺に貸してくれたら明日倍にして返すぜ。」
「久々に家族で豪勢な飯を食いに行くかなあ。」
人それぞれ様々な反応があるが、皆やはり喜んでいることに変わりはない。これまで以上の忠誠を誓う者がいるのは道理だった。なんせ、未来ではこれがあるから勤め人やってる者もいるぐらいだ。


 
武威と安定での地味な内政が続いている。武威ではとにかく市場開発が優先され、現状の資金不足をなんとか改善させようとしている。天水からの輸送隊到着まであと一ヶ月ほどかかるだろう。何とか少ない手持ち資金を使って、最大の成果を出す・・そんな経営手腕が問われていた。幸い、董清は魅力にはかけるが、多方面に才能豊かであり、そういった分野にも長じていた。まさに戦乱の時代にふさわしい申し子である。何とか武威の復興を軌道に乗せるべく、今日も算盤と格闘をしていた。寡黙ゆえに難しい顔をして悩む姿には、侍女などに真剣に怖がられていたりする。


劉備軍が滅び、とうとう中華は梁、袁家、孫家の三勢力が覇を競う三国の時代に突入した。中でも抜きん出た実力を誇るのが梁である。だが荊州、益州、西涼を支配下にして、質量ともに磐石の将兵を持ち、技術革新目覚しいかの国が、六年前までは無名の存在だったと誰が理解できるであろう。おそらく梁にまともに対抗しようとすれば、袁家と孫家は互いに手を結ぶ必要があろう。だが両家とも意地か因縁か、はたまた賈詡の調略故か定かではないが、その可能性は低そうであった。

 「良い機会ですね。北伐の準備を始めるべきでしょう。」
「武威の開発が済み次第、馬一族とその部下達を濮陽へ送ろう。」
蘭宝玉も董清も賛同する旨の返書を送ってきた。全く持って、いきなり敵総大将の捕らえるとは劉陵は大したものである。確かに彼の功績なくば、ここまで梁は大きくなっていなかったかもしれない。趙雄が五虎将軍に彼を任じたのも頷けた。
武威では市場と農場の開発が地味に進んでいた。安定では平野が元々少ないせいか、復興に目処が立ちつつある。

武威、安定で地道な開発が愚直に進められている。一昔前に比べると、目を見張るほどの発展ぶりだが、董清軍にあって、誰もそれを特段誇るでもなく、ただ淡々と目の前の仕事をこなしていた。
「平和ねえ。」
福貴が鍬を振るう夫の元に昼食の握り飯を運んできた。西涼、益州、南蛮の統括を任されている司令官が、まさかこんな所で額に汗して農作業しているとは誰も思わないであろう。だが必要と在れば全く雑事だろうが、厭うことなく自ら実行に移すのが董清のいい所でもある。福貴が声をかけたのが聞こえていなかったのか、完全なる無視をしている彼にちょっとむかついて、やや声量を大きくして呼びかけた。
「そろそろお昼にしない?せっかく作ったおにぎりが台無しになっちゃうわ。」
「ああ。」
いつもは侍女に任せきりで台所に入る事のない福貴だが、今日はなんとなく昼食を用意しようという気になって、悪戦苦闘した結果である。最初は本格的な料理に挑戦しようとも考えたのだが、いかんせん素人の彼女ができるわけもなく、早々に諦めて唯一彼女が過去に作った事のあるものにしたのだった。
「どう?おいしい?」
心配そうに自分の顔を覗き込んでくる妻に、董清はぱくついていたおにぎりを一気に飲み込んだ。味はややしょっぱいが、むしろ自分好みである。ふっくらとしていて、上手な部類に入るだろう。「ああ、うまい。」素直に感想を述べつつ、2個目に手を伸ばした。
「そう、良かった。」
少し不安だったが、幸い、結果は好評のようだ。にこりとして、福貴は竹筒に入れた水を差し出した。董清が喜んでくれると、自分もなんだか凄く幸せな気分になる。夫婦の契りを交わして何年も経っているが、今こそ福貴は夫に恋をしていると自覚していた。


「雲梯・・・ですか。」
「そうよ。敵の城壁を我が兵が手間取ることなく上れるようにして欲しいの。梯子を台車の上に取り付けて、一気に敵城壁に迫り、すぐさま梯子を展開し、それを使って兵士が城壁の上に辿り着く・・なーんてのができればいいわね。」
「今回は具体的な構図を頂きましたので、すぐにでも取り掛かれますが、やはり三ヶ月ばかりは頂きたいかと。」
「良いでしょう。だけど急ぎなさい。北伐の準備が進んでいるんだから。


「そろそろ石壁の修復が必要ね。」
 上庸大実験場の老朽化に伴う修復工事の為、蘭宝玉が工兵8千を率いて出発した。1~2週間程度、研究が停止するが止むを得ないだろう。ここは一気に懸念材料の払拭に当たるべきで、問題箇所以外にも点検を隅々まで行う予定である。
 武威や安定ではいずれも市場の整備が最終段階に近付いている。資金の確保が容易になった為、開発速度は上がっている。市場の目処が立てば、次は農場開発の大詰めを迎えることになるだろう。董清としては西涼の復興に目処が立てば、益州同様、誰か太守を任命して統治を委任する予定である。後の面々は皆最前線に移動することにしている。

 
上庸から宛へ投石機8台の輸送が始まった。元々実験用に数多く作られたものだったが、すでに上庸では無用の長物と化していた。ならば袁家や孫家との戦いに活用してもらおう、と倉庫から運び出されたと言うわけである。
【2014/06/22 04:19 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
<<前ページ | ホーム | 次ページ>>