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【2025/03/17 11:02 】 |
あえて永安を奪わせよ

 董清は目論見どおり、迎撃に出てきた敵部隊を難なく蹴散らし、永安城へと各部隊を急行させていた。城兵は最早2千に満たない。彼我の戦闘力を比べれば、一撃の元に陥落させることも無理な話ではない。中央にて劉璋に降伏勧告すべしとの意見が持ち上がっていることを先日、董清は遠征先の野営地にて聞いた。もちろん大賛成である。無駄な国力の浪費を避けられるならそれに越したことはない。ただ、かの劉璋が勧告に応じてくれるだろうか。それ相応の使者を立てねば成らぬかもしれない。やってみる価値はあるだろうと思う。難しい場合はあくまで力押しという道が待っているだけだが。


 永安城が陥落した。福貴隊と鬼龍隊が城外に接近し、わずかばかりの火矢を射掛けて威圧しただけで、城内の将兵は狼狽し、堰を切ったように逃亡者が続出した。一週間も経たぬ内に人っ子一人見当たらぬ状態になったというから、攻撃側としても「もしや罠では?」「これが噂の空城の計?」などといぶかしんだものである。あとは近くの巫県港にこもる劉璋軍6千の兵を追い出せば、永安の完全制圧が完了する。港までの移動に随分と時を費やすのは必至なので、段超が建寧に辿り着くまでにというのは難しそうだ。


「こちらが相手のペースに合わせる必要はない。真正面からぶつかるな。横合いから攻撃して、敵の戦力を削り取れ。なんなら永安を一時明け渡しても構わん。とにかくこちらの兵士は一人たりとも死なせるな。」
董清の指示を受け、全部隊とも永安を南側から迂回するように展開した。がら空きとなった永安へまっしぐらに直進する呉蘭隊へ南側から火矢の集中砲火を浴びせる算段だ。おそらく呉蘭は踏みとどまって応戦するよりも、永安城へ逃げ込むことを優先させるだろう。それは彼の永安城奪取の目的を叶え、将としての面目を保つことであり、部隊としても被害を抑えることにつながる。よって反撃なぞあろうはずもなく、一方的に攻撃を浴びせる事のできる絶対的に優位な立場を得られる。永安城へ入れる兵の数はおそらく極少数であり、それらで一城を守るのは至難であろう。よって再奪取も容易である。


 自分の部隊が見る見るうちに少なくなっていく。呉蘭は悪夢を見ているようだった。港を出発したときはゆうに6千は下らない兵数を誇っていたにも関わらず、今や5百程度にまで減らされている。一体どこで自分は道を誤ったというのだろう。当初は永安城までの開かれた道をひたすら進むだけで良かった。遭遇した敵は皆一目散に逃げていくだけだった。だがいつしか後衛が矢を射掛けられるという報告を受けるようになった。敵の攻撃は散発的な為、大したことではないと思った。しかし徐々に敵の数は増えていき、後衛が混乱し始めたと気付いた時には遅かった。逃げようとする後衛部隊に押されるように、前衛の移動速度も上がり、いつしか逃げている時のように全力疾走で歩兵が永安城へ向けて進むようになっていた。その間にも矢の攻撃は続くが、最早踏みとどまって反撃しようとするものはいなかった。そして気付けば部隊は10分の1以下になっていたのである。


 永安への再攻撃が始まった。といっても敵方に最早抵抗するだけの力はない。城門の突破、主要各施設の確保、敵将呉蘭の逃亡と一連の出来事がわずか数日のうちに起こり、短期間で永安城に掲げられる旗の色が再度変わることになった。住民にすれば良い迷惑で、どちらの勢力でもいいから早く騒乱を終わらせて欲しいというのが本音であった。荀攸はその辺の実情を見て取り、董清にまずは市内巡察による治安取締りを行うよう進言した。また開発政策を推し進め、騒乱により仕事を失った者達に働き口を与えることも提案した。董清はそれらの施策をすべて是とし、早速実行に移すよう鬼龍に命じた。永安の経済が立ち直り、後方基地として機能するようになれば、いずれ孫呉と事を構えるようになった時に大いに力になるはずである。
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【2014/04/18 09:00 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
鶴翼の陣
「ふん、臆病風に吹かれよったか。董清なんぞ何する者ぞ。いざ、突っ込めー!」
黄権隊は、自身の隊を視野に入れた途端に前進を止めた敵軍を見て、それが策であるとは気付かなかった。薄らと霧がかかっていて、董清達が敷いている陣が良く分からなかったというのも不幸だった。勢いを借りて、先陣の兵が目の前の井蘭隊に襲いかかろうとした瞬間、四方八方から火矢が降り注いだ。
「なっ、これは!」
黄権が驚いて言葉をろくに発する事も出来ぬ内に、辺りは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。矢に貫かれて一瞬で生気を失った者、火に纏わりつかれて転がり回る者、5千もの兵を擁していた黄権隊が敵軍と対峙してからわずか半刻あまりでその大半の兵を失っていた。なんとか体勢を立て直そうと黄権は兵の収拾を図るが、一方的な攻撃はなおも続き、その日黄権が退却の下知をして彼に従った兵は千程度だった。わずか1日で8割もの兵を失った黄権は果たして愚将の烙印を押されることになるだろう。だが、今の彼にはそれを嘆いている暇はなかった。董清の作戦はまだ終わっていないのである。


秦カイ隊の増援を得て、黄権隊は復讐戦を試みた。しかし、それは最早手遅れだった。「翼を閉じよ。」との号令が聞こえたかと思うと、劉璋軍は両隊とも完全に囲みの内に取り込まれてしまっていたのだ。あっと言う間に助力に来たはずの秦カイ隊が全滅し、黄権は供回りの者を連れて囲みの突破を図った。だが、董清隊からの執拗な追撃を受け、とうとう黄権を除くすべての兵が死んでしまった。奇跡的に生き延びていた秦カイと黄権はたった二人で永安城へと落ち延びていった。永安攻略戦の前哨戦は江州軍の圧勝だった。



永安から第二の迎撃部隊が接近していることを聞き、再び董清は迎え撃つ布陣を敷いた。なるべく兵の被害を抑えつつというのが狙いだが、永安で繰り返し募兵が行われている事を聞き、少々嫌気が差してもいた。目前の敵を壊滅させたら、一気に永安まで進むべきか?と先程から何回か自問自答している。
成都では蘭宝玉が趙雄からの使者に謁見しているところだった。曰く洛陽攻略の是非を問うとのことだが、それについては彼女も考えていた事である。軍師の賛同を得て使者がすぐさま踵を返そうとするのを止め、条件を付けた。今正に孫家に襲われている陳留を先に押さえるべし、と。陳留は将来黄河以北に軍を展開するに当たっての言わば玄関口になり得る。ここを孫家に押さえられては、荊北同盟の兵站に不安が出る。国都を直轄地にするのは確かに魅力的だが、それは後に回してもいいのではないだろうか。

 
趙雄からの返書を読み、蘭宝玉は少し嬉しそうに笑った。
「さすが、我らが盟主。よくお気付きです。」
そして先の陽平関攻防戦で、宇文通を引き抜いた時のことを思い出していた。あの時、陽平関の向こうで弓の扱いに長けた者がいると聞き、調査をしたところ、宇文通という無名の女性だった。幸い、馬騰軍に他に弓の取り扱いに長けた者はいなかった。しかし何よりも彼女の持つ高い騎射技術を恐れた蘭宝玉は意を決して、彼女と彼女の部隊の引き抜きにかかったのだ。思えばあの時こそが漢中最大の危機であったと思う。その後、彼女ほどに射撃に長けた者は現れていないが、早晩趙雄の危惧するとおり、技術革新を得て、馬騰軍が陽平関を通過してくる可能性がある。彼女はしばし熟考した後、梓潼にいる楊修に弩兵隊に仕込む応射技術を確立するように命じた。この技術があれば、馬騰軍に与える被害を大きくすることができるだろう。あとは火矢を効果的に用い、陽平関北側に敵が駐屯できぬようにすることも難しくないはずである。

 
永安戦線では、幾度目かの包囲殲滅作戦が成功し、劉璋軍の遊撃部隊を壊滅させていた。
「そろそろ、だな。」
董清は頃合と見て、全軍に前進を命じた。次にまた敵部隊が出撃してきても、退いて備えるのではなく、蹴散らして一気に永安城へと迫ることにしたのだ。すでに永安に篭る兵数は3千程度になっており、強攻策に転じても被害は少なかろうとの読みだった。じっと耐え忍んで董清の命に従ってきた鬼龍や大和が嬌声を上げる。やはり彼らの本分は守勢ではなく、攻勢にこそあるのだろう。
【2014/04/13 11:32 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
マギ The kingdom of magic

1期が良かったので、引き続き観ようと思ってました。
OPは1stも良いですが、2ndは自分なりにかなり良かったです。
 
開始当初のアラジンは格好良かったねえ。なかなか期待させてくれる出だしでした。
ちょうど1期の直後ぐらいから始まった2期というのもGOOD!
 
アラジンとアリババとモルさんと白龍それぞれの物語があって、
久しぶりに再会した時にゃ皆強くなってて、モルさんも可愛くなってたなあ。
 
アラジンがマグノシュタットで魔法を勉強して、強くなっていく様子は好ましかったけど、
最後で戦争までしていがみ合ったりしてた全グループが一致団結して、強大な敵に立ち向かう様子はご都合主義を感じました。
まーそりゃ、主義主張に関係なく全生物を滅ぼす相手には、全員で立ち向かうしかないだろうけど。
 
極大魔法とか金属器とか、あーもー普通の奴は全く付いてこれんな~。
ドラゴンボールみたいだ。
 
ファンタジーってこんなもんだろ・・と期待を裏切らない良作でしたが、なんか突き抜けた感が今回はなかった気がする。


評価:B
【2014/04/13 05:29 】 | アニメ | 有り難いご意見(0)
孫家の脅威
江州から出撃してきた呉懿を一瞬で蹴散らした。しかし先の軍勢は江州に篭る兵の数からして少なめであったことが引っかかる。
「もしや誘い込まれたか?」
鬼龍は僅かながら危惧を覚えた。見れば若の部隊も福貴様の部隊も前線へと押し出してきている。ここで敵が押し寄せてきたら少なからざる損害を受けるかもしれない。


江州は早くも陥落しそうになっていた。福貴隊の一撃を受けただけで、城は半壊している。あと一撃持つかどうかであった。再び出撃してきた呉懿隊は福貴隊と董清隊に一撃を食らわせることに成功したものの、相応の逆襲を受けてこちらも風前の灯火となっていた。孫策軍の国力の拡張が著しい今、荊北同盟としてもいち早く力をつける必要があった。


まずは治安を維持する事を忘れないよう伝えないと・・。蘭宝玉は余計なお世話と煙たがられるのを承知で新野の面々に書状を送った。それを受けて、汝南、宛、襄陽で市中警邏が強化されたと聞いて一先ず安堵する。戦闘と内政を同時に行うのは難しい。しかも許昌と江陵の二方面をへ同時に進攻しているのだ。人手が足らなくなるのも仕方なかろう。だが無理を重ねてでも実行に移すのは、孫家の脅威があるからということだ。いずれは大兵力を動員できるよう、軍制改革も行わねば成るまい。荊北同盟がやるべきことはまだまだ多い。孫家以上の力を蓄える。それが今は喫緊の課題と言えよう。


江州攻略が成った。江州城内に入った董清は、取り急ぎ市中警邏と兵士の休息を命じた。そして兵の顔から疲れが取れたのを見て取ると、早速鍛錬を開始させた。民意を得る事と、次なる軍事作戦『永安攻略』の準備に入ったのである。成都に集結した官吏たちが実直に開発に取り組んでいるが、未だ道半ばといったところである。占領地の開発が進攻スピードに追いついていない。趙雄同様、もどかしい思いを董清はしていた。


「鳥林港の争奪戦が激しそうだな。」
孫家の船団が迫る。兵力差は4000もある。船団の兵糧は持ってあと2週間といったところらしいが、この兵力差であれば2週間もあれば十分であろう。陸上から迫る荊北同盟の部隊が間に合うかどうかが鍵である。上手く行けば漁夫の利を得られるかもしれない。漢中では密やかに噂されることがあった。楊松が裏切る恐れがあるというのだ。
『元来彼は保身に長けている人物であり、いざとなれば陽平関の封鎖を解いて、漢中を馬騰軍に売る可能性がある。ただでさえ、彼は慣れぬ遠征生活を嫌がっていた。杞憂の種は早めに摘み取っておいた方が良い。彼を早々に漢中に呼び戻し、幾ばくかの金を渡して苦労を労うのだ。彼の忠誠が金で買えるというならば、安いものではないか。』だが当の噂自体、彼が流したものだという滑稽な話もある。董清にしてみれば「捨て置け。」繭一つ動かさず言うだろうが、漢中が重要拠点であること、陽平関封鎖は益州平定を成すまでの鍵である事を鑑みれば、あながち疎かにできる話でもない。


趙雄が許昌を落としたとの報は、江州にいる董清の元へもいち早く伝わった。漢帝の保護にも成功したようで、万事が上手くいったようだ。これで荊北同盟はすべての行動に大義名分を得た事になる。江州でも一頻り祝杯を挙げ、これまでの苦労が実ったことを喜んだ。だが、だからといって孫家の兵力が減った訳ではない。今でこそ同盟相手の彼らがいつ牙を剥いてくるかは計り知れないのだ。まずは益州と荊州を完全に手中に収め、孫家に対抗し得るだけの力を持つ必要がある。


江州城の執務室で董清は翌週、永安に向けて進軍することを全軍に命じた。ちょうど鬼龍や福貴が開発を終えて帰還する手はずになっている。それに合わせて軍事行動を開始するのだ。成都と江州の内政が未完了ではあるが、周辺の敵に脅威はなく、まずは劉璋軍をいち早く取り込むべしとの判断である。領地が増えれば、漢朝内での趙雄の存在もますます大きいものになるであろう。


宮廷での出来事など知る由もなく、董清は永安攻略に向けて、軍を進発させた。港の兵も含めると敵は多いが、将兵の質は比べ物にならないと自負しており、負けることは決してないと踏んでいる。各地を転戦して熟練の域に達した兵も多く、劉璋軍なぞあっと言う間に蹴散らす事ができるだろう。故に今回の遠征には軍師・蘭宝玉は参加させておらず、彼女には成都内政に専念させている。親衛隊長・林玲には馬騰軍の動向を監視させつつ、上庸太守として兵器製造を担わせている。蓬莱信は・・・まあ、元気にやっているだろう。元上庸出身者は董清が以前より唯一心を許していたかけがえのない者達であるが、それは常に手許においておくという意味ではない。彼らが各地で活躍していることを時折、伝令より聞いて満足している程度だ。益州平定が成った暁には一度皆を労うのも良いかもしれない。董清は馬上で趙雄から相談されている論功行賞について思索を巡らせつつ、各地に散らばる部下達の事に思いを馳せた。


長江流域の孫家の兵力が膨れ上がっている。同盟相手とは言え、いつ裏切るか分からないのが戦乱の世の倣いであれば、決して油断してはならない事であろう。
「荊南4州が孫家の属領となれば厄介ですね。」
成都開発の指揮を取りつつ、蘭宝玉は中原を中心とした時の輪から外れたかのようなかの地に思いを巡らせた。確たる統治者がいなくなって久しく、まさに戦乱とは無縁の地である。これまで放置しておいても良かったが、隣国の柴桑に孫家が一大軍事拠点を築いたとなれば話は別だろう。荊南の足がかりとなる長沙当たりは先じて荊北同盟が押さえてしまった方がいいかもしれない。まずはその旨を認めた書状を趙雄に送るとしよう。



董清率いる江州軍は永安城へと驀進していた。遮るものはなく、行軍は順調である。永安に篭る劉璋軍は相次ぐ敗北により、慎重になっているのであろう。各個撃破を恐れてか、今のところ迎撃してくる気配はない。それにしても柴桑、江夏、廬江の3都市で15万もの兵を誇る孫家は脅威だ。これ以上長江流域での増長を許してはならないだろう。


「若、はるか前方に砂塵が見えまする。どうやら劉璋軍が迎撃に出てきたようです。」
「間者からの報告によれば、敵大将は黄権の由。」
「どうするの?こんな隘路じゃ、真っ向勝負は避けられないわね。」
次々と上がってくる報告に、董清はしばし虚空を見つめた後、下知を飛ばした。
「鶴翼の陣を敷く。中央に福貴、右翼に鬼龍、左翼に俺が部隊を展開させる。敵をぎりぎりまで引き付けて一気に包囲殲滅を図るぞ。」
かくして江州軍は驀進していた行軍を止め、迎え撃つ準備を整えた。益州平定が成るまではなるべく兵の損耗を避けたいところである。力押しだけが能ではない。董清の軍略の才が今試されている。
【2014/04/12 19:39 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
林玲の大功績

 福貴と大和率いる井蘭隊の攻撃も随分と堂に入るようになったようだ。たった百人が篭る関所を進軍ついでに難なく陥落させ、次の関へと向かっている。一隊だけで突っ走りかねないその猛進ぶりに慌てて鬼龍と董清も梓潼を進発した。頼りになりすぎる妻もある意味、困ったものか。董清はこれから延々と悩みぬくことになる命題にぶつかったのである。

 
 馬騰軍にも端々にまで気遣いのできる参謀が控えているようである。さすがに騎馬隊を駆る猛者ばかりで巨大な領地を擁するようになった訳ではないようだ。遠征地にて陽平関での調略失敗の報告を聞いて、董清はそう結論付けた。漢中に残り陽平関の封鎖を続けている林玲からも、敵将の意気が上がっているようだとの報告を受けている。天水での兵力増強も加速度的に進んでいると間者からの報告も受けている。いち早く益州を平定し、兵を漢中に帰した方が良さそうだ。


 天水の兵力は強大だが、馬騰軍が陽平関からの攻撃に固執している間は心配ない。犠牲を覚悟の上で桟道ルートを選択してきた時が厄介である。しかし上庸と梓潼の兵力を徐々にでも増強することと、益州平定を急げば何とか成るだろうと董清は見ていた。梓潼の開発も佳境に入りつつある。それよりも孫策軍の増強ぶりが気になっていた。今でこそ同盟相手だが、その関係が崩れた時、今のままでは太刀打ちできないだろう。


 董清は成都へ進攻する全軍に関に入るように命を下した。成都に篭る敵軍がほぼ同数である為、兵に一時の休息を与えて鋭気を養わせると同時に、成都の凡将が焦燥に駆られる余り、城で戦う優位性を放棄して迎撃に出てくることを期待してのものである。攻城に秀でた井蘭隊を擁しているとは言え、なるべく城に篭る兵は減らしておきたいところだった。


「ちっ。猪口才な真似しやがって。」甘寧隊の兵が劉表によって撹乱されている。裏で暗殺を企てたり、二強の激突にも日和見を決め込んだり、決して土俵に上がろうとしない元主君が珍しく戦場に出張ってきたと思っていたら、策を弄して侵攻軍の足止めを図ってきたのだった。遠い宛の地ではまたしても曹操軍から来襲があるようだ。嫌がらせの種は双方ともに尽きようとしない。


『現在、漢中軍を中心として兵器の使用が進んでいますが、この度の宛への衝車及び井蘭の輸送を皮切りに、荊北同盟全軍に兵器を行き渡らせたいと考えています。投石機や木獣といった新兵器の開発の優先度を上げて頂ければ幸甚です。』
蘭宝玉は淑瑛宛の返書を認めた。正直あれもこれもと進めたい技術の構想が山ほどある。許昌にいる漢帝を上手く保護できれば、漢朝の権威を借りて革新を早める事ができるだろう。


 鬼龍と董清は成都城と迎撃部隊双方に向けて、矢を乱射した。忽ち迎撃部隊は壊滅、城兵も半減した。
「おのれ!」福貴のいる井蘭隊を狙い撃ちされたことで、董清は純粋に怒っていた。井蘭隊の被害は1000人以上。上庸で旗揚げしてから最大の数である。無論、被害なく戦いなどできようはずもないが、それでも怒りは沸いた。「徹底的に火攻めせよ。」成都への容赦ない攻撃命令が下された。


 成都城が陥落した。大都市を擁するこの地域は内政次第では豊穣な後方基地へと発展させる事が可能だ。梓潼の開発が終了次第、順次官僚を成都に集める意向を董清は示している。上庸と漢中にいる官僚には治安維持を命じ、特に上庸では兵器製造廟の火を絶やす事のないように肝に銘じさせている。次なる標的は江州になるだろう。疲れた兵を休ませて気力を回復させ、準備が整ったら進発しよう。


 陽平関の封鎖。林玲が成しているのはただそれだけだが、益州平定が成った暁には最大の功労者と称えても誰も文句は言うまい。膨れ上がる馬騰軍の脅威をたった一人で押さえ込んでいるのだ。陽平関の兵糧が底をつき、空腹を訴える兵が現れた。腹が減っては戦はできぬ。至極当然の故事にもある通り、馬騰軍の戦意は地に落ちていると言っても過言ではない。これから逃亡兵が続出するだろう。天水では増援が決定されたようだが、陽平関突破の糸口は見出せずにいるようだ。まさに林玲一人によって馬騰軍全体が翻弄されている。「若の命とあれば」とどのような董清の過酷な命令にも忠実に全うする林玲はまさに武将の鑑である。本人に言わせれば「愛です。」とのことだが。


 馬騰軍は長安からも増援を派遣したようだ。間者からの報を受けて、董清はにやりと笑った。全く持って林玲は良くやっている。今度会った折には可愛がってやろう。福貴に聞かれたら憤慨されそうなことを一瞬考えつつ、気を取り直して再び政務に戻った。


 いよいよ江州攻めが始まった。成都の開発はまだ始まったばかりだが他の官吏に任せることにし、福貴、大和、董清、鬼龍は出陣した。じっくり内政に専念するよりも領地を広げる事を優先させたのである。いずれは劉璋軍の主だった者たちを取り込み、益州の統治を任せても良いとさえ考えている。


 漢中軍の官吏が続々と成都に集結している。蘭宝玉もとうとう成都復興の陣頭指揮を執るべく、梓潼を発った。陽平関では食料が乏しくなってきた林玲の代わりを務めるべく張松が向かったが、関から伝わる威圧感に完全にビビッてしまい、動けなくなったようだ。他の武将に救援させた方が良いかもしれない。



 楊松がようやく陽平関封鎖口へと辿り着いた。
「り、林玲殿・・。拙者が来たからには、も、もう大丈夫でござる。一旦、漢中までお退き下され。」足を諤々させ、ぶるぶる震える声で言われても全く説得力がない。だが、諜報員の工作が功を奏し、馬騰軍は陽平関から打って出る気配は全くない。これなら楊松が余程の失態を犯さない限り、大丈夫だろう。
 林玲は従者と共に1年余りに渡る野営宿舎から引き上げることにした。出発前夜にはささやかながら宴が催され、封鎖生活の辛苦を共にした者達が互いに別れを惜しんだ。ここにいる者のうち半数は、楊松が引き連れてきた新兵と入れ替わりで漢中に帰り、残る半数は引き続き楊松と共に封鎖を続けることになる。家族に手紙を託す者、黙々と酒を酌み交わす者、馬鹿騒ぎをする者など様々だが、ここでの1年余りの生活が彼らの絆を強くしたことは間違いない。名もない彼らだが、軍団の根底にある兵一人ひとりの絆がしっかりしているからこそ、荊北同盟はここぞと言う時に大きな力を発揮できる、そう林玲は信じている。その林玲と言えば・・・荒れていた。
「紫音様のばかぁ!」
こともあろうに、親衛隊長の自分を一人陽平関に放り出すとは何事か。別に自分は紫音様を独り占めしようとは思っていない。福貴様から、う・・奪おうなどと大それたことも考えていない。側室になりたいなんて微塵も思っていない。ただ少し、ほんの少し優しくしてくれるだけで良い。戦場で傍らに控え、御身を守れればそれだけで自分は満たされるのだ。それをそれを1年以上も辺境の関の封鎖に駆り出すとは!重要な任務であることは重々承知しているが、だからこそ信頼のおける自分を任命してくれたのは嬉しいが、でも、でも文の一つぐらい送っても罰は当たらないのではないか!?噂では益州平定戦で福貴様と仲睦まじい様子だし、面白くない!全然面白くない!女心を全く持って分かってないのだ、あの馬鹿は!
・・と、まあ酒の勢いに任せて愚痴やら毒やら思いの丈やらを吐き出し、その夜はずっと酒の相手である従者を困惑させまくっていたのだった。
【2014/04/05 17:48 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
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