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江州から出撃してきた呉懿を一瞬で蹴散らした。しかし先の軍勢は江州に篭る兵の数からして少なめであったことが引っかかる。
「もしや誘い込まれたか?」 鬼龍は僅かながら危惧を覚えた。見れば若の部隊も福貴様の部隊も前線へと押し出してきている。ここで敵が押し寄せてきたら少なからざる損害を受けるかもしれない。 江州は早くも陥落しそうになっていた。福貴隊の一撃を受けただけで、城は半壊している。あと一撃持つかどうかであった。再び出撃してきた呉懿隊は福貴隊と董清隊に一撃を食らわせることに成功したものの、相応の逆襲を受けてこちらも風前の灯火となっていた。孫策軍の国力の拡張が著しい今、荊北同盟としてもいち早く力をつける必要があった。 まずは治安を維持する事を忘れないよう伝えないと・・。蘭宝玉は余計なお世話と煙たがられるのを承知で新野の面々に書状を送った。それを受けて、汝南、宛、襄陽で市中警邏が強化されたと聞いて一先ず安堵する。戦闘と内政を同時に行うのは難しい。しかも許昌と江陵の二方面をへ同時に進攻しているのだ。人手が足らなくなるのも仕方なかろう。だが無理を重ねてでも実行に移すのは、孫家の脅威があるからということだ。いずれは大兵力を動員できるよう、軍制改革も行わねば成るまい。荊北同盟がやるべきことはまだまだ多い。孫家以上の力を蓄える。それが今は喫緊の課題と言えよう。 江州攻略が成った。江州城内に入った董清は、取り急ぎ市中警邏と兵士の休息を命じた。そして兵の顔から疲れが取れたのを見て取ると、早速鍛錬を開始させた。民意を得る事と、次なる軍事作戦『永安攻略』の準備に入ったのである。成都に集結した官吏たちが実直に開発に取り組んでいるが、未だ道半ばといったところである。占領地の開発が進攻スピードに追いついていない。趙雄同様、もどかしい思いを董清はしていた。 「鳥林港の争奪戦が激しそうだな。」 孫家の船団が迫る。兵力差は4000もある。船団の兵糧は持ってあと2週間といったところらしいが、この兵力差であれば2週間もあれば十分であろう。陸上から迫る荊北同盟の部隊が間に合うかどうかが鍵である。上手く行けば漁夫の利を得られるかもしれない。漢中では密やかに噂されることがあった。楊松が裏切る恐れがあるというのだ。 『元来彼は保身に長けている人物であり、いざとなれば陽平関の封鎖を解いて、漢中を馬騰軍に売る可能性がある。ただでさえ、彼は慣れぬ遠征生活を嫌がっていた。杞憂の種は早めに摘み取っておいた方が良い。彼を早々に漢中に呼び戻し、幾ばくかの金を渡して苦労を労うのだ。彼の忠誠が金で買えるというならば、安いものではないか。』だが当の噂自体、彼が流したものだという滑稽な話もある。董清にしてみれば「捨て置け。」繭一つ動かさず言うだろうが、漢中が重要拠点であること、陽平関封鎖は益州平定を成すまでの鍵である事を鑑みれば、あながち疎かにできる話でもない。 趙雄が許昌を落としたとの報は、江州にいる董清の元へもいち早く伝わった。漢帝の保護にも成功したようで、万事が上手くいったようだ。これで荊北同盟はすべての行動に大義名分を得た事になる。江州でも一頻り祝杯を挙げ、これまでの苦労が実ったことを喜んだ。だが、だからといって孫家の兵力が減った訳ではない。今でこそ同盟相手の彼らがいつ牙を剥いてくるかは計り知れないのだ。まずは益州と荊州を完全に手中に収め、孫家に対抗し得るだけの力を持つ必要がある。 江州城の執務室で董清は翌週、永安に向けて進軍することを全軍に命じた。ちょうど鬼龍や福貴が開発を終えて帰還する手はずになっている。それに合わせて軍事行動を開始するのだ。成都と江州の内政が未完了ではあるが、周辺の敵に脅威はなく、まずは劉璋軍をいち早く取り込むべしとの判断である。領地が増えれば、漢朝内での趙雄の存在もますます大きいものになるであろう。 宮廷での出来事など知る由もなく、董清は永安攻略に向けて、軍を進発させた。港の兵も含めると敵は多いが、将兵の質は比べ物にならないと自負しており、負けることは決してないと踏んでいる。各地を転戦して熟練の域に達した兵も多く、劉璋軍なぞあっと言う間に蹴散らす事ができるだろう。故に今回の遠征には軍師・蘭宝玉は参加させておらず、彼女には成都内政に専念させている。親衛隊長・林玲には馬騰軍の動向を監視させつつ、上庸太守として兵器製造を担わせている。蓬莱信は・・・まあ、元気にやっているだろう。元上庸出身者は董清が以前より唯一心を許していたかけがえのない者達であるが、それは常に手許においておくという意味ではない。彼らが各地で活躍していることを時折、伝令より聞いて満足している程度だ。益州平定が成った暁には一度皆を労うのも良いかもしれない。董清は馬上で趙雄から相談されている論功行賞について思索を巡らせつつ、各地に散らばる部下達の事に思いを馳せた。 長江流域の孫家の兵力が膨れ上がっている。同盟相手とは言え、いつ裏切るか分からないのが戦乱の世の倣いであれば、決して油断してはならない事であろう。 「荊南4州が孫家の属領となれば厄介ですね。」 成都開発の指揮を取りつつ、蘭宝玉は中原を中心とした時の輪から外れたかのようなかの地に思いを巡らせた。確たる統治者がいなくなって久しく、まさに戦乱とは無縁の地である。これまで放置しておいても良かったが、隣国の柴桑に孫家が一大軍事拠点を築いたとなれば話は別だろう。荊南の足がかりとなる長沙当たりは先じて荊北同盟が押さえてしまった方がいいかもしれない。まずはその旨を認めた書状を趙雄に送るとしよう。 董清率いる江州軍は永安城へと驀進していた。遮るものはなく、行軍は順調である。永安に篭る劉璋軍は相次ぐ敗北により、慎重になっているのであろう。各個撃破を恐れてか、今のところ迎撃してくる気配はない。それにしても柴桑、江夏、廬江の3都市で15万もの兵を誇る孫家は脅威だ。これ以上長江流域での増長を許してはならないだろう。 「若、はるか前方に砂塵が見えまする。どうやら劉璋軍が迎撃に出てきたようです。」 「間者からの報告によれば、敵大将は黄権の由。」 「どうするの?こんな隘路じゃ、真っ向勝負は避けられないわね。」 次々と上がってくる報告に、董清はしばし虚空を見つめた後、下知を飛ばした。 「鶴翼の陣を敷く。中央に福貴、右翼に鬼龍、左翼に俺が部隊を展開させる。敵をぎりぎりまで引き付けて一気に包囲殲滅を図るぞ。」 かくして江州軍は驀進していた行軍を止め、迎え撃つ準備を整えた。益州平定が成るまではなるべく兵の損耗を避けたいところである。力押しだけが能ではない。董清の軍略の才が今試されている。 PR |
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