マルカルスのディベラ聖堂に忍び込んだのはつい、先日のこと。
その時、拙僧は黄金で出来たディベラ像よりももっと美しいものに出会った。
「いるんでしょ?分かってるわよ。」
「・・・。」
「黙ってたってお見通しよ。神官をあまり舐めないで欲しいわ。」
拙僧はため息をつく他なかった。
諦めて透明化を解き、姿を露わにする。
「あら?結構ハンサムなのね。」
「・・・なぜ、分かった。音も匂いも発していなかったはずだが。」
「“心眼”って知ってる?一流の暗殺者もしくは神官には備わっているものよ。」
「はあ?心眼!?」
拙僧が誰かに屈するのは稀なことだ。
ましてや戦闘力などまるで皆無の女神官には初めてのことだった。
「ディベラ聖堂の最深部は男人禁制なのよ。知らなかった?」
「知ってたから来たのさ。深窓の令嬢には昔から憧れててね。」
「あなたは大事な儀式の邪魔をしたのよ。罰を与えなくては。」
「罰?どんな?」
「即刻処断しても構わないのだけれど、何かに役立ってもらうのも悪か無いわね。」
「深窓の神官にしては策や世事に通じているようだな。」
「だから心眼があるって言ってるでしょ。あなたの思考を先回りするのも簡単なの。」
「・・・分かった。で、何をすれば良い?」
「娘の居場所?冗談を言ってるのか?娘は盗賊どもに攫われて行方不明だよ。」
「そりゃ、参ったな。拙僧はディベラの神官に命じられて、あんたの娘さんを探してるんだ。」
「ディベラの?何で。」
「よくは分からんが、あんたの娘さんは次のシビルに選ばれたそうだ。」
「シビルに!?そりゃ本当か?」
拙僧は神官ハマルの命を受けて、次のシビル候補の少女を探しにカースワステンの村にやって来ていた。
シビルとは、ディベラのお告げを夢見によって現世に伝える巫女のこと。
先代のシビルが亡くなった為、次のシビル候補を探す為の儀式をしているところで、拙僧が割り込んだため、儀式は途中でぶち壊しになってしまった。
このカースワステンに住む少女と彼に忍び寄る闇の気配が見えたのだが、分かったのはそこまで。
責任を取って、その少女を安全に聖堂まで連れて来いというのが、ハマルから受けた指示内容だ。
「またここかぁ。」
この砦にやってくるのは、もう幾度目になるだろう。
捜し求めた少女フョトラは、ここブロークン・タワー要塞に囚われているらしい。
救出に向かう旨を告げると、父親のエンモンも同行を申し出てきた。

悪鬼羅刹から娘を早く助け出したいらしい。
困ったな。
ここにいるフォースウォーンの連中は、拙僧の仲間なんだよなあ。

確かに何度もトラブルを起こしてくれる問題連中だけど・・・・。
このまま父親とフォースウォーンを会わせると、拙僧まで誤解を受けかねない。
さあ、どうしよう?
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