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【2024/04/26 06:45 】 |
n060 夢幻の如く (蠣崎家)5
 
「解せぬ。何なのだ、蠣崎の面々は・・・。」
「いかがなされた?分武殿・・。」
 恐ろしく神妙な面持ちで廊下を歩く分部尚芳の様子が気になり、同じく蠣崎家に降った元津軽家臣の沼田祐光は彼を呼び止め、自室へと招きいれた。
「いかがも何もおかしいとは思われぬか、沼田殿は?」
「一体何の話をされておるのだ。さっぱり要領を得ぬが。」
 先を促されて、ようやく分部は話し始めた。曰く、蠣崎家の面々には野心というものが全く見当たらぬということらしい。ついこないだ蠣崎家は敗将としても見事と感嘆するしかないほどの戦ぶりで津軽家を攻め滅ぼし、二カ国を領有するに至った。紆余曲折こそあったが、分部も沼田も新しい奉公先で目覚しい働きを見せんと忠勤に励んでいるところである。
 だが肝心の蠣崎家の面々は当主・蠣崎季広からして更なる領土拡張を望んでなどおらぬらしい。先の戦はあくまでも災いを齎さんとする津軽家という火の粉を払い除けたに過ぎぬのだ。
 武士を名乗る以上、己の武を以って功名を上げ、広大な領土を手に入れ、後世の歴史に称えられるほどの名声を残すのが本懐ではないのか。当主ならば数多の戦に勝ち、日本中の大名を軍門に下らせ、天下統一を成し遂げることが夢ではないのか。そういった気概が蠣崎家の面々から全く見られないのである。
「皆、現状に満足してしまっているように見える。それでは新参者の我らは、このまま何の功名を挙げることもなく朽ち果てるしかないのか。それではあまりに情けないとは思われぬか。」
「ごもっともにござる。某も武士として野心の一つや二つは持っておる。このまま終わるのはあまりに無念でござる。だが心配御無用、今は戦国の世にござる。野心なき力なぞ、隣国の南部家を初めとして誰にも理解できぬものであろう。今の貴殿のようにな。そして人は不可解なものには恐怖を覚えるのだ。今頃南部家は、蠣崎家に対抗するべく戦支度を整えている頃であろうよ。・・それに某に一計がござる。」
 そう告げると沼田はにんまりと笑って見せ、分部に彼の謀を説明し助力を求めた。



 ほどなくして蠣崎家の空気が徐々に、だが確実に変わり始めた。専守防衛を常としていた蠣崎武士だが、若手を中心に蠣崎による天下統一を論じる者が増えたのである。
『戦の世が続けば、泣かされるのはいつも無力な民だ。我らが季広公のような名君にこそ、天下を統一し、泰平の世を築いてもらうべきではないか。』
『室町幕府なき今、正しく力があるものが世を導かねばならぬ。』
『京の都は、織田信長亡き後、羽柴秀吉や織田秀信、柴田勝家らが 覇権を競う舞台となっておるらしい。帝の苦悩が偲ばれる。御労しいことよ。』
『隣国の南部家が国境に兵を集結させているらしい。我らも手をこまねいている訳にはいかぬ。』
『もっと軍備の増強を!蠣崎家に栄光あれ!』


「最近家中が騒がしいとは思わぬか。」
「若い奴らがいきり立っているようだの。天下がどうしただの、朝廷がどうしただの、どうにも地に足が付いていないような議論ばかりしておる。一体どこの誰に吹き込まれたのやら。それ、この一手はどうじゃ。」
「くっ。そこで歩が成るのか。容赦ない一手じゃの。」
 遼太郎の家を竜之介が訪れて、将棋に興じているところである。
「うちの虎太郎もすっかりかぶれてしまったようでな。まるで古代中国の縦横家にでもなったかのようじゃ。」
「かかか。准太も似たようなもんだな。熱に浮かされたことをほざく前に、槍の一つでも振るえと言ってやったところだ。」
「お前のことだ。どうせ既に震源地も掴んでるんだろ。」
「・・・確証はないがな。最近沼田殿と分部殿がいろいろと若い輩に吹き込んで回っているようだ。」
「放っておくのか?」
「いいんじゃね。別に二心がある訳でもなさそうだし。覇気がありすぎる咎で、牢にぶち込む訳にもいくまいて。それ王手だ。」
「ま、待っ・・」
「待ったは無しだぜ。これで通算348勝347敗だな。くかかかかっ。」


 話は変わるが、蠣崎家中において、すっかり技術研究と文化振興の中心となった宇須岸館は、君命により名を『鶴目華虜』と改める事になった。【鶴のような優美な鳥でさえ、華やかなりし技術の中枢に目を奪われ虜となる。】という意味が込められているとかなんとか。名称については家臣の間でもいろいろと話題になったが、季広の意向に異議を唱える者はとうとう現れなかったという。


 年が改まり、国境沿いでの田畑に関する農民同士の争いに端を発した蠣崎家と南部家とのいざこざは遂に兵を派遣するに至り、分部尚芳の活躍により、南部領の奥深くに蠣崎家の支城・剣吉城を築城することに成功した。おかげで東陸奥の大部分に蠣崎の影響力が及ぶようになり、かの領土の実効支配は南部家から蠣崎家に移ることになった。この快挙に家中は沸き、将器を示した分部と軍師として彼を支えた沼田は家臣団の中でも発言力を増しつつあった。さらに沼田の進言で、余勢を駆って剣吉城の南に砦を築くことにも成功し、防備は万全となった。
 おかげで南部家の領土はわずかとなり、衰退が著しく存亡の危機に立たされることになった。満足な給金を払うことも叶わず、家臣団の不満は少しずつ溜まっているようである。
 

 そして遼太郎にとある軍命が下った。
『築いたばかりの砦に敵の目が奪われている間に、4千の兵を率いて単身裏街道を抜け、敵方の町を制圧せよ。』
 これには当の本人ではなく、竜之介が反発した。
「敵方の奥深くに潜入するに、兵がたった4千とは!遼太郎に死ねと申されるのか。」
「お言葉が過ぎましょうぞ、竜之介殿。君命にござる。」
「新参者が出すぎたことを申すな!沼田殿、そなたに殿の何が分かるというのじゃ。」
「これは異なことを申される。新旧関係なく、広く家臣の声を聞こうと申されたのは他ならぬ貴方様にござる。そして殿にはきっと深い考えがあってのことと、某は愚考つかまつる。我らは只その御意に沿って動くのみでござろう。」
「よう申したな!この・・」
 なおも言い募ろうと顔を真っ赤にする竜之介を、遼太郎がそっと制した。これ以上何も言うなと暗に目で伝える。

 
 憤懣やるかたない様子の竜之介を自宅に誘い、茶を勧めながら、遼太郎は語った。
「今回の君命、どうも沼田殿が裏で手を回したらしい。」
「あいつが?なぜ?」
「分からんよ。重鎮の俺達を目障りに感じたのかもしれんな。こうもあからさまな手を打ってくるとは俺も思わなんだ。殿への忠義は疑うべくもなかろうが、なかなか厄介な御仁だな。」
「いっそ追放してやろうか。」
「やめておけ。沼田殿は分部殿と共に今や蠣崎の主戦派の中心だ。それに剣吉城の一件で、若手や中堅どころの間でも大いに株を上げている。彼を糾弾したところで、結果お前が立場を悪くするだけだろう。」
「しかし、このままではお前が死地に飛び込むことになるぞ。」
「何とかなるさ。いずれ沼田殿や分部殿にはきっちり返礼をするとして、今回は素直に君命に従うとしよう。」
「・・死ぬなよ。将棋の勝負はまだ最中だ。勝ち逃げされては困る。」
「かかか。そうだな、無事に生きて戻って、そなたの悔しそうな面をもう一度拝まないといけないのう。」

 春の到来を待って、三戸城から南部信直勢が砦に襲い掛かった。しかし砦の守りは固く、頑強に抵抗を続け、戦は一進一退の様相を見せた。そして、かねてからの計画どおり遼太郎は約4千の兵を率いて、裏街道を進軍した。

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【2016/03/05 23:43 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
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