「し・ん・の・じょ・う様~

お待ちになって~~

」
今日も小麗が一回り年上の真之丞を追い掛け回している。資金不足が悩みの種だった蠣崎家だが、当主蠣崎季広の方針もあって、ここのところ商業への投資が盛んである。春・夏に行われた優遇政策により、商人町には移住してきた商人達による商館が立ち並び、蠣崎への納税額はそこそこのものになっていた。

しかし贅沢などは持っての他で、ようやく収支バランスが上向いてきた蠣崎家の家計を預かる北田真之丞としては、穀物庫に納められている年貢米を商館へ売りに行くのが日課となっていた。そしてどこをどう気に入ったのか、いつしか蠣崎家の一の姫・小麗が彼の傍にくっつくようになったのである。
さて、蠣崎小麗というこの姫、日頃は超がつく高飛車で、金遣いも荒く、一説には蠣崎家の財政が傾いているのは彼女の金遣いの荒さによるとも言われている。
内政・軍事・人材掌握のすべてにおいて名君と言われてもおかしくない季広だが、そんな娘を目に入れても痛くないほど溺愛しており、彼女を厳しく躾けられない点を指して「画竜点睛を欠く」と言っては酷なのかもしれない。
しかしそんな手を付けようもない希代の猛女にして、猫のように大人しくさせることができるのが真之丞だった。彼の前でだけは人格が変わったかのように・・デレるのである。
「小麗様。仕事に差し障ります。どうか城にお戻り下され。」
「そんなに照れなくても宜しくてよ。わらわがいくら希代の美女と言えど、真之丞様もそんなに引けを取らなくてよ。」
「・・・いろいろ突っ込み所がありすぎて最早何も言えませぬ。」
「そうそう、愛に言葉は不要。さあ、わらわの熱き抱擁を受け止めてくださいましっ。」
「お、おやめくだされぇぇぇ。」
「し、真之丞様も大変だな・・。」
長期遠征任務を終え、ようやく徳山館に帰り着いた准太がいきなり目にしたのがこれである。疲れがいきなりどっと出た。


そんな北方の地での些末時はさておき(笑)、中央では大事件が起こっていた。天下統一に最も近いと言われている男『織田信長』の家臣『明智光秀』が謀反を起こしたのである。すでに本能寺や二条御所といった要所を押さえた明智勢により、信長の命は風前の灯だった。

事を察知した各地の織田配下の領主が救援の兵を差し向けるも、時既に遅く、信長は自害に追い込まれたのであった。


大勢力を誇った織田家は四分五裂となり、当主の座を嫡孫・秀信が継いだものの、再び群雄割拠の様相を呈するのは誰の目にも明らかだった。


そんな中、主君信長の仇を討つ為、羽柴秀吉が兵を挙げ、山崎の決戦にて見事光秀を倒したのであった。人々は忠義を万人に示した家臣の快挙に沸いた。
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