時は戦国。これは乱世を憂える河内国の若者たちが、世に平和を齎す為、邁進する姿を描いた物語である。
河内国の私塾「北水館」で英才を鳴らした中村英統(通称遼太郎)は、元服後細川家に仕えることになった。彼は最初の任務で銀山探索を命じられ、見事その任を成功させるのである。
「中村殿、此度は大手柄でござったな。」
帰城した遼太郎に労いの声がかけられた。
少なくとも相手が松永久秀でなければ、遼太郎も素直に喜んだことだろう。
だが、彼が相手では額面どおりには受け取れなかった。
どこか得たいの知れない怪しさがあるーー。
彼と相対するときには遼太郎の心の奥底で、常に警鐘が鳴り響いていた。
ともあれ無視する事は礼に失する。
「いや、運が良かっただけですよ。」
「はてさて、銀の鉱脈をを2つも見つけることが果たして運だけで片付けられますかな。 皆、貴殿の功績に騒いでいると申すに。」
まさに久秀の言うとおり、領内はこの噂で持ちきりだった。
ただの一つでも家中に巨万の富を齎す銀山を遼太郎は二つも見つけたのだ。
「殿はそなたに褒美を取らすご所存のようですぞ。」
賞賛ともやっかみとも取れる表情で、久秀はそう呟いた後、すっと立ち去っていった。
果たして主君晴元に目通りした遼太郎は彼から家宝「姥口釜」を与えられたのだった。家宝を譲られることは一端の士として認められた証でもある。

それに留まらず、細川晴元はすこぶる上機嫌で、家臣一堂に望みのままに俸禄を挙げる事を約束したのだった。晴元の長女・桜はそんな父の気前の良さに微笑ましく感じつつも、屈託のない笑いを浮かべる横顔を何度も見るうちに一抹の不安を抱くのだった。
経済力にやや余裕が生まれてきたところで、人事の刷新があった。
岸和田城の軍事奉行に山中竜之介が抜擢されたのだった。竜之介は遼太郎と北水館で机を並べた同門の士で、没落貴族の出という変り種だった。竜之介の大抜擢の裏には、遼太郎の功績もあったことだろう。だが竜之介は過程はどうあれ、与えられた役職でその才能をフルに発揮した。まずは埋もれていた在野の士の登用を初めとして、兵の増強に乗り出したのだ。
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