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【2024/04/20 20:35 】 |
乱世の都
「若、新野県庁より人材派遣の打診がありました。」
「県令殿はうちの内情をよく分かった上で、痒いところに手が届くような政をされるな。他者を顧みるなぞ我にはないことだ。見習われば成らぬ、同じ為政者としてな。」
「若の覇業はまだ始まったばかり。百戦錬磨の趙雄殿を真似る必要はありませんが、不足する点があるならば私や鬼龍殿がお支え致します。」
 蘭宝玉はかって董清を教え子として諭していた頃のように、優しい眼差しで見つめた。昔から他者に厳しく当たる分、自分にはそれ以上にする子だった。董清が自身を厳しく律していることを皆知っているからこそ、彼の過酷とも言える指令を唯々諾々と受け入れているのである。
「派遣されてくる人材について詳しい情報はあるのか?」
「2名のようです。まずは黄巾上がりで昨今汝南で雇用された将が1名だそうですが、まだ確定していないようで。私としては資質的に群を抜いている劉辟殿辺りを要望したいと思っています。」
「調整は任せる。してもう1名は?」
「魯蓮と仰られる女性です。表向き県令殿の義妹御ということになっていますが、その実素性が分からない娘を県令殿が預かられているそうです。以前の記憶がないとか。」
「県令殿も酔狂なことよ。この乱世に人助けとは。だがそう思う私の方の器量が小さいということだろうな。」
「彼女については、私の邸宅で預からせて頂きたく思いますが。」
「良かろう。仮にも県令殿に縁あるお方だ。粗相のなきようにな。」
 他、上庸での内政の進捗について2,3の報告をした後、蘭宝玉は退室した。農地の生産効率改善政策及び滞っていた兵舎の建設が始まったようだ。あとは蘭宝玉から申請のあった屯田制の開始、工房、魚市場等の建設が控えている。新野のように募兵と調練、兵装の充実も行わねばなるまい。課題は山積しているが、年が改まる頃までにはある程度形にしておきたいところだ。

 上庸の政庁は下級官吏を残すばかりで、上級官吏は皆出払っているのが常だ。
 先程もそれぞれ一仕事終えて帰ってきた鬼龍と林玲が、僅かな休息を取った後、今度は試験農場の開発をするべく政庁を後にした。
 上庸の開発計画はもうすぐ最終段階に突入しようとしている。今の調子がそのまま続けば、秋の終わり頃には一通りの開発が終わるだろう。そうすれば収穫期の終わりに合わせて募兵や調練を開始できる。本年はまさに山場を迎えていると言って良い。
 魯蓮と劉辟がわずかばかりのお供と共に新野を出た旨は、早馬により上庸政庁にも伝わった。しかし董清の命により、各上級官吏達は開発現場で引き続き陣頭指揮を取り続けている。
「歓迎の宴は先延ばしになるかね。」
「うちの上はそういう気遣いをしない連中だからなあ。」
 下級官吏の噂話はともかく、魯蓮と劉辟にも着任早々、命が下される手はずになっている。まず二人には上庸の風土に慣れる必要があるだろう。最初の試練である。


 秋が訪れた。今年上庸は五穀豊穣の神の恩恵に恵まれ、大豊作となった。
上庸着任後まもなく政務に就く事になった魯蓮と劉辟も満足そうな表情を浮かべている。特に魯蓮による市内巡察の効果は覿面で、見た目に油断して彼女にちょっかいを出そうとした小悪党が物の見事に叩きのめされてからというもの、あっという間にその噂は上庸中に広まり、悪党共は鳴りを潜めた。
 新野からの客将が予想以上に有能で、蘭宝玉は胸を撫で下ろした。無能の役立たずと見なせば董清のこと、穀潰しの烙印を押して、上庸から叩き出していたかもしれない。
 あと一週間も経てば市場や兵舎の開発も終わり、予定としては工房と練成所の建設を残すのみである。上庸都市計画は最終段階へ移行しようとしている。


 新野より戦端を開く準備が整ったとの連絡が入った。だが残念ながら上庸側としては戦を始めるにはまだ準備が追いついていない。年の改まる頃にようやく形が整えられるか、という状況である。鬼龍としては、時が流れるのに任せているうちに宛や許昌で力を蓄えられては、新野側に申し訳ないという気持ちで一杯だ。そこで想定していた兵器開発を後回しにし、あくまで弩兵主体の10000程度の軍勢を用意する事にした。とにかく軍資金が不足しているのだが、房陵港にて相応の税収が上がっている事が分かり、それらを軍備に当てる事にする。いずれ軍監として幹部を赴任させ、上庸政庁に納付させる予定だ。

 蘭宝玉と福貴は先日建設されたばかりの大鍛冶場の視察へとやって来た。
「蘭軍師様、7千強の弩が完成してございます。これで上庸の兵装庫にある2千と合わせまして。9千になりました。」
「まだまだ足りないわね。漢中の張魯を牽制しつつ、宛に攻め込むには3万は欲しいところよ。」
 現場監督者が思わず絶句するのを承知であえて冷たく突き放した。ここの鍛冶場と隣の工房で作られる兵器が今後の董清の生命線となる。たかだか7千程度で満足されても困るのだ。死力を尽くすのは戦場だけではない。ここ後方でもそれぐらいの気概が必要だ。
 上庸では、人・牛馬はそれぞれ仕事が与えられ、忙しくそして無駄なく働いている。建物も瀟洒ではあるが華美な意匠・装飾は一切施されていない。董清の意向を受け、蘭宝玉は乱世の都を作り出そうとしていた。新野からやってきた魯蓮、劉辟もよく働いてくれている。
 気前よく良将を2人も寄越してくれたものだと趙雄には感謝している。まあいくら彼が善良でもタダという訳にもいかないだろう。物資や人材等相応の見返りはするつもりだ。
 また新野県令・趙雄からの内々の頼みで魯蓮には積極的に上庸の巡察や兵の調練を頼んで、なるべく大勢の人や土地と接するように仕向けている。彼女の失われた記憶を取り戻す一助になればと思ったが、今のところ成果はないようだ。


 上庸一帯に始めて兵を募る高札が架けられた。募兵担当が見目麗しい3人の女性将校だった事も相まってか、多数の応募者で溢れかえった。機知に富んだ蘭軍師は言うまでもなく、今や市井の警邏担当として顔が売れている魯蓮隊長、大人しげで保護欲を搔き立てられる林玲武官への人気は高い。
 ただし動乱を見据えた様々なキナ臭い上庸の軍事中心の政策が噂を呼び、憂国の士だけでなく、素行の怪しげな連中までもが方々から集まってきた。無論、そうなると兵力増強とは裏腹に治安が悪化するのは避けられない。兵舎や練兵所が賑やかになる一方、市中では軽犯罪が増加した。董清は直ちに大和に取り締まらせたが不十分である。
 そこで今後は月に2回募兵を行いながら治安を落とさないよう努めることが決められた。軍資金が尽きぬよう配慮しながら、兵装も月に1回ぐらい増産することにした。それを2~3ヶ月繰り返せば、それなりの形になるだろう。新兵を鍛えて精強にする事も忘れる訳にはいかない。開発は一段落したが、上級官吏らに休む暇はなかった。状況が許せば兵器の開発にも着手したいところである。
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【2014/02/21 00:56 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
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