(見つけたぞ!ここにあった。)
(ええ。でもこの中に本当に彼いるの?)
(勘だ。)
(勘?)
(インベリアルの直感を信じろって!おい、もっと本気で引っ張れよ。)
(十分、本気よ。こういう肉体労働系には向いてないの!)
声が聞こえる。。
誰だろう?
・・っていうかここはどこだ?真っ暗で何も見えない。
(あ、やっと開いた!)
(おい、エダジマ!しっかりしろ、エダジマ!)
誰かが拙僧に話しかけている。。
「もう!しゃきっとしなさいよ!しゃきっと!男でしょ?」
「おいおい、バベット。さっきまで生死の淵を彷徨ってた奴に言う台詞か?」
「ふ・・二人とも、拙僧を助けてくれたのか。」
「ようやく気付いたようね。感謝しなさいよ。池の底に沈んでいた棺を引っ張り上げて、あなたを外に出してあげたんだから。」
「ほとんど俺一人でやったんだろーが。」
拙僧の目の前でナジルとバベットが口喧嘩をしている。周囲の惨状さえなければ、数日前に戻ったようだ。いつもならこの辺でアストリッドが二人を制止するのだが・・。アストリッド!
「・・アストリッドに会わねば。」
「嘘!彼女生きてるの?」
「エダジマ、それは本当か?」
「・・・ああ、夜母に言われた。彼女は生きてる。彼女と話せってな。」
「で、どこに?」
「着いてきたら分かる。」
そう言って、拙僧は立ち上がった。
彼女の部屋へ向かう為に。
「アストリッド・・・」
「ひどい・・・。」
「こいつは・・重傷だ。」
拙僧が向かった先に、夜母の言うとおり、彼女はいた。
全身大火傷を負い、見るも無残な姿ながら・・。
「ああ・・・生きて・・・いたのね・・・・良かった。」
「無理をするな。話さなくていい。とにかく治療だ!」
「・・いいの。・・・それより・・・聞いて・・頂戴・。私には・・・時間がないの。・・それなのに・・・・話さ・・ないと・・・いけないことは・・・たくさん・・・嫌になるわね・・・。」
彼女はそれから語り始めた。自分が裏切者だったこと。マロ指揮官に取引を持ちかけられたこと。結果拙僧を売り、一党を放置してもらうことにしたこと。
「ごめん・・なさい。私・・どうかしてた・・。私さえ・・いれば・・何とか・・うまくやれる・・・と思ってたの・・。でも必要だったのは・・・あなた・・・聞こえし者・・・。」
「あんただって必要だ。長はあんただぜ。」
「私ね・・・黒き聖餐・・・を・・したのよ。聖餐・・は私・・自身。」
「アストリッド・・。」
「あなたはやっぱり・・・聞こえし者・・だったのね。ちゃんと・・私の元へ来て・・・くれた。・・・夜母が導いた・・・のね。」
「依頼は何だ?」
「殺して・・・欲しいの・・・私・・を。」
「馬鹿な!何を言ってる!!」
その時、背後で黙って聞いていたナジルとバレッドがつぶやいた。
「楽にしてやれよ、彼女を。」
「長の命令は絶対なのよ。」
拙僧は激高して振り向くと、二人とも唇を噛み締めて泣くのを堪えていた。
そうだ・・二人ともアストリッドとの付き合いは拙僧よりもはるかに長いのだ。
拙僧はアストリッドの胸に短剣を突き立てた。
彼女の最後の表情は、何故か満ち足りた表情だった。
「もう終わりかな・・一党も。」
「長がいなくなったんじゃな。」
「こちらに来なさい・・聞こえし者よ。」
「夜母が呼んでる。」
先程引っ張り出された夜母の棺の元へと戻った。
「まだ契約は続いていますよ。依頼は終わっていません。」
「しかし一党は壊滅状態だ。長は死に、仲間のほとんどが失われた。」
「でもあなたが生きています、聞こえし者よ。あなたは他の誰にも譲れない力を有している分、責任もまた課せられているのです。これからは、あなたが一党を率いるのです。」
それだけ言うと、夜母はまた沈黙した。
「おい、夜母は何て?」
「まだ依頼は続いているんだと。」
「しかし一党は無茶苦茶だ。依頼どころじゃ。」
「拙僧が何とかする。夜母に言われた。今後は拙僧が一党の長だ。」
「お前が!?・・・ああ、しかし妥当な選択だな。」
「私は構わないわよ。どうせ今更足を洗えないし、ナジルに従うよりマシだしね。」
「ふんっ!俺もお前に従うよりはマシだ。じゃ、エダジマ!今後はお前が俺達を率いてくれ。」
「ああ。さっそくだが、この聖域は放棄する。」
「そうだな。とりあえず、ドーンスターの聖域に引っ越すとすっか。おい、バレット!さっさと荷物を纏めろよ。」
「なんであんたがシキるのよ。言っておくけど、NO.1はエダジマに譲るとして、NO.2は私ですからね。」
「な、何でお前なんだよ!」
「当たり前じゃない。レディファーストの観点でも、年功序列の観点でも私に分があるわ。」
「くっ・・こういうのは能力で決めるもんだろーが。」
「あーら、あなたあたしに勝てるつもり?」
「当たり前だろ!」
「・・・もう、その辺にしておけ二人とも!」
新しい長となって、拙僧はナジルとバレットと共にファルクリースの聖域を出る。
ここにはアストリッドを初め、皆の墓がある。
入口の暗号はまた別の物に変えておいた。
これで誰もそう簡単には入れない。
死者はいつまでも、安らかに眠れることだろう。
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