「あなたの腕前と誠実さを見込んで、ちょっとした仕事を頼みたいの。個人的なお願いと言ったほうが良いかしら。」
アストリッドは『守りし者』シセロによる反逆を恐れていた。
シセロの部屋で彼が誰かと話しているのを聞いたというのだ。

反逆を起こされる前に潰すというのが彼女の方針だとか。
そこで拙僧にシセロの部屋に忍び込み、シセロの共謀者を炙り出して欲しいという。

「思い過ごしじゃないか?被害妄想に過ぎると思うが。」

「確かに被害妄想かもしれない。でもこれまでこの被害妄想のおかげで、幾度となく危機を乗り越えてきたの。」
アストリッドの眼差しは、絶えず強い光を放っていた。

拙僧は負けたとばかりに両手を上げた。

「分かった。協力しよう。」
拙僧はシセロの部屋に忍び込むと、まっすぐに夜母の棺へと向かった。
アストリッド曰く、シセロも共謀者も暗殺のプロであり、相当型破りな所に隠れないと、見つかったしまうとのことだった。
うわ~。ミイラがいるよ~。

拙僧ってば、本当にここに一緒に入るの~??
うう・・入っちゃった。
早く出たいよぉ。
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(バタン)(・・・お、シセロが来たな。)
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(ん?どうもシセロはさっきから独り言を言っているようだが。)
「・・・この日が来るのをずっと待っていました。」
ぎゃ~~~!!!出たああああああ!!
いつしか棺の中で、ぼ~っとミイラが光り輝いていた。


あまりの光景に、危うく拙僧は失神しそうになった。

(→現実世界でも作者の鳥肌が立ちました。)
しばらくの間、拙僧は頭の中に直接語りかけてくる夜母の声に耳を傾けることになった。
夜母よ・・・今の話、マジ?
ひとしきり話しきると、夜母はまた単なるミイラへと戻った。
棺の中から出てきた拙僧を見て、シセロは腰を抜かしそうになるほど、驚いていた。

やがて驚愕から立ち直ると、「不敬」だの「不信心」だの散々に罵られた。
だが、拙僧が夜母から聞いた話を伝えると、シセロは今度は驚きと嬉しさでひっくり返った。
「ひゃっほ~!!とうとう、とうとうシセロは『聞こえし者』を探し当てたー!」
・・・そう、拙僧は夜母からの指示を受けて、闇の一党メンバーに伝達する『聞こえし者』になったらしい。
「何?何があったの!?」
アストリッドが室内に躍りこんできた。

ドア付近で聞き耳を立てていたようだが、シセロの興奮した大声を聞いて拙僧を案じ、飛び込んできたとのこと。
アストリッドにも拙僧が先程聞いた話を伝えたが、やはり衝撃だったようで、しばらく黙り込んでしまった。

そして無用の混乱を防ぐ為、拙僧に一時的に口止めするよう言い聞かせると、自室に引き上げてしまった。
呆然としているアストリッドは放っておいて、とりあえずナジルから任務でももらうとしよう。

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