第二次包囲網の脅威も去り、細川領内には久方ぶりの平穏な日々が訪れていた。とは言え、次の戦乱に備え、諸将は鍛錬に明け暮れている。特に織田信長の鬼教官ぶりは有名で、教えを乞おうと連日のように人が訪れていた。
その頃、室町御所では細川家臣団において謀略を担う南光坊天海が、波多野家と三木家の凋落ぶりを主君晴元に説いていた。諜報活動を進めた結果、当主波多野晴通や三木直頼に最早天下を狙う気概はなく、武田家や当家への恭順を促す一派さえ家臣に現れているというのだ。報告を聞いていた晴元は早速彼らを取り込むべく手を打つよう指示をした。三好長慶、北畠晴具がそれぞれ調略に赴くことになったが、およそ半月後には彼らから吉報が齎された。双方共に細川家取込に成功したとのことだった。
岐阜城では竜之介と咲が城下町の整備に共同で取り組んでいた。一時の脅威が去ったとは言え、まだまだ武田家の底力は脅威である。岐阜城を東国の荒波から細川領全土を守る防波堤とし、かつ東国に攻め入る際には前線拠点とするべく、一刻も早くこの美濃の地を栄えさせる必要があった。領民と一緒になって、荒地の開墾や寺の建立などに当たり、共に笑い、共に悩み、美濃の為に何とかしようと必死になっているうちに、二人の信頼関係はより深くより強固になっていくのだった。
「そこのお新香、取ってもらえるかな。」
「やだ~竜之介さんったら、ほっぺにごはん粒が付いてますよ。」
お昼ごはんの最中のやりとりもすっかり夫婦漫才のようになりつつある。先日村の子供たちにもそのことでからかわれ、二人は顔を赤らめたものだ。この人となら・・二人の間に大きくなっている気持ちはすっかり不動のものになりつつあった。
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