先輩の家に向かう途中、ジャルデュルの製材所で働くファエンダルが俺を呼び止めた。
「ちょっと兄ちゃん、頼まれてくれねーか。」

「何です?」
「この町一番の美人カミラに、ちょっと前から軽薄な吟遊詩人野郎が言い寄ってやがるんだ。愛だの恋だの、スヴェンの奴め、スカした言葉を並べ立てやがって!」

「別にいいんじゃないですか?」
「ちっとも良くねーよ!中身のないちゃらちゃらした男にカミラが騙されたら可哀想じゃねーか!」

「はあ・・・・で、どうして欲しいんです?」
「おう。この手紙をな、カミラに渡して欲しいんだよ。ただし、『スヴェンから』と言ってな。頼んだぜ!」
ファエンダルは俺に手紙を託すと、意気揚々として去って行った。
「これって“嫉妬”ってやつですよね、間違いなく。」

「ええ。どうやらファエンダルさんは、カミラさんが好きなようね。」
「しかもスヴェンって人も絡んでて、完璧に三角関係のようですね。」

「それで手紙の内容は・・・」

「えっ、見ちゃうんですか?」
「だって嘘を付くように頼まれたのよ。嫌じゃない?」
「まあ、そうですけど。」
「だったら、中身を見た上でどうするか決めましょうよ。」
そう言うが早いか、先輩は手紙の封をきれいに外して、中身を読み始めた。
「うわっ!これって・・・。」

「ひっどい内容よね~。こんなの読まされた日には、不愉快になって当然よ。送り主のこと、嫌いになるでしょうね。」

「やっぱりそうですよね~。俺もそう思います。」
「で、カイト君は誰の味方?」
「・・・正義です。」
「カミラさんですか?」
「あら、どちらさま?」

「郵便をお届けに参りました。」

「あら、ご苦労さま。」
「ファエンダルさんからなのですが、スヴェンさんからの手紙だと言う様に言付かっております。」

「え?どういうこと?」
首を傾げつつ、カミラは手紙に目を通し始めた。・・・と、みるみる彼女の顔が紅潮していくのが分かった。
「真実を教えてくれてありがとう。ファエンダルがこんなことをするなんて!彼とは二度と会わないわ。」

「まあ、そうなるでしょうね~。」
「あと、この事をスヴェンにも伝えてあげて。きっと彼は喜ぶわ。」
あーあ、ファエンダルにしてみれば、完全に逆効果になっちゃったな~。

(ま、俺が原因を作ったんだけど。)
「ありがとう!そういう話を待ってたんだ!ちょうど宿屋での稼ぎが良くて、今懐が潤ってるんだ。謝礼をもらってくれよ。」
「・・どうだった、正義の味方さん?」
「どうもこうも、俺は信じる道を進むのみですから。」
「ふふ、ちょっとだけ格好いいぞ!」
先輩は軽く俺の頭をこづくと、足取り軽く家の中へと入っていった。
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