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上庸では蘭宝玉を中心として、新生上庸軍が構築されつつあった。幸い、董清の命で宛攻略中も着々と軍備の拡張を進めていたおかげで兵力・兵装は充実している。ただし兵糧が不足気味のため、宛を支援するにせよ、漢中を攻略するにせよ長期戦は苦しいというのが本音だ。上庸軍の増強ぶりに、漢中でも慌てて張魯が募兵を進めていると言う情報も入ってきている。また董清達首脳陣が抜けている今、采配を振るえる閣僚が少ないのも頭の痛いところではあった。已む無く、先日登用した張繍をさっそく市井の警邏に当てているぐらいだ。彼には思い切って董清の事を打ち明けたところ、「あの董公子に再びお仕えできるとは・・。」と感涙して、忠誠を誓ってくれた。董清幼少の砌に何か個人的な縁があったようだが、それはおいおい聞くとしよう。 まずは漢中を短期決戦で一気に落とし、張魯軍の諸将をまとめて吸収して、対曹操戦線の基盤を築くとしようか。 上庸の治安は張繍と魯蓮の奮闘によって改善され、兵の練度は林玲の指導により上がっている。兵糧及び将の人数から言って、編成できる部隊は2~3部隊といったところだ。一気に漢中に向けて進撃し、攻略する。曹操軍が宛に気を取られている間が好機と言えよう。蘭宝玉が漢中に求めるのは兵糧徴収に優れた手腕を発揮する2人の人材すなわち閻圃と張魯だ。彼らを信服させれば、兵站に苦しむ荊北同盟にとって大きな力となるであろう。 宛防衛戦も被害は出るだろうが、蘭宝玉の見立てでは敗れることはないだろうと考えている。諜報の結果、西から来る2部隊は知力の高い武将は存在せず、東から来る部隊は優秀な参謀が副将として付いているものの兵力は少ない。宛城内に蓄えている兵糧こそ十分ではないので、ぎりぎりまで引き付けて一方を混乱させているうちに、他方を集中攻撃して全滅に追い込み、しかる後に残る部隊を殲滅するという大雑把な作戦で十分事足りるのでなかろうか。兵糧さえあれば、武関前に弩兵部隊を2つほど展開させて西からの脅威を一方的に殲滅する方法も取れたが、無いものねだりをしても仕方あるまい。何にせよ、宛攻略戦で見せた周信の手腕が今回も発揮されれば造作もないだろう。加えて賈詡という歴戦の軍師が加わり、武に関しては趙雲に董清、鬼龍らがいる。 「宛は任せましたよ、若、趙雄殿。」蘭宝玉は迫る漢中攻略戦に全力を注ぐことにした。信頼すること、それが一番の力になる。 兵装準備が整った。林玲と魯蓮にはそれぞれ弩兵と戟兵隊を指揮させることが内定している。今回は兵糧不足があり、あえて寡兵で挑むが魯蓮と蘭宝玉の用意した計略がそれを補うことになっている。小粒揃いの将軍ばかりが居並ぶ漢中攻略にはそれで十分であろう。宛防衛戦が終わる頃までには漢中攻略を終えておきたい所だが、残念ながら劉辟が陣頭指揮を執る井蘭製造は間に合いそうもない。攻城兵器が不足する為、できる限り篭城戦には持ち込ませず、野戦で片を付けたいところだ。荊北同盟の軍師を任される蘭宝玉の手腕が今問われている。 「はは・・行ってしまったか。」 乾いた笑いを立てながら、張繍は蘭宝玉達の出陣を見送った。てっきり唯一の男性である自分が攻略軍の中軍を率いるものとばかり思っていたが、蘭宝玉の描いた図面には自分は描かれていなかったようだ。信頼の証であろうが、結局は留守居役を任され戦時中においても常に戦力を増強しておくよう頼まれた。無論、戦場であろうと後方であろうと、董清に忠を尽くすつもりは微塵も変わらない・・・つもりではあるが、なんとなく寂しい気がしないでもない。 宛では次々と送り込まれる曹操軍の増援の対応に目まぐるしい思いをしているようだ。自分ならどうするか。先だってまで苑の太守を務めていた彼は考えてみた。増援といっても要は逐次投入を繰り返す愚を曹操は犯しているに過ぎない。幸い周信が隘路で許褚隊を立ち往生させているようだ。 (自分なら、東側は許褚隊をその場で足止めし続けるかな。幸い敵方に弩兵はいないことだし、あの隘路を塞ぐ形を取れば、後続の部隊は今後いくら出陣してきても全て無力化するだろう。その間に長安から出てきた2部隊を殲滅すれば、全軍を挙げて東側に注力できるというところか。そうなればあの隘路を利用して、手前の部隊から順次潰していけば良い。) ま、戦場から遠い地ではいくらでも気楽に計画を練ることはできる。当事者でない無責任さ故にいくらでも考えが浮かぶと言うものだ。自嘲して張繍は頭を掻いた。とりあえず自分は上庸の募兵に励むとしよう。 曹操出陣の報を聞き、蘭宝玉はすぐさま全軍に上庸への帰還を命じた。 「曹操が出てくるとなれば、話は別です!かの姦雄めの上を行こうと思えば、西も東の備えもあと1枚足りぬ。」 そう呟いたかと思うと、急いで宛の趙雄へと手紙をしたためた。 「一ヶ月で結構です。私に宛での戦闘における全部隊の指揮権をお譲り頂けませんか。もう少し戦いを楽にして差し上げられると思うのですが。」 そして独断専行は承知の上、後で罰せられる事も覚悟の上で、董清・福貴夫婦へ井蘭隊で出撃するよう要請した。 「東より朱涼姫隊と曹操隊が迫っています。許褚隊の混乱の解消を一方が沈め、もう一方が許褚隊を乗り越えて前に出てくることが想定されます。よって我が君には井蘭隊を率い、今すぐ許褚隊に火を射掛けて下さい。兵器に手馴れた福貴様がいれば無理な距離ではありません。撹乱と火計の両方で攻撃すれば、いくら曹操軍と言えど、なすすべもないでしょう。」 さらに宛に残る武将のうち、知力に勝る李厳へと出陣を要請した。 「率いる兵は少数でも構いません。あなたに要請したいのは、敵の撹乱です。翌週には宛に間近に迫るであろう曹仁隊かヒョウガン隊のどちらかを混乱に陥れるのです。」 「鬼龍隊は残る一隊を撹乱させなさい。必ず成功させる事!(←上庸出身者には厳しい。)」 「趙雲隊はありったけの戦法を駆使して、宛の喉元に迫った曹操軍をいち早く殲滅させるのです。長引けば大軍が間近にいることに怯えて、兵が逃げ出す恐れがあります。」 はるか遠方の上庸より、刻一刻と上がってくる間者の報告を聞きながら、つぶさに状況を分析し、矢継ぎ早に指示を出し始めた。 「お見それしたわ。まさか馮玩と許褚を捕らえてしまうなんてね。」 軍師たるもの、個の武というものを当てにしてはいない。それを計算に入れようとは思わない。だが今回は頼もしい事この上なかった。西部戦線については鬼龍隊と趙雲隊で小突き回すよう伝令を発した。兵糧の事もあるので、役目を終えた李厳隊には早々に宛に帰還するもよし、共に曹仁をいたぶるも良しと伝えてある。可能であれば、曹仁すら一騎打ちで捕らえられれば最高だが、無理は言わないでおこう。東部戦線では郭嘉隊をすぐに滅ぼすかどうかは現場判断に委ねる事にした。できることなら郭嘉隊を餌にして、すぐ背後に迫る曹操隊を釣り上げたい。曹操隊が郭嘉隊の混乱収拾に入ったところを混乱させてしまうのだ。さらに朱涼姫を籠絡できれば、確実に戦況は好転する。孤立した当主曹操を救わんとして、曹操軍がさらに部隊を逐次投入する愚を犯すことを期待できる。趙雄が育ててきた新野の面々の交渉力に期待したい。 宛に篭る荊北同盟のわずか1万5千の兵が曹操軍をズタズタにしている。これほど滑稽なことはない。蘭宝玉は出すぎた真似をした自分の策を良しとしてくれた趙雄の度量と、自分の策以上の効果を齎してくれた現場指揮官達の才覚に感謝した。 宛の防衛戦は優勢に推移している。列強諸侯の誰もが予想していなかった事態であろう。荊北同盟の武勇は嫌でも中華全土に響き渡ることになる。 そして漢中から進軍してきた張魯軍はわずか1週間たらずで5千もの兵が姿を消すことになった。 蘭宝玉はこのまま漢中を攻めるべきかどうか悩んでいた。今、彼の地には馬騰軍が押し寄せてきている。3つ巴の戦いを演じるか、両者が消耗するのをしばし待つか。 PR |
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