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陽平関の資金が底を尽きかけている。にも関わらず、群がる馬騰軍の将はその数を増しており、最早俸給の遅滞も止むを得ない状態になるのも間近である。上手く行けば関所毎ごっそりと味方に付けられるのではないか。今は裏切り者の宇文通への怒りで一丸となっているが、それも冷めればどうなるか。一気に馬騰軍を危機に陥れることも可能かもしれない。
趙雄の求めに応じて張繍を宛へ送り、留守になった上庸へは張松らを派遣した。元々上庸は兵装や兵器の製造基地として位置づけて建設されていた為、いつ何時でも漢中や宛へ輸送できるように今後も配慮していく予定だ。漢中では到着早々、曹仁が技術開発を命じられて困惑していた。「いきなり出陣を命じられるかと思っていたが・・・。」と弩を渡されて苦りきった顔をしている。生粋の武人として生きてきた彼も漢中軍にあっては柔軟さを求められる。当主の従兄弟だとかの特権もここでは効かない。実力社会の粋たる場所とも言えよう。さて、彼はここで上手くやっていけるのか。 上庸では井蘭の生産と弩の生産が始まった。あまり一辺倒なのも戦略の幅を狭めてしまいかねないので、今後は衝車なども生産ラインに乗せるとしよう。戟や槍も無節操に選択していこうと考えている。曹操軍の領地は今や袁紹や馬騰によって草刈場と化している。曹操軍に打撃を与えたのは我らが同盟軍だが、餌を横取りするかのように両陣営が軍を推し進めている。弱肉強食は乱世の倣いとは言え、一歩間違えれば自分達がそんな立場だったかと思うと、薄ら寒いものを感じずにはいられない。 福貴隊の攻勢は留まるところを知らず、葭萌関もまた一週間とかからず陥落した。 そしてとうとう梓潼まで後一歩と言うとこまで迫った。董清や鬼龍は後から続き、一応護衛と言う形を取っているが、正直まだ活躍する機会はなかった。その分、梓潼攻城戦においては 遺憾なく力を発揮するつもりである。 とうとう梓潼城への攻撃が始まった。福貴隊から放たれる無数の火矢が劉璋軍へと降り注ぐ。たまらず迎撃隊が出てくるが、鬼龍隊と董清隊の攻勢を食らい、既に半壊状態である。 「来週ぐらいには陥落しそうね。」 「さっそく蘭達を読んで、内政に取り掛からせよう。我々はすぐに成都攻略準備に入るぞ。」 「ええ、益州平定はまだ始まったばかりですものね。」 およそ男女の色恋には程遠いが、董清と福貴夫妻にしては随分と和やかに会話が成されるようになった。宛防衛戦、そして今回の遠征と、戦場での共同生活を長らく続けるうちに絆が強くなったようである。董清が林玲を始めとして他の女性との夜遊びをする暇がなくなったというのも大きいかもしれないが。 「無念。」 董清との仕合に敗れ、呉班は捕らえられた。眼前には漢中軍の旗が立てられた梓潼城が見える。その城内でも王甫が脱出に失敗し、捕虜となったようだ。新興勢力の噂を聞いたのがちょうど1年前。はるか宛の地が名も無い勢力により陥落したとの話だった。その時は大して気にも留めていなかったのだが、その後あの曹操軍の猛攻を凌ぎ、逆に曹操軍瓦解のきっかけを作ったとの話を聞いて興味を引いたのだった。しかし、まさか梓潼への攻略を許し、あまつさえ自分が縄の戒めを受ける事になろうとは想像すらしていなかった。運命とは分からないものである。 「良いでしょう。いつまでも防衛に務めるのにも限界があるでしょうし、今の勢いに乗じて襄陽の攻略に乗り出すことを是とします。」 蘭宝玉は湖陽港から届いた申請にしばし黙考してから許可を出した。元々守勢に用いるべき将ではなく、攻勢にこそ生きる者達だ。加えて今は曹操軍の再三の撃退に成功して、士気は最高潮にある。それに同盟相手とは言え、孫策軍がさらに増大するのを見過ごせないという事情もある。彼らが荊州攻略に乗り出してくる前に先じておくのも悪くない。 新野で水上戦が始まろうとしている頃、梓潼では成都攻略準備と同時に急ピッチで開発が進められていた。漢中が馬騰軍に攻め立てられてる以上、益州攻略の要としてここを機能させる必要がある。とは言え、兵装は漢中からの輸送で賄うことにして、兵舎を増設しておく必要があった。劉璋軍が永安まで版図を広げている以上、彼らを壊滅させるには更なる募兵が必要だからだ。兵糧と軍資金の確保は、益州平定後にも必要であるので、市場と農場の拡張も忘れない。 軍事面では荀攸がやってきたことが大いにプラスになっている。彼は兵力の士気を維持する術を心得ており、大掛かりな作戦を実行しようとも兵士の精神的損耗を最低限に抑えられるのだ。彼が演習に加わって分かった嬉しい側面である。これで出し惜しみすることなく、蘭宝玉は頭に思い描いた戦術を実行に移す事ができる。荊北同盟が名実共に充実してきたことで、思う存分采配を振るうことが出来る喜びを彼女は噛み締めていた。 「まずは許昌でしょう。」
宛で議論が真っ二つに分かれていることを聞きつけ、軍師として蘭宝玉は以下を根拠とする意見書を趙雄に提出した。
「迂闊。金がない。」 あまりに急ピッチで開発を進めた為に梓潼では軍資金が底をついていた。蘭宝玉にしても全方面に気を配るうちに、膝元を疎かにしており、反省すべき点である。何でもかんでも私に振らないでよ、と開き直る事ができるのも彼女の美徳ではあるのだが。まあ、うっかりしていたと言えばそれまでなので、資金が唸るほど余っている漢中より取り急ぎ輸送させる事にした。とりあえず成都攻略軍を出立させたら、緩やかに開発を進めていくしかないだろう。 陽平関ではとうとう賃金の未払いが発生し、将兵の不満が渦巻いていた。上手く行けば関ごと丸々引き抜くことができるかもしれない。馬騰軍本隊が陽平関を軽視していれば良いのだが。心配りの細やかな参謀がいれば、忠誠が下がるのを見過ごさず将を天水や長安に呼び戻すなり、資金を輸送するなりするであろう。 上庸で兵器生産が続けられている。攻城兵器の井蘭が既に1機完成しており、衝車が凡そ2ヶ月程で完成する見込みだ。これらは董清の指示で宛へと輸送し、許昌攻略に活用してもらう手はずなのだが、如何せん人手不足で輸送隊の編成ができぬ有様である。そこで最近悪化しつつある上庸の巡察と宛への兵器輸送を兼ねて、宛の武将を一人寄こして欲しいという文を出す事にした。急ぐ話ではなく、衝車完成の頃合を見計らってもらえば良いと書き添えておくのを忘れてはいない。董清も昔に比べれば、同盟相手の趙雄を随分と頼みにし、信頼するようになってきていた。今回の兵器融通もその証であろう。昔の董清からは想像すらできない行動だが、宛での共同生活で趙雄から何か得るものがあったのか、董清自身の為政者としての成長所以か、おそらくその両方であろう。 その頃、はるか華北の地で時代を牽引してきた巨星が静かにその瞬きを止めようとしていた。 袁紹本初。曹操と中華を二分し、その領地の豊かさ、軍団規模の大きさ、人材の豊富さから最も天下人に近いと言われた男である。 だが巨大な権力を意のままに操った彼も死を前にして抗うことはできなかった。 そして巨大すぎる袁家の当主が世を去った後、かの家で待っていたのは長男と三男による骨肉の争いであった。 PR |
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1期が凄く良かったので、観ることは随分前から内定していた2期。
恋人になった2人のその先が観られると言う事で、楽しみにしていました。
・・が、1期に比べると、ちょっとパワーダウンが否めない。
盛り上がったのは修学旅行先でのほっぺちゅうの回でしょうか。
真ん中らへんでこれが来た時にゃ「うおおおぉおお!六花、かわいいぞ、こらぁ!」とハイテンションになったものですが。
この辺で最高潮に盛り上がったけど、その後最終回まであまり起伏のない日常パートに戻ってしまい、ちょっと物足りないままにラストを迎えました。
個人的には原因は新キャラの七宮にありかな~と睨んでます。
ストーリーが何となく小さくまとまってしまったのは、彼女が主人公に恋心を再燃させても、結果として良い子ちゃんでありすぎた点にあったのではないかと。
ヒロインがもっともっと慌てるだけの存在になれば、より楽しめる展開が期待できたのかな、と。
OPは可もなく、不可もなく。
1期に比べると少々・・(以下略。)。
しかし原作が巻数出てないのに、アニメ2期もやるなんて凄いわ。
中2病と恋愛を結びつけた発想がやっぱ面白いんだろうな。(上から目線ですみません。) 評価:C
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「兵を鍛えろ。鬼龍、大和達は戦支度を整えておけ。」 呉蘭隊の先兵が漢中のはるか西に姿を見せたとの伝令があり、董清は旗下の将兵に備えるように号令をかけた。だが張魯を始めとした内政官には、引き続き開発を進めるよう命じてある。例えすぐ隣の土地で戦闘が始まろうとも決して手を止めるなと。従わぬ者は容赦なく斬り捨てるとの下知もあり、董清を畏怖する官吏達は皆、必死になっていた。 魯淑瑛の尽力で、孫策との同盟が成ったとの情報が入った。宛で曹操の猛攻を凌ぎつつ、外交にも手を回す当たり流石である。今度はこちらが見せ場を作らねばなるまい。まずは呉蘭隊を殲滅して景気づけるとしよう。 桟道を必死の思いで通り抜け、やっと漢中へと辿り着いた呉蘭隊を待っていたのは、豪雨の如き矢の斉射であった。長躯してきた呉蘭隊が、漢中平野でまず一息付こうとする場所を蘭宝玉は読みきり、指示を受けた董清、鬼龍、大和、春風達がそれぞれ指揮する伏兵がその場所を包囲するように布陣していた。そんな所へノコノコと現れたのだから、呉蘭隊にとっては災厄以外の何者でもなかった。6千もの兵がまさに一瞬で全滅し、隊長の呉蘭は命からがら梓潼へと逃げ帰った。 「若、趙雄殿より使者が到着してござる。」 先を促された鬼龍が使者を通すと、弩の改良が近く施されること、荀攸を漢中方面へ転属させることへの打診、騎兵隊の創設について使者が手短に説明した。董清が快諾すると使者は喜んで新野への帰途に着いた。 「騎兵隊の組閣の件ですが、打診のあった張繍殿は間の悪いことに、現在、井蘭製造の為に兵器 工房に出かけているところです。約3ヶ月は戻らないでしょう。」 「出来る限り協力をしてやれ。宛は今最も苦しい時であろうから。」 趙雄は董清と数回文をやりとりした後、周倉と裴元紹に難所行軍訓練を課すよう命じた。 さっそく翌日から周倉と裴元紹は兵士達に重量物を背負わせた上で、泥地や浅瀬を歩かせたり、山地を3日間連続で行軍させたりと様々な試みをしている。兵士達も最初はへばっていたが、徐々にコツを掴む者達が現れて進軍が円滑になりつつあった。周信が戦の傍ら、彼らの訓練方法を教本として纏めており、いずれは荊北同盟全軍に行き渡らせる予定である。そうすれば卓越した踏破能力を備えた精強な軍隊を荊北同盟は保有する事ができるだろう。 董清は呉蘭隊を殲滅した後、一度漢中軍に都市に戻るように命じた。兵士達に十分な休養と訓練を課した後、いよいよ益州攻略に臨む予定である。 漢中では逸る将兵の気持ちを宥め、黙々と新野から伝わってくる踏破新技術の鍛錬が続けられていた。だが地道な訓練に嫌気がさしている者が大勢だった。 陽平関を寡兵で封鎖している林玲の武勇が伝わっていることもあり、兵士達は皆昂揚を押さえられない様子だ。奇声を発したり、剣を闇雲に振り回したり・・という者が出てきている。董清の厳命の下、厳しく上級官吏が目を光らせていなければ即治安の悪化に繋がりかねない。それほどに漢中では好戦的な気分に満たされていた。当初は多少の兵士の脱落は已む無しとして、強引に益州攻略に乗り出そうとしていたが、折角趙雄から申し出があったこともあり、董清が益州進攻時期を技術の確立に合わせることにしたのも遠因としてある。戦に向けて気分を高めていたところを肩透かしを食らった感じになったのだ。すでに福貴、大和の井蘭隊を攻略の主軸とし、鬼龍と董清自らが弩兵隊にて出陣することが決まっており、あとは漢中開発の進行や馬騰軍の侵略などの状況にもよるが魯蓮の戟兵隊が予備兵として内定している。だが董清の命は絶対であり、兵士達の不満を押さえつけるべく、更なる過酷な訓練を課して何も考えられないようにしようとしていた。 大和「皆に抱えてもらう重量は昨日の2倍だ。それに今日から平地でなくて、山登りすっぞ。皆、がんばれや。」 福貴「井蘭隊も例外ではありません。どんな悪路であろうと、予定通り進軍する事。気張りなさい!」 「何か一度耕した田畑をもう一回耕しなおしている気がするねえ。」 「うむ、俺もそうだ。集約した鍛冶場をもう1回作っているような。」 漢中では諸将が既知感を覚え、戸惑っていた。 「……やることはいつも通りだ。とにかく、畑を耕す。」 鬼龍が静かな声で宣告する。ここ数ヶ月余りの農場暮らしで、随分と泥沼感というか百姓らしさが出てきたようだ。 西の開発地では農場が各地で耕作中で、東では市場の建設計画が効率よく進められている。もう少し農民と人員に余裕ができてきたら、いっそのこと大農場への集約にかかっても良いかも知れない。生き残るためとはいえ、自分も随分と庶民感が出てきたものだ、と董清は自嘲する。 「目指すは梓潼!途中の関所はすべて陥落させる。交渉など悠長なことをやるつもりはない。ただちに進軍を開始せよ。」 董清の号令一下、漢中軍が出発した。福貴、大和が率いる井蘭隊が攻城を担い、董清・鬼龍がそれぞれ率いる弩兵隊が迎撃に出てきた敵の露払いを行うことになっている。漢中の開発は順調で、兵糧基地として今後大いに責を担う事が期待されている。益州攻略いよいよ開始である。 同時刻、蘭宝玉は宛の周信宛に書状をしたためていた。 『宛の防衛が成った暁には許昌を攻略できませんか?目標許昌の都・・というより漢帝です。廃帝とするなら別ですが、擁護するのであれば漢権力の中枢を握る事ができます。そうすれば今後様々な研究開発を国家の大計として成す事が出来、国家施設の使用や技術開発員の協力を得られます。開発が進めば、大いに荊北同盟の力となり得るでしょう。検討してみて下さい。』 漢中の開発に目処が付きつつある。馬騰軍の進攻を陽平関で食い止めている林玲の功績が大きいが、新太守として内政の手腕を存分に発揮している魯蓮を無視することもできないだろう。武辺一辺倒かと思いきや、意外と統率力のある一面も見せ、ますます持って彼女の素性が気になるところではある。漢中での開発が一段落すれば、占領予定の梓潼で新たなる開発に携わる者、上庸で募兵をかける者に大きく分かれる予定である。 漢王朝については董清としても何とも思っていない。復興だとかは正直どうでも良く、そういう意味では軽視していることになろう。ただ積極的に滅ぼしたいかというとそうではなく、趙雄同様使えるものは何でも使い切るという姿勢だった。国家の大義なんてものは全く持って重視していないが、それが有効であるならば手中にしておこうかという程度である。そこで趙雄から真意を確認する文が届いた時、董清は至極あっさりと『君側の奸を除き、保護奉るべし。』と返書したものである。宛でのしばしの共同生活の中で、董清の利己的な一面を知った趙雄にはそれで十分伝わるだろう。仮にこの返書が他の諸勢力に奪われたとしても、この文面を見ただけでは言質を取られる心配はない。 「こんなむさい奴らと一緒にいるよか、百倍は面白いかもね。」 蘭宝玉の誘いを受けて、宇文通は宗旨替えを約束した。陽平関の南側へ再三攻勢をかけるべく主張していたにも関わらず待機を命じられ、無能な同胞に愛想を尽かしていたところだった。何をするでもなく鬱々と過ごすのに飽き飽きしていたところだが、大軍でいることをヨシとして弛緩しきっている同胞と異なり、夜陰に紛れて自分の傍近くまでたった一人でやってきた敵軍師の度胸に度肝を抜かれたというのもあった。周囲すべて敵だらけという状況で宇文通は堂々と寝返りを宣言してみせた。と同時に傍らで惰眠を貪っていた張横隊に突進する。散々蹂躙した後、視界の端に怒りの形相で馬玩が隊の矛先をこちらに向けるのが見えた。張横隊も体勢を整えつつある。おそらくこれから自分は死地を迎えるだろうが、不思議と恐れは無かった。むしろ高揚感に満ちている。「何度でも駆けるさね。全軍突撃ー!」 漢中では長らく檻に入れられ、無頼をかこっていた雷銅が荊北同盟の軍門に下った。梓潼への進攻軍は、剣閣が福貴隊の攻撃に一週間と持たずに陥落し意気を上げたところである。 |
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雷銅隊が漢中に取り付くも、董清は構わず張魯を始めとした元張魯旗下の将兵の説得に当たり、全員を傘下に収める事に成功した。 これで漢中を拠点として西涼及び巴蜀に進攻するための人材は整った。一度進攻を始めれば、その地方の勢力を一気に滅ぼすぐらいの気概でいる為、漢中にはそれを支えるだけの備蓄が必要となる。兵装や兵士、軍資金の補充は上庸に担わせるとしても、兵糧は漢中で確保できるようにしておかなければならないだろう。まだ劉璋軍及び馬騰軍が大きな力を付けないうちに短期でそこそこの内政基盤を整えねばならない。またぞろ劉璋軍は部隊を漢中へ進攻させているようである。馬騰軍の進攻は陽平関で食い止め、まずは劉璋を先に滅ぼしたほうが賢明かもしれない。 「寡兵となっても、尚我が城を攻撃する姿勢を貫いた気概は褒めてやろう。だが、退路をかなぐり捨てる奴は所詮隊長の器ではない。」 「うるせえ。てめえを討ち取ればすべて帳尻は合うんだよ。」 「できぬことを言うな。」 雷銅は対峙した董清に斬りかかるも、数合打ち合ってあっさりと捕縛された。馬騰軍は相変わらず劉辟が陽平関で足止めしている。よって漢中防衛戦は、次の劉璋軍の到来までしばらく余裕ができるだろう。それを見届けてから、張魯を始めとした新将達が一斉に開発に取り掛かった。劉辟が対峙している敵にもそろそろ疲れが見え始めたようだ。長らく睨み合いを続けていれば気力も持つまい。敵が息をついた一瞬が、転機である。その瞬間を付いて、何とか井蘭隊を退かせたい。蘭宝玉はその時を静かにじっと待っていた。 漢中では捕縛した雷銅を連れて董清が凱旋した。官吏たちは皆、それぞれの政務の為に出払っており、出迎える者はいない。当主とは思えない姿に、雷銅はふんと鼻で笑ったが一向に意に介さない董清の姿を見て考え込んだようだ。虚飾に溺れる劉璋と、あくまで実を取る彼を比較して思うところがあったようだ。 先の漢中攻防戦を経て、尚残っている施設を中心に街づくりの再生が進んでいる。やはり喫緊の課題は兵糧の確保であろう。軍屯農と農場の開発を優先する意向だが、如何せん西側の開発地は戦闘に巻き込まれる恐れがある為、思うように進められないのが悩みである。呉蘭隊を撃退してから本格的に始めようか。 劉辟を撹乱し続けてきた敵部隊もそろそろ息切れする頃だろう。陽平関をたった一部隊で封鎖し続けてきた彼の功に報いてやらねばなるまい。 魯蓮が捕虜の懐柔に成功した。馬騰軍との仲は悪くなるだろうが、漢中に攻め込んできている敵相手に今更機嫌を取るも何もなかろう。その他の官吏は内政に取り組むか、林玲のように兵の調練を行うものもいる。2ヶ月以内に呉蘭隊が漢中の喉元まで届くところにやってくるだろう。ギリギリまで引き付けて一気に殲滅する予定だ。 宛攻略の為、またも長安より増援が派遣された。逐次投入の愚を犯す事甚だしく、曹操軍の兵は見る見るうちに減少している。長安や洛陽といった大都市も例外ではなく、それぞれの兵力は2万をついに切った。最早嘗ての勢いはなく、袁紹や劉備軍に攻め込まれて版図を切り取られかねない事態に陥っている。 漢中では開発が急ピッチで進められている。とにかく市場と農場の整備が優先され、全官吏が慌しく働いていた。呉蘭隊は漢中に肉薄するまで無視することにした。 馬騰軍は陽平関にて林玲が封鎖を続けている為、心配はないだろう。 |
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董清の指示が伝達され、上庸では漢中及び陽平関の攻略に着手することになった。
蘭宝玉からの指示で魯蓮率いる戟兵隊を前軍とし、攻城主力の中軍は劉辟率いる井蘭隊となった。さらに林玲率いる弩兵隊が援護することになっている。蘭宝玉、張繍、春風は上庸に留まり軍備の増強に励むが、東西どちらの戦線に異常が生じても支援できるよう、準備を整えておく手はずである。 さらに蘭宝玉は宛の趙雄に書状を送った。『次なる技術開発を進めませんか?兵の熟練を高める技術か、輸送を円滑にする技術辺りが妥当かと思うのですが。』 いよいよ上庸軍が出陣した。 漢中では馬騰軍が陽平関を落とし、余勢を駆って攻城を始めている。部隊を率いる韓遂達は一廉の武将だが、如何せん兵が張魯軍よりも少ない為、此度は失敗に終わるに違いない。だが両軍ともに疲弊するのであれば、上庸軍にとって漁夫の利を得る好機である。新野で始められた研究の成果が上がるのを待ちたいところだが、時機を逸するのは避けねばならなかった。蘭宝玉は林玲、魯蓮、劉辟に策を授けて送り出した後、自らは春風と共に弩の増産に取り掛かった。張繍には兵を鍛えなおすよう命じてある。漢中を攻略できても、馬騰や劉璋から守りきるだけの強さが必要だ。 宛で兵達が気勢を上げている頃、漢中侵攻軍は静かに軍を進めていた。 標的はあくまでも韓遂隊ひいては陽平関に居座る馬騰軍の駆逐ということにして、あくまでも隣国の危機を救うことを名目とした出陣であることを謳い、張魯を刺激しないように配慮している。先の上庸へ侵攻してきた張魯軍殲滅以来、急速に関係悪化している両国間でそのような虚言が通用するとは全く思っていないが、建前と言うものも時には必要である。上庸新軍の前軍を率いる魯蓮の統率は見事で、旗下の将兵の動向をつぶさに掌握していた。彼女の素性については謎が多い。 漢中では上庸軍の接近を知らないのか、分かっていても目前の韓遂軍の殲滅に精一杯なのか、一向に防御の構えを見せようとしない。 兵をあまり損なうことなく漢中を制圧できれば重畳だが、それは期待しすぎだろうか。曹操軍の影響力の衰えは甚だしく、次は袁紹や孫策をも視野に入れた戦略図を描いていくことに蘭宝玉としても依存は無い。東の脅威に対抗する前に、まずは西の劉璋や馬騰が弱小のうちに早々に勢力圏に取り込んでしまおうか。 漢中で三つ巴の戦いが始まった。劉辟率いる井蘭隊と林玲率いる弩兵隊が漢中のあちらこちらに火を付けていく。おそらく張魯の矛先は、馬騰軍からこちらへと変わるだろうが、多少の犠牲は止むを得ないと考えている。それよりも天水を出撃した馬騰軍の増援が気になるところだ。漢中攻略と同時に、陽平関共々この2部隊の殲滅を図るよう、蘭宝玉は漢中侵攻軍へと指示を出した。 また趙雄には新たなる技術革新を推し進めるよう献策した。今後戦域が拡大する為木牛の開発を進めるか、軍団の大勢が装備する弩の改良をお願いしたいところである。また東方面の戦略としては許昌の攻略をして、漢皇帝を手中に押さえることを薦めた。それと同時に名だたる為政者がおらず空白地帯となっている汝南を孫策よりも先に我が物とし、東への前線基地とするべく行動を起こすよう促した。 漢中を回り込むようにして、上庸軍は陽平関に肉薄していた。陽平関の南側を封鎖して、敵騎馬隊を北側に封じ込めてしまうのが狙いだ。陽平関をじわじわと締め上げ、敵騎馬隊が関内に入るなら、一緒に葬るまでである。あくまで張魯軍が上庸軍に牙を剥いてきたとしても、残り僅かとなった兵力では最早脅威にはならない。 「良ければ上庸へと戻らせてもらいましょう。漢中攻略というよりも、西涼や蜀取りに赴きたいので。」 趙雄の問いかけにそう董清は嘯いて見せた。梓撞からも部隊が派遣されていると蘭宝玉より文で連絡が来たところだ。漢中という甘い汁を吸いに、欲深い諸侯が蠢動し始めたようである。蛆虫共を一気に殲滅する良い機会であろう。ついでに福貴や蘭宝玉、鬼龍、大和といった自分に付き従う董家の面々の帰還も願い出た。 劉辟隊が馬騰軍の計略に惑わされて身動きが取れなくなっている。早々に陽平関封鎖を林玲と交代したいところだが、それが困難な状況だ。加えて蜀の桟道を雷銅隊が進攻中との報告もあった。副将は法正らしく、できれば2隊で当たりたい相手である。陽平関封鎖に1隊、雷銅隊の殲滅に2隊を回せば良いが、やはりというが長期戦の様相を呈してくると兵糧が心許なくなってくる。上庸からの輸送が命綱ではあるが、木牛の開発が進んでいるのが心底ありがたい。董清が帰還すれば、戦術にも幅を持たせる事もできよう。 漢中がついに陥落した。雷銅隊を迎え撃つには兵を城に入れて休ませる必要があった為、董清は林玲に伝令を送り、城攻めを急遽急がせたのだ。ついでに漢中城に取り付いていた馬騰軍の将も捕縛させた。 当面の間、根拠地を上庸から漢中へ移す事に決め、上級官吏達にはすぐさま身支度をするように命じてある。ただし張繍には井蘭の製造を続けるよう命じてある。久々の董清との再会に感涙する張繍だったが、またもや留守居役を命じられ、がっくりと肩を落とした。 漢中攻略が成り、上庸軍が沸き立つ中、魯蓮は宛の趙雄の元へ馳せ参じるべきか悩んでいた。大恩ある彼の治める宛へ、次々と曹操軍が攻め寄せてきていることは前々から聞いている。今こそ役に立てるのではないか、そう思うのだ。 「くっそおおおおぉぉぉぉーーー!身動きが取れねえ。」 馬騰軍から次々と仕掛けられる計略に嵌り、兵達が混乱の極みにある。劉辟は必死に沈静化を図ろうとするも、次から次へと諜報の罠にと兵達が嵌るので、宛らイタチごっこの様相を呈している。兵糧が心許ないので、出来れば他部隊と入れ替わりを行いたいとこだが、漢中でも雷銅隊殲滅に忙しいらしく、当面援軍は期待できそうもない。幸い、自部隊が陽平関の封鎖を続けているおかげで、騎馬隊ばかりを擁する馬騰軍はいくら増援を増やそうとも計略を仕掛ける以外に何も出来ないようだ。陽平関からの逃亡兵も増えてきており、上手く遣れば馬騰軍も曹操軍同様に衰退させられるだろう。 寿春の兵力が膨張している今、汝南攻略に当たり、孫策軍が脅威であることは間違いない。強気の戦略しか打ち出してこなかった董清としては同盟なぞこれまで考えた事もなかったが、こと経験値は趙雄の方がはるかに上である。蘭宝玉と相談し、趙雄の判断に賛成する意を宛から派遣されてきた使者に伝えた。 |
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