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【2024/04/26 14:24 】 |
n067 夢幻の如く (蠣崎家)12
「秋田勢が国境付近で良からぬ動きを見せております。我らは各々1万5千の兵を率い、総勢6万の兵にて奴らを殲滅いたします。2万の兵を残していきます故、殿と分部殿には大浦城をお守り頂きたく。」

 大浦城の大広間にて、主君蠣崎季広を前に、城主沼田祐光が言上を述べていた。早急の事態が発生したと沼田が皆を広間に集めたのだった。沼田の後ろには彼に付き従う重臣・戸沢、戸蒔、佐久間の姿がある。

 沼田の主張におかしなところはない。季広の元にも別ルートで情報は届いている。沼田が言い出さなければ、季広の方から切り出そうと思っていたところだ。下座に控える分部の方を見ると、彼は黙って首肯してみせた。彼にも秋田勢の動向は伝わっているのだろう。しばし沈黙の後、季広は諾という判断を下した。
「よかろう。見事秋田兵を撃退してみせよ。」
「はっ。決して遅れは取りませぬ。では我らは戦支度が在りますゆえ、これにて御免。」
 沼田は季広に頭を下げると、戸沢、戸蒔、佐久間を従えて退出した。大浦城内は戦支度でてんやわんやの状態である。その中、分部はひとり難しい顔をしていた。
(殿は供回りの者をほとんど連れずに来られている。私が大浦城に率いてきた手勢は1万程度だ。大浦城に残る沼田殿子飼いの兵が他に1万。合わせて2万だが、それに対して諸将が率いる軍勢は各1万5千。もし一隊が謀反を起こしたところで、数の上では城内の兵が上回っている。しかし1枚岩とは言い難い。さらに謀反を起こす部隊が1隊どころでなかった場合は・・。いかん、どうやら私は准太殿や虎太郎殿の懸念に犯されているらしい。悲観的すぎたか・・。)

 しかし分部の懸念は最悪の形で的中することになる。

 沼田は国境へと兵を向けなかった。もともと秋田家の国境での蠢動自体が陽動である。先の一戦でもそうだったが、沼田と秋田家には秘密裏に固い密約が交わされていた。秋田家が沼田の復讐を手伝う代わりに、蠣崎家の領土を一部秋田家に割譲するというものだ。そしてゆくゆくは沼田と秋田の共同統治により、蝦夷と東北を支配するということになっていた。
 先の戦は季広や蠣崎家の重臣共を信用させるためのポーズであった。無論、密約の内容を知らされているのは一部の者に限られており、あえて情報を与えられず、見せ掛けの犠牲となってもらった者もいた。そういったもの達、例えば非業の死を遂げた安藤愛季達には申し訳なかったが、しかし彼らのおかげで、沼田は蠣崎家中の目を欺くことに成功し、千載一遇の好機が訪れていた。ここまで大兵力を動員しても、最早彼らを制止するものは蠣崎領内にはいない。

 城を出たところで沼田は兵を2つに分けた。沼田と佐久間率いる3万は大浦城に取って返し、戸沢と戸蒔率いる3万は十三港へと向かった。戸沢と戸蒔が狙うのは鶴目華虞から到来する6万の増援だ。輸送兵団を率いるのは青山晴雅だが、いかな強者の青山とて、率いる兵の大多数が武装を解除しており、即戦力となるのがわずか数千の護衛船団のみともなれば苦戦は必至である。しかも周囲に全く敵のいない完全な蠣崎領内で襲われるのだ。動揺するなというのが無理である。
 
 さて沼田が集めた兵のうち、大半が金でかき集めた傭兵である。欲得づくで動くもの達だが、それを生業にしているだけあって、通常の兵よりも戦慣れしており強い。しかし忠誠心は一切期待できず、形勢不利とみれば一目散に逃亡しかねない連中でもある。子飼いの兵達はとある任務を授けてあえて大浦城内に残してきた。気心の知れた兵抜きで戦わなければいけない沼田にとっても、これは一種の博打にも似たような状況であった。
(ふっ。それもまた一興・・。味わうのは勝利の美酒か。それとも敗北の苦汁になるか。すべては2つに1つ。操ることができればよいがの、運命というやつを。)
「敵は大浦城にあり!者ども進めえ!!」
おおおおおおおーーーーー!おおおおおおおーーー!!
おおおおおおおーーーーー!おおおおおおおーーー!!
 地鳴りと見紛うばかりの雄叫びを上げて、沼田および佐久間率いる3万の兵が粛々と行進を始めた。


「空模様が怪しいな。こりゃ嵐でも来るかねえ。」
「青山様。いかな大船とて、嵐ともなればひとたまりもありません。しかも船にのる兵は万を越える大軍。失うわけにはいきませぬ。ここは一刻も早く十三港に向かうようお下知を。」
「しゃーないわな。漕ぎ手には申し訳ないが、酷使させた分は十分褒美を見繕うとして、気張るように伝えてくれや。」
「はっ。其の通りに。」
 青山晴雅は鶴目華虞を出発してからずっと、内心気の休まる暇がなかった。何せ6万もの非武装の兵を一息に海を渡らせようと言うのである。戦場での槍働きが得意な彼ではあるが、こういった後詰のような任務にも長けているかというと決してそうではなかった。とは言え、他に適任がいるわけではなく、彼自身が大根であろうと何だろうと、この舞台の演者が彼以外にいない以上、終幕まで彼がやりきるしかないのである。船の手配から、船を操船するものたちの割り当て、乗船する兵士たちの分担・・・何から何まで彼一人でこなし、どうにかこうにか洋上までやってきたのである。そして彼自身にとって最も過酷な任務もあと一月もすれば終わるはずだった。
「青山様。前方に船が見えます!」
「ん~?船だあ?一体どこの?」
 ヒュンヒュンヒュン!・・・ゴォォォォォ!!!
「敵襲!敵襲!二番船が左舷前方に火矢を射掛けられ、炎上しております!」
 
 鶴目華虞から大兵団を移送中だった青山晴雅は、突然戸沢盛重、戸蒔義広の両軍に急襲された。綿密に計画を立てた上での襲撃らしく、敵の動きに無駄がない。3万の兵は有機的に連携し、効果的に戦果を拡大させていった。二番船に続き、三~六番船までが沈められ、今は七、八番船が襲われている。あまりの手際の良さに、輸送戦団は大混乱に陥ったが、晴雅は冷静に状況を分析していた。
「状況は悪いが、ただ逃げ出すんじゃ、根性ねえよなあ。展望なんてあるわけじゃねえが、クソ度胸と腕っ節ひとつで何とかするしかねえ。」
「しかし敵の兵はざっと3万。対して我が方の武装兵は1万程度、しかもその半数はすでに海に沈められていると思われます。戦いにもなりません!」
「泣き言を言う暇あるなら、結果を出せ。勝利の女神はやる事やった奴だけに笑ってくれるんだよ。男ならば潔く散ってやるぐらいの覚悟で挑め。」
 ヒステリーを起こしている参謀を叱咤し、晴雅は劣悪な状況を打破すべく、指揮を執った。

 晴雅は残り少ない味方船を集結させて、一気に敵前線旗艦と思しき、大船に突入させ、炎上させることに成功した。指揮系統の乱れた戸沢、戸蒔両軍は前線が混乱した。この状況に持ち込むまでに晴雅軍は更に2割もの兵を失った。
 だが晴雅は、敵前線の混乱の機を逃さず、中央突破の強攻策を取った。集中砲火を浴び、どんどん味方兵が失われていく中、ついに晴雅の乗る船は戸沢、戸蒔両名の乗る船に突撃した。自船を沈没する様を顧みることなく、晴雅は敵船に乗り移ると、体中に矢を受け、刀傷を負いながらも、とうとう壱の太刀で戸沢盛重を斬り、返す弐の太刀で戸蒔義広の胸を貫くことに成功する。だがこの一戦だけで数十人もの魂を啜った晴雅の名刀の命運もそこで尽き、折れてしまう。獲物を失った晴雅はそこで力を使い果たしたかのように倒れふし、沈みゆく船と共に姿を消した。

 
  こうして輸送船団はただの一兵も残すところなく壊滅した。



 小姓は語った。
 
 沼田と佐久間の軍は、突然大浦城に襲い掛かってきた。急襲を予測できなかった季広と分部はあえなく、外堀を突破された。しかし分部の采配が光り、戦いは大浦城内に一兵たりとも侵入させることはなかった。内堀を挟んで戦いは膠着状態になるかと思われた。後は救援の兵を待てばよい。だがそれは希望的観測でしかなかった。
「十分引き付けてからだ。まだだ。まだだぞ。衝動を抑えるんだ。敵との間隔を冷静に探れ。・・今だ撃て!」
「手の開いたものは、鼓を打ち鳴らせ。動くことのできないものを腹の底からどよもせ!この逆境の中、誰でもない己自身を奮い立たせるために。」
 神がかり的な分部の指示が城のあちこちで実行に移された。
(感覚を研ぎ澄ませろ。慎重に流れを読み切れ。一瞬の反撃の機会も逃すな。果たして現状の勝ち目はどれぐらいだ?少しでも可能性を高める為に今の私に何が出来る?)
「それでもやるしかないか。」
 自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。


 小姓は語った。

 膠着状態が崩れたのは突然のことだった。大浦城内に潜んでいた刺客に襲われ、分部が負傷した。更に分部負傷の報を聞いて、混乱した大浦城内に追い討ちをかけるように、城内に留め置かれていた沼田傘下の兵がこぞって謀反を起こした。外と内の2つの敵を同時に相手することになり、城内は最早組織立った戦いは不可能になっていた。
 呼応するかのように、沼田軍から総攻撃を告げる鬨の声が上がった。あの時の恐怖は忘れたくても忘れられない。
「準備を整えろ!完勝の瞬間を同盟軍の秋田勢に見せ付けるのだ。くぐもった迷いなど捨て、今は只管に私と共に栄達の階段を駆け上がることだけを考えろ!」


 小姓は語った。

 分部の手引きで、季広はわずかな供回りと共に大浦城からの脱出を図った。混乱する城内にあって、それは至難ではあったが、決して不可能ではなかった。城外の沼田・佐久間両軍の包囲網の薄いところを抜けさえすれば、その先には味方しかいないはずである。そもそもここは蠣崎領なのだ。この死地さえ乗り切ればなんとでもなる。季広にずっと付き従ってきた小姓の思いは決して楽観的なものではなかった。事実はまさにその通りであったのだから。

 この日の分部はまるで神仏の加護でも受けているようだった。本来分かりえるはずもない包囲網の盲点を見抜き、負傷の体を押して、自ら沼田兵に突っ込みその小隊の隊長を切り伏せ、混乱している隙をついて、季広を連れて囲みを突破し、追手をも振り切った。大浦城を脱出してから、まだ数刻しか経っていないが、彼の英雄的功績がなければ、今頃季広一行の命はなかったであろう。

 
 だが、それでも軍師・沼田祐光の知謀の上をいくことはできなかったのだ。


 小姓は語った。


 実は沼田の包囲網は幾重にも張り巡らされていた。分部たちが突破できたと思ったのはそのうちの一部でしかなかったのだ。山中の小さな泉の傍で小休止を取っていた季広一行は、そこで沼田自らが率いる小隊に急襲された。

 沼田配下の兵と小姓たちが切り結ぶ中、ついに沼田と季広が相対した。一言も交わさず、沈黙と共に近寄った沼田の凶刃が季広を襲う。老いた体を酷使してここまで逃避行を続けてきた季広に、避ける体力などないーーー!
 だが、沼田の刃は季広に致命傷を与えることなく、ただ肩口に傷を負わせるだけに留まった。それでもあふれ出す血は長く放置して良いものではなかったが。

「はぁはぁ。・・・随分と集中できておらんようだな。この期に及んでまだ迷っておるのか?」
「・・わ、わたしはただあなたに認めて欲しかった。認めてもらえればそれで良かった。」
 沼田の凶刃が再び季広を襲い、季広の脚を斬りつける。たまらず季広は膝をついた。

「お前のことは評価していた。将来を托せる男だと思っていた。だが何か行き違いがあったのか。すまぬな。」
「今頃、謝罪の言葉を連ねられてももう遅い・・・。」
 肩で息をしながらも、季広の言葉は力強く沼田の心を抉っていた。だが意を決したように沼田は上段に刀を振りかぶった。
「お覚悟・・。」
 冷たい響きと共に刀を沼田が振り下ろした。

 ずしゃっ。

 覚悟して目を閉じ最期の瞬間を待っていた季広は、自分が今だ優雅に慄いている事に疑問を感じ、うっすらと目を開けた。そこにはーー。
 目の前には季広の前で仁王立ちになり、肩から腰まで真一文字に切り裂かれた分部の姿があった。
「お、お前・・。」愕然とした表情を見せたのは斬った沼田の方だった。希代の策士とは思えぬほど狼狽し、呆然自失の体を見せていた。
「最期の最期まで主をお守りするのが、家臣の務めよ。それに無二の親友に主殺しの汚名を着させる訳にはいかぬしな。」
 分部は最期の力を振り絞り、呆然としている沼田の腹を、彼から奪い取った刀を返して刺し貫いた。そして倒れ伏す沼田と共に自身も崩れ落ちた。

 分部の身を盾にした働きにより、回避できた格好になった季広である。すでに沼田が連れてきた小隊は隊長を失った時点で逃亡し、雲散霧消している。しかし伝令を受けた敵が彼らを放置してくれるはずもない。分部を残していくことに後ろ髪をひかれる思いではあったが、小姓にうながされるまま季広はその場を立ち去った。



 小姓は語った。


 主君・蠣崎季広の最期を。


 季広は佐久間安政の手にかかった。 


ーーその時、既に季広の一行はわずか数人となっていた。季広を始め、皆が満身創痍となっており、疲労も頂点に達していた。

 先を急ぐ季広一行が、突然豪雨と見まごうばかりの矢雨に見舞われた。全身を射抜かれ、皆が一瞬で地に倒れ伏した。季広も例外ではない。最早虫の息で、最期の灯火が消えるのもあと僅かのことだった。
「一度心に住み着いた欲望ってやつは、なかなか拭い取ることはできないもんでしてねえ。・・・夢、そう夢と言った方がいいかもしれません。それも膨れ上がる果てしない夢だ。肥やしになってもらいますよ。私の夢のために。」
 すっと木々の間から姿を見せた佐久間はその綺麗な表情を歪ませることなく、季広の頭上ですっと刀を持ち上げると、そのまま刀を地面に叩き付けた。長い針によって地面に縫いとめられた形になった季広の体はビクビクと何度か大きく痙攣した後、全く動かなくなった。


 蠣崎季広、享年83。東北の雄とも呼ばれた大大名の、無残な最期であった。


「誰も私を止めることはできない。できないんだ。ふわははははは!」
「殿!はるか南方および東方より大軍が見えます。旗印より中村、山中率いる蠣崎の救援かと。このままでは危のうございます。いち早く本陣へお戻りを。」
「ふん!陣には戻らん。最早このような辺境の地での勝敗になど興味はないわ。際限のないこの緊張を伴う勝負から、私はするりと抜け出させてもらうとしよう。」

 その時、佐久間の足を掴むものがいた。たった今、主の命を目の前で奪われ、怒りに震える小姓である。しかし彼も全身に矢傷を負っており、生気漲るのは其の両目ばかりである。
「逃がすか・・。」
「ほう、生きていたか。見上げた根性だ。褒めてつかわす。褒美に最期の瞬間まで苦しみを味わう褒美をやろう。生きていられたら中村や山中に伝えると良い。お前達も早く佐久間の栄光の為の贄になりに来るように、と。」
 そう言って、自身の足を掴む小姓の手をもう一方の足で踏みにじって強引に引き剥がすと、高らかに笑いながら言った。
「私が栄光を勝ち取るために、あとどれぐらいの代償が必要なんだろうねえ。ふう、心が重いよ。」
「何一つ痛みを伴おうとしないくせに。お主が払った犠牲は皆、他人のものだ。」
「おいおい!人聞きの悪い事を言わないでくれたまえ。私は被虐趣味を持ち合わせているわけではないし、快楽殺人も好きじゃない。仕方のないことだったんだ。」
 そこまで言ったところで、佐久間自身の目にも大浦城に迫る蠣崎の援軍の到来を告げるかがり火が見えた。
「長居は無用のようだ。ではこれにて失礼。」
 佐久間は息も絶え絶えの季広の小姓を横目に悠々と闇へと姿を晦ました。佐久間は季広殺害後、完全に行方を眩ませてしまった。織田領に向かう方面に向かって走り去る姿を見たという者もいたが、暗闇の中定かな話ではなかった。
 蠣崎家を出奔した後の彼が、今後繰り返し准太や虎太郎の前に立ち塞がるが、それはまだ先の話である。


 最期に、小姓は語った。


「どうぞ大殿の仇を討って下さい。あの者に、犯した大罪に応じた罰を与えてください!」


 死に間際に季広の最期の様子を伝え聞いた准太と虎太郎は、力尽き永遠の眠りについた小姓の目をそっと閉じてやりながら、佐久間への復讐を誓うのだった。


 この騒乱で命を散らした(行き方知れずも含む)主な人物は以下の通りである。
・蠣崎季広、分部尚芳、青山晴雅、沼田祐光、戸沢盛重、戸蒔義広、佐久間安政

 失われた兵士の数はおよそ13万。蠣崎全軍のおよそ半数以上の兵と大黒柱である主を失い、蠣崎家の命運はまさに風前の灯といっても過言ではなかった。事の次第を世間に知られれば、かつての名声は地に落ち、外敵は一致団結して蠣崎領を食い物にせんと軍を動かしてもおかしくはなかった。

 残党狩りもまた完遂したわけではない。大浦城と十三港に拠っていた謀反軍は一戦で打ち果たしたが、逃亡した兵は多い。

 
 慶広は亡き父に誓いを立てた。「・・父上の志はこの慶広が継ぎます。家臣の意見によく耳を傾け、日の本に平安をもたらしましょう。裏切り裏切られることが当たり前の戦国の世を一刻も早く終わらせまする。その為にはこの慶広、時には鬼にも蛇にもなりましょうぞ。」
 慶広は家督を継ぐと共に、怒りを堪え、軍事面では兵を国境に配置して、秋田家の動きをとりあえずは牽制するだけに留め、外交戦略の建て直しを諮った。まず、息子盛広と最上義光の息女竹の縁組を整え、近年の恨みを互いに忘れることにして、最上との同盟を結んだ。



 また慶広は蠣崎家の人事を刷新し、娘婿の虎太郎を始めとし、准太や義孝に要職を与えて重用し、ここ数年来、手足となって慶広を支えてきた若衆の権限を強化した。彼らを中心に古参の武将達を補佐役として支えさせることにしたのだ。これまでやむなく降りかかる火の粉を払う形で領土を拡張してきたが、これからは方針を転換し、この国に平安を齎す為に、逆説的ではあるが、積極的に打って出ることにしたのだ。それにはこれまで以上に若い者達が其の力を存分に振るう必要があると判断したのだった。


 男尊女卑の根強い時代にあっては、珍しく女性であっても才があると見込めば要職に用いることもあった。准太の妻・雪乃がその代表例である。さすがに職務においても夫婦の相性はよく、准太と雪乃が揃って同じ任務を受けることも珍しくなかった。家柄にかかわらず才あるものを重用する慶広の姿勢は弛んでいた家臣の意識を引き締めることにも成功した。その先見性を武器に、季広の時代に勝るとも劣らない家臣団を作り上げるのに大して時間は必要なさそうである。
 

 蠣崎家に怒涛のように目まぐるしい秋が過ぎようとする頃、とうとう秋田家が兵を動かし始めたとの報が国境の兵から慶広の元に齎された。もともと私欲にまみれた秋田家が、蠣崎の動乱を黙って指を加えて見逃す道理はない。少なからず沼田には投資をしてきており、それらの財や兵を無駄にしてたまるものかとばかりに兵を押し出してきたのである。無論、蠣崎は乱を片付けたばかりで日も浅く、まだ戦力の建て直しが不十分であるとの目算もあった。
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【2016/08/13 10:44 】 | 信長の野望 | 有り難いご意見(0)
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