
南部家からさしたる抵抗もなく、三戸城はあっさりと陥落した。かねてより調略を進めていたことが予想以上に功を奏したようである。周辺の砦や町村を奪われ、三戸城は完全に干上がってしまっていたのだ。歴然とした兵力差の前に、重臣達は皆城に篭るよう訴えたのだが、そもそも武器弾薬どころか兵糧さえままならない状態であった。これでは兵の士気も上がりようがない。
実際に攻城戦が始まっても、要所要所で守備隊の踏ん張りが効かず、戦局は一方的な展開になりつつあった。南部家逃亡兵の増加も後を立たず、ついに残すは本丸のみとなるまで、そう日数はかからなかった。だが准太や虎太郎は勝利目前の状況でも決して慢心することなく、手堅く攻め続けたので、南部側としてもいよいよ付け入る隙すら見出せずにいた。そして城内の兵糧がとうとう底をついたとの連絡を受け、当主南部信直は降伏勧告を受け入れることを決めた。
勝ち鬨を上げる蠣崎軍の中にあって、虎太郎は隣に並び立つ准太を少々複雑な眼差しで見つめていた。いや、正確には准太が身につけている鉢巻を、である。
(やっぱり雪乃は准太のことを・・・。)
ちくりと胸が痛むが、自分の中にある淡い想いは決して外に出すまいと虎太郎は決めている。准太も雪乃も虎太郎にはかけがえのない人である。いたずらに今の関係を壊しかねない真似だけはすまいと決めている。それに・・・虎太郎の懐には彼の身を案ずる伊予姫からの文があった。虎太郎は准太ほどは、男女の心の機微に疎くはないつもりである。伊予姫から向けられる想いと、雪乃へ向ける自分の想い、そして雪乃が准太を慕う気持ちをすべて理解した上で、人知れず虎太郎もまた悩んでいるのだった。

蠣崎季広は外交政策を宇津居伯楼ら重臣一堂に任せ、自身は安定した領国経営を行うため、更なる収益改善を目指して、金山の開発を進めていた。何度も空振りを繰り返したのだが、季広はそれにもめげずに、採掘師共々、根気良く鉱山開発を続けていたところ、ついに金が出たとの報告が上がった。狂喜した季広は己の目で確かめるべく、坑道に出かけたのだが、予想以上に良質の金がふんだんに採れることを知り、安堵したのだった。交易一辺倒だった商人頼みの税収だけでなく、金による安定収入が見込めるのだ。経営力の強化は、きっと蠣崎家の大きな力になること間違いなしである。


やや南では伊達家当主の輝宗が嫡男政宗に撃ち殺されるという事件が勃発したり、真田家に十勇士を名乗る怪しげな集団が集結したり、蠣崎家が徐々に領土を広げてる最中、世間では急速に物語が進んでいるのであった。
「・・・獅子王さん。」
「草次か、何だ?」
「伊達輝宗が死にましたよ。二本松義継の道連れに、ね。」
「ははは。これで東北は益々混迷を極めるな。」
「獅子王さんの思い通りに事は進んでますね、光秀の時も然り。」
「この世は所詮弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。それが理というものよ。」
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