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【2024/04/24 06:56 】 |
取り戻した記憶
 
 武威までの距離も道半ばというところで、前方に河が広がっているのが見て取れた。
「浅瀬を探せ。」
 部隊には投石機もある。移動力に難を抱えるこの兵器が渡河しているところを狙われてはたまらない。攻城における生命線である為、万難を廃す必要があった。幸い、馬騰軍が迎撃部隊を出撃させた様子はない。今のうちに可及的速やかに、北岸へと展開したいところだ。

 
 はるか彼方に砂塵が見える。渡河を終えたばかりの董清に迫り来る敵部隊の情報が伝えられた。
「敵騎馬隊を確認。その数、およそ6千。旗印より将は成功英と思われます。」
「ほほう、天水にて最後の一人になるまで防衛の指揮を執った将でしたな。」
「気骨ある奴じゃねーか。ま、いくら見所はあっても3万に6千で対抗しようたあ、馬鹿のすることだわな。」
「意地・・でしょうか。戦わずして降伏する、という道を馬騰軍は選べないのでしょうな。」
「どちらにせよ。このまま一戦も交えずして終わっては拍子抜けもいい所だ。全軍に通達。全力を持って迎え撃て。」
 董清の下知を受け、鬼龍と大和の隊が展開を始める。
 
最早十八番と言える董清軍の包囲攻撃が始まった。火矢と投石の集中攻撃が成功英隊に襲い掛かる。
「くっ。このままではいかん。」
「英!下がれぇ。」
せめて一矢でも報いんとして、隊をまとめる成功英だったが、そこに若く瑞々しい声が届いた。


 成功英の苦戦を見て取った馬休が4千足らずの兵を率いて急行したのである。
「わ、若!」
「兵を無駄に死なせるな。ここは私が凌ぐ。お前は生存者を武威に返すのだ。」
 馬休が槍を振り回して、縦横無尽に旗下の兵を動かして、周囲の董清軍を牽制する。一時的にその勢いに押されて、包囲陣が崩れた隙を見て、成功英がわずか数百となった兵をまとめて囲みを突破した。
「お前らに武威の地は荒らさせねえ。誰も死なせねえよ!」
 部下の離脱を見届けた馬休は注意を自分に引き受けるべく馬上で吼えた。半ば自分達の安息の地に到来した侵入者達への怒りも混じっている。

「まるで我々が悪のようですなぁ。」
「あながち間違いではあるまい。戦乱の世であれば、立場や見方が変われば善悪なぞいくらでも移ろうもの。」
「ああ、大事なのは己の信念を貫く覚悟だ。鬼龍、大和間違っても俺達が正義だと勘違いするなよ。」

 戦いがあれば、そこには必ず人死が生まれる。それがいかな聖戦であろうと、私利私欲に塗れたものであろうと関係ない。敵方の兵やその家族にしてみれば憎悪の的である。董清は別に詫びるつもりも媚びるつもりもない。ただ率直に憎悪を受け止める覚悟はできている。戦のない世を作る為、自分は悪であろうと構わないとさえ思っている。許せないのは己を正当化して、弱者を民を平気で殺すような輩であり、強者であることに驕るものたちだ。そんな連中を駆逐するため、自分は悪であろうと、忌み嫌われようと何でも良い。
ただ只管太陽の下で正道を歩むのは梁王に任せておこう。民に暖かな光を送るものは確かに必要だからだ。

 
 鬼龍隊から放たれた火矢は確実に馬休隊の兵馬を沈黙させていった。さらに董清、大和隊から放たれる岩石が飛礫となって、4千の兵を襲う。如何に志が高く、その思いが純粋であろうと、馬休のそれは力が伴わない弱いものだった。力なき思いは、儚いものである。見る見るうちに兵を失い、馬休は歯軋りをしながら馬首を翻すことになった。半ば自暴自棄になって、董清隊の本営目掛けて突っ込んだのだが、彼の槍は終ぞ届かず、ただ親衛隊を失うばかりだった。
『もっと力を付けてから出直して来い、青二才。』
遠目に見えた敵将からそう言われた気がして、無性に腹が立った。もう一度敵将の顔を確かめようとして、振り返った馬休の視野に不思議な光景が映った。いるはずのない人を見た気がしたのである。とっくに死んでいた者として諦めていた人だった。あまりのことに一瞬面くらう。自分の初恋の人。だが、彼女は兄の事を愛していて、兄もまた彼女のことを愛していて、自分はそんな二人を祝福しようと、そっと淡い想いを封印したのがついこないだのことのように思い出せる。
「あ、あれは・・・いや、まさか!?」

 
 その後、馬休が再度兵を率いて、董清軍に急襲を仕掛けてきたが、聊か精彩を欠いており、董清に作戦を看破された挙句、完膚無きまでに叩きのめされて武威へと帰っていった。大和はこれ以上抵抗できぬよう、馬騰軍の後方支援を先に潰しておくことを提案し、董清の承諾を受けると、早速兵舎の破壊に取り掛かった。投石機の強烈な一撃を受けて、兵舎は跡形もなく崩れ落ちた。


 同時期に、密名を受けた張松がとうとう陽平関の攻略を開始した。すでに抵抗する気力を失っていた関はあっさりと陥落し、守将楊秋はあっさりと降伏してみせたものだった。大多数の将兵は武威を目指して逃亡したようだが、最早武威にも抵抗を試みるだけの兵はなく、早晩彼らも同じ運命を辿るであろう。

 
 武威の鍛冶場、工房、兵舎、厩舎が悉く破壊され、武威城は丸裸同然となった。残る兵も既に2千を切っており、抵抗すらままならない。迫り来る董清軍という名の死神の存在に民はただ怯え、兵は臍を噛むしかなかった。
 西涼軍総大将・馬騰は私室でただ只管にその時を待っていた。支城は悉く敵の手中に落ち、長子馬超は敵に捕らえられたまま、生死すら定かでない。一時は曹操の魔の手から長安を奪還し、正義は我らにあり!万歳!と喝采を浴びたものだが、それも遠い過去のようである。
 けちの付き始めは、漢中争奪戦で董清率いる新興勢力に先を越された時だった。あの時は、然程気にしていなかった。当時新興勢力は曹操軍とも宛で激突しており、西涼軍と事を構えて2正面作戦になる愚を犯すはずがないとたかを括っていたのだが。だが彼らは曹操軍を追い詰め、帝を保護し、その後も益州や荊州を手中に収めてどんどん勢力を拡大させていった。
 その間、自分達はというと長安こそ奪還したものの、漢中や宛への遠征に幾度となく失敗を重ね、見る見るうちに版図を維持できなくなっていった。
 今、民が嘆き、将兵が苦しんでいるのは長期戦略をまともに描けなかった自分にある。だが愚将と言えど、責を負うことができる。この首一つをかけて董清軍と交渉し、皆の命を救えるのなら安いものだろう。ただ静かに思い残す事のないよう、心の整理をしていると息子の一人が泡を食ったように部屋に飛び込んできた。
「父上!」
「なんだ、騒々しい。」
 その後の馬休の話に、死出の旅路の準備を進めていた馬騰もさすがに目を丸くした。なんと死んだと諦めていた娘同然の桂之が生きていたというのである。しかも敵方の将として。

 

「分かった。降ろう。」
 董清の問いに答えたのは馬騰だった。眼下の董清という男を見ていると、世代交代という言葉を強く意識させられる。老いたる自分と、若く瑞々しい彼とをつい比べてしまうのだ。馬騰の返答を聞いて城内のあちらこちらからすすり泣く声が聞こえだした。老若男女を問わず、戦況が絶望的な状況を承知した上で、ただ自分を慕って残ってくれた民と兵がここにいる。彼らをこれ以上、不幸にする訳にはいかない。
「受諾する。」

 
 そして開かれた城門からまず鬼龍が先陣を切って入城した。これからいろいろと戦後処理が進められるだろう。馬騰軍はここに消滅、西涼は実質的に梁王の版図の一部となった。

  五虎将軍を3人も擁する武威では、兵たちの意気が上がる事、滝を登り天を駆ける龍の如しであった。武威に入城してから善政を敷く梁軍の人気は高く、武威の民達も徐々に梁軍の支配を受け入れ始めている。

 
武威城の一角で林玲、福貴、魯蓮の3人は、酒食を持ち寄り、義姉妹の誓いを交わしていた。予てから示し合わせていた3人である。西涼制圧が成り、ようやく人心地が付いたところで、契りを交わすことにしたのだ。

「私達3人はここに誓う。生まれは違っても、真の姉妹の如く人生を共に生き行く事を。」
 

「こんなに頼れる義姉が出来て私は幸せです。義姉上、今後ともよしなに。」


「姉妹3人が集えば怖い物などありません。この絆は誰にも壊せません!」

 
儀式が終わると義姉となった福貴は魯蓮に告げた。
「さ、早く行きなさい。愛しい人の下へ。」
「姉さま・・・。」


 福貴の優しい眼差しを受けて、魯蓮は頷くと、厩舎に待機させていた愛馬に飛び乗り、安定へと向かって馬を走らせた。安定にいる彼の下へ。すでに馬騰や主だった将は、董清の招聘を受け、梁の国への忠誠を誓っている。その長子・馬超も魯蓮、いや桂之の説得を受ければ拒みはしまい。必ずやその想いは届くだろう。

 

魯蓮(桂之)が馬超の下へと向かった。片道10日という道程である。帰りには連れが出来ている事を福貴は努めて願った。やっと記憶を取り戻し、人生を生き直す事ができるのだ。



 上庸では春風、蘭宝玉、宇文通の3人が義姉妹の契りを交わしていた。昨今の董清軍における仲介ブームに乗った訳ではないが、息の合う3人で固い結束を誓ったのである。
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【2014/06/11 23:28 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
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