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【2024/04/20 18:10 】 |
董卓の血統であること
 
「前進せよ。」
号令を受けて、馬超隊の投降を受け入れた後、董清軍は体制を整え、街道を進み始めた。あくまで第一目標は武威だが、安定に駐屯している馬騰軍の動きが目障りになれば対応できるよう、陣形の組み方は柔軟さを優先させている。特に程銀は復讐戦を果たそうと息巻いているらしく、下手をすれば背後を衝かれる恐れがあった。安定の動向に十分注意を払いつつ、軍を慎重に進める必要があるだろう。
遠く上庸にいる蘭宝玉からは、新たに槍隊に関する技術開発を始めたとの報が入った。新野の主任研究員も随分と様になって来たようである。上庸の実験施設にも随分と綻びが見え出した。老朽化と多大なる負荷を長期間かけ続けたことが要因であろう。遠からず再建設の必要があるだろう。

 
進軍する董清軍に無謀にも安定より迫り来る1隊があった。程銀率いる約5千である。だが対峙するタイミングすら計算していた董清軍は、弩兵と投石機を巧みに展開して、敵軍の接近をてぐすね引いて待ち受けていた。そして不幸な事に程銀は、物の見事に策に嵌ったのである。程銀隊に火矢が立て続けに打ち込まれ、最後は巨石によって人馬ものともに押しつぶされた。程銀自らは然程傷は負わなかったが、一度ならず二度もしてやられたことに歯軋りして悔しがった。が、いくら憤慨したところで後の祭りである。またもや単騎で安定へと逃げ出す羽目になったが、おかげで安定は董清の関心を引いてしまった。
「安定までの距離は?」
「はっ。一両日あれば到達できまする。」
「全軍に通達せよ。先に安定を落とすぞ。」

 
突如進路を変え、安定に向けて進軍し始めた董清軍に対し、程銀が再び復讐戦を挑んできた。が、大した戦術眼を持たない程銀は何度挑もうとも董清の相手ではなかった。阿吽の呼吸で鬼龍と林玲が董清隊の左右に展開し、程銀の予想出現地点を包囲するように陣取る。果たして程銀は読み通りに街道に現れ、火矢や投石の一斉射撃を浴びる事となった。結果として今度もまた敵を一兵も損なわせることなく、隊が殲滅させられてしまい、単騎で安定へと逃げ帰る程銀だったが、そろそろ彼には「兵殺し」だの「死神」だの不名誉な仇名が付けられそうである。

 
何度目かになる。程銀隊を文字通り瞬殺して葬り去り、董清軍は安定の城壁の周囲へと展開を始めた。いや、本来であれば大和隊が攻城に本気を出していればすでに安定は陥落している頃合である。そうなっていないのは、一重に鬼龍や大和が董清に手柄を譲ろうと余計な気遣いを見せているからであった。董清にしてみれば世論や風評なぞどうでも良いのだが、二人に言わせれば『在って困るものではない。』とのことだった。どうでも良いと一蹴すれば、『では、好きにやらせて頂きます。』と美味しいところを董清自らに食べさせようと、あの手この手でお膳立てしてくる。今は正直面倒なので放置しているが、いずれは首でも跳ねてやろうかと本気で思考し始めた今日この頃であった。そんな矢先の事である、福貴が持ち場を離れて董清陣営本拠を訪ねてきたのは。
「どうした?」
「妻が夫を訪ねるのに理由が必要でして?」
「・・・不要だが。」
「お酌いたします。」
福貴が珍しく、お猪口と酒瓶を持参してきた。いかにも長期戦の構えである。天上天下唯我独尊、怖いもの知らずの董清が唯一苦手とする彼女がそのような態度であると、彼としても身構えずにはいられない。だからこそ、福貴の不意とも言える問いに対しても澱みなく答えることが出来た。
「私の父の事をどうお思いですか?」
「言わずと知れた漢の高官だ。高き地位と大きな財を成し、随分とご助力を頂いた。そなたら家族同様に民を慈しまれた人格者だ。」
「いくつかの変節を繰り返して得た地位と財です。民に施しを成し、賢君を気取ったのも、いざと言う時に己の盾となり、駒と成るようにとの打算があっただけ。」
「死者を冒涜するものではない。」
「いいえ、真実です。」
「何が言いたい?」
「私、父をずっと蔑んでおりました。醜い本性を知っていたが故に。世間に見せる偽善者の仮面を見るたびに反吐が出そうでした。だからこそ、あなたに出合ったときは新鮮でした。父の権勢に寄生することなく、奢ることなく、媚びることなく、ご自分の足で立っておられた。このような男(かた)が世にはいるのかと思いました。胸をときめかせたものです。期待したのですよ、その強さに。孤高を恐れず、信念を貫く毅然さに。父には終ぞ得られなかった真っ直ぐさに。」
「福貴・・・。」
「だからこそ、私はあなたに惹かれました。ただぶっきら棒で、冷たくて、他にも女が大勢いて、結婚したばかりの頃は大嫌いでしたけど。でも何者にも頼らず、己を磨き、高みに向かって真っ直ぐに駆け抜けるあなたを見ていて、理想の人である事に気付いたのです。」
「・・・・。」
「ただここ最近、あなたはご自分の名を高める事に卑屈になっておられる。そのように見えて仕方がありません。もしや董家を、お父上董卓様のことを恥じておられることが原因ではありませんか?」
「そうではない。父など関係ない。忌むべき男だが、恥じたことなぞない。ただ名を上げるのが面倒なだけだ。名なぞ我が覇業に肝要ではあるまい。」
「あなたが珍しく饒舌なのは、ご自分の心を誤魔化されている時です。名声はあればあるほど役に立ちます。何を為すにも通らなかったことが通るようになるでしょう。それが道理というものです。真っ直ぐ高みを目指されるあなたの覇業に名声は欠くべからざるものであることなぞ、当にお分かりのはずです。だからこそ、今のあなたは歯痒くて成りませぬ。どうかご自分の心としかと向かい合って下さいませ。私が愛するあなたは、このようなことで足踏みをなさる方ではありませぬ。」
「董卓の血統であることを認めろということか。」
「世間に流布する必要はありませぬ。ただあなたの心を縛るものを解き放って頂きたいだけですわ。」
「・・そなたの言い分、しかと分かった。」

福貴の注ぐ酒を董清は一息に飲み干した。「まあ、素敵な飲みっぷりですこと。」と福貴がにこやかに笑いかけるのに笑顔で応じて見せた。董清の意志が一定の方向に定まり、そして、やっとこの夫婦の間にあった溝が完全に氷解した瞬間だった。
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【2014/05/25 04:05 】 | 三國志 | 有り難いご意見(0)
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