俺が飛び込んだ塔の中には、あの猿轡をかまされていた人もいた。
「おう、レイロフ。お前も無事だったか。」
「首長、よくぞご無事で。あなたが生きていて下されば、ストームクロークは健在です。」
「ストームクロークって・・・そうかあんたたちは、帝国軍に反抗して戦っている人たちなんだ。」
俺の呟きを耳にして、二人はようやく俺の存在を思い出したかのように、こちらを見た。
「彼も連れてきたのか?レイロフ。」
「すみません・・あの状況で放っておけなくて。」
「いや、それは構わない。君の名は・・・確かカイトと言ったか?」

「そうです。よく覚えてましたね。さっき一回名乗っただけなのに。」

「些か、物覚えは良い方でね。いきなり大変だったな。」
「びっくりしましたよ、他国に来たらいきなり殺されかかるんだから。」

「どうかこのスカイリムを嫌いにならないで欲しい。良い国なんだ、本当は・・・。」
そう語る首長は、遠い目をしていた。
過去の想い出でも懐かしんでいるんだろうか。
「首長!今はまだゆっくりおしゃべりしている暇はありません。早くこのヘルゲンから脱出しないと。」
「そうだったな。まだまだこんな所で死ぬわけにはいかん。」
「カイト!俺と一緒に塔の上を目指すんだ。」
そう言って、レイロフは先に階段を上がっていった。
「殿は、私に任せておけ。」
そう言って、ウルフリックは扉の所に残った。やるじゃん、大将が自ら殿を買って出るなんて。
だが俺達の知らない間に、事態はもっと悪化していた。
ヘルゲンを襲ったドラゴンが、今度は俺達のいる塔に目を付けたのだ。
「うわあ!」
先を進んでいたレイロフが階段から転げ落ちてきた。慌てて俺は彼を助け起こした。
「すまねえ。」
階段の先にはぽっかりと穴が開いていた。
そこから覘き見えるのは・・・
ドラゴン!
「くそっ!この塔に取り付いてやがる!」
ま、まさか・・・そんな、ヤメロヤメロヤメロヤメロ!ヤメテー!
うわあああああああーーーーー!
熱い熱い熱い熱ィィィィ!!!!
ぎゃああああーーーーーーー!!
塔の2階は、ドラゴンから吐き出された紅蓮の炎によって、瞬く間に阿鼻叫喚が渦巻いた。
「そ、そんな。2階には仲間がたくさん、いたのに・・・。」

起き上がったレイロフが呆然と呟く。
塔の中から聞こえていた悲鳴や絶叫が、しばらくして止んだ。
それの意味するところは・・一つだ。
ドラゴンは満足したように飛び去った。
「ようやく、この塔から離れたぞ。」
「・・・カイト。あの大穴から隣の宿屋へ飛び移れ。」
「え?」
「ぼさっとすんな。ドラゴンの去った今がチャンスだ。下には帝国軍がうようよいやがるし、突破口はそこしかねえ!」
「わ、わかった。でもあんたはどうする?」
「後から行くさ。」
無我夢中で塔から飛び移った宿屋は、無論のこと、誰もいなかった。
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