「こぉの、裏切者!」
拙僧がまさにエランドゥルを問い質そうとした時、神殿奥よりヴァーミルナ神官らしき男達が襲い掛かってきた。
こいつらは見覚えがある。
・・さっきの追体験で命令を下していた男達だ。
「違う。そうじゃないんだ!」
エランドゥルは必死に弁解を試みながら、口調とは裏腹に、相手を容赦なく斬り捨てていた。
「どうやら封印が解けた際に、睡眠薬も切れたらしい。邪魔が入る前にさっさと行くぞ!」

エランドゥルはそう言って、駆け出した。
・・・どさくさ紛れに拙僧の質問を無視しやがった。
しかも元同僚達は爺さんを裏切者呼ばわりしていた。
さらに、その元同僚をあっさり斬り伏せるとは、やはり裏があるな。
「やっとじゃ。やっとこの時が来た。」
拙僧が儀式の間に辿り着いた時、エランドゥルはすでに儀式の階段を上り始めていた。
「おい、爺さん。一体どういうことだ?何故爺さんが裏切者呼ばわりされる?」
「ふはははは!ふははははは!」

「おい、爺さん!」
「ははは。いや、すまんすまん。あまりに事が上手く行き過ぎて、気分が良くての。」
「あんた、睡眠薬を散布した張本人だな?」
「いかにも。だが良く気付いたな?」
「ああ。俺は二十数年前のあんたの心に入り込んだんだからな!」
「ほう、私の心の中に?」
「ああ。あんたは睡眠薬を散布後、聖堂に封印を施し、あんたにまで害が及ぶのを防いだ。そして一人逃げ出したんだ。しかも残党オークの襲撃を恐れて、マーラ神官に鞍替えまでしてな。」
「ふむ。そうだとして、なぜ今更、もう一度戻ってくる必要がある?」
「大方、ドーンスターの悪夢騒動を聞きつけて、誰かが封印を解くのを恐れたんだろう。封印が解ければ、神官たちは皆、目を覚まし、あんたの裏切りも許さないだろうからな。その前にあんた自身の手で息の根を止めたかったんじゃねえのか?」
儀式の間に辿り着くまでに、多くの神官とオークが死んでいた。
ほとんどは大昔にすでに息絶えていたようだったが、つい最近の傷もあった。おそらく二十数年ぶりの起きぬけをエランドゥルに襲われたのだろう。
「素晴らしい推理力だ。惜しいな。共にドーンスターを救った英雄として、並び称されるつもりだったんじゃが。」
爺さんはふいに拙僧にナイフを持って、襲い掛かってきたが・・・なめてもらっちゃ困る。
こちとらどんなに油断をしてたとて老神官に遅れを取るようなタマじゃない。
ましてや、今の拙僧はさりげなく臨戦態勢を取っていた。
結果、あっけなくエランドゥルを返り討ちにした。
拙僧は、自身を除いて、本当に生者のいなくなった聖堂で、ひっそりと髑髏を回収した。
今頃、ドーンスターの住民は久しぶりに、安らかな眠りについていることだろう。

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